『雪屋のロッスさん』いしいしんじ/メディアファクトリー | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

いしい しんじ
雪屋のロッスさん

様々な職業をする人たちを描いたショートショート集です。現実にある職業から、町に雪を降らせる「雪屋」なんて変わった職業まで30の物語があります。いい本なので、これからの季節、クリスマスプレゼントによさそうかな、と書店員は思ったりします。

僕は書店員なので、まず本屋さんの話を探しましたが残念ながらありません。でも同じ本にまつわる仕事の図書館の話はありました。「図書館司書のゆう子さん」。この本の中で比べると地味な部類ですが、そこがまた図書館司書らしかったです。変わらない日常のなかに小さな幸せを見出す、微笑ましい話でした。

僕も給料をもらって働いているので「サラリーマンの斎藤さん」も気になるところです。見開きで、2ページ目の半分までしかない短い話です。自分の職業なのでカッコいいものを期待しましたが、残念ながら、これは寂しくなる話でした。でも、カッコ悪いというわけではありません。サラリーマンとは辛いものです。

僕が一番印象に残ったのは「棺桶セールスマンのスミッツ氏」です。棺桶業界のなかでもトップクラスのセールスマンであるスミッツ氏の物語は読むものに涙をさそいます。一番好きな話となると「ブルーノ王子と神様のジョン」かなと思います。公園に住む人たちの話です。この本にでてくる人たちはみんな自分の職業に誇りをもっています。自信をもった働く人たちは誰もが魅力的です。もちろん楽しい話ばかりではなく、悲しみや苦悩も多く描かれています。

と、感想を書いていると、まるでこの本は仕事をする喜びを描いていると思われてしまいそうですね。もちろん、そういった部分も大きいですが、この本で描かれているのは人間の素晴らしさだと僕は思います。この本の帯には「あなたは、何をする人ですか?」と書いてあります。人はみんな、何かをする人です。何もしていないと言う人も、よく考えれば何かをしているでしょうし、本当に何もしていないと言い切る人でも、生きています。誰もが何かをする人なのです。そう思って、この本を読むと、きっと人間が好きになる。そう僕は思います。