『1000の小説とバックベアード』佐藤友哉/新潮社 | 砂場

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1000の小説とバックベアード
「1000の小説とバックベアード」
[単行本]
著者:佐藤 友哉
出版:新潮社
発売日:2007-03
価格:¥ 1,575
by ええもん屋.com



第20回三島賞受賞作。僕の一押しであった『みずうみ』を押しのけての受賞ということで、いかほどのものかと読んでみた。ちなみに佐藤友哉は初挑戦。結論から言うと、予想以上に面白くて、三島賞受賞もしかたない。メタ小説風で実験的な内容は筒井康隆が好きそうだ。でも個人的には『みずうみ』のほうが好きだと言っておく。

この物語の主人公は片説家(へんせつか)だ。(片説家と小説家はまったく違う。片説家はチームを組んで、特定の個人に向けて小説を書く。片説の目的は依頼人の恢複のみである)
主人公が片説家の会社をクビになり、突如現れた女性に小説を書いてくれと依頼される。片説家と小説家の存在を問い直しながら、小説を書こうと苦闘する主人公。物語は加速度的に進んでゆき、片説家でも小説家でもない「やみ」の存在が明らかになり、かつての同僚だった片説家たちとの対決、地下深い図書館への幽閉、「バックベアード」や「1000の小説」、「日本文学」など襲い掛かる謎の数々。はたして主人公の運命はどうなるのか、そして小説を書くことはできるのか……。

奇想天外な物語だが、スピード感のある展開と数々の謎で読者を飽きさせずラストまで突っ走る。主人公が登場人物たちと片説家と小説家について意見をぶつけ合うところは、佐藤友哉が実際に悩んでいるようにも思えて面白かった。片説家がエンターテイメント作家のことで、小説家が明治時代の文豪のような作家、「やみ」は既存の小説を破壊して否定して笑いとばす存在、と読み替えると小説を書くということの意味と方向性を模索する主人公は、佐藤友哉の作家としても現在のポジションとシンクロして読み応えがあった。

このような小説に対する挑戦的な内容を、エンターテイメントとして面白く読ませるという力量は素直に評価したい。この小説がはたして1000の小説に成り得たのか、バックベアードの審判を仰ぐというメタ小説風な続編とか面白いと思うので、ぜひ書いて下さい!

★★★★★


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