『八月の路上に捨てる』伊藤たかみ/文藝春秋社 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

伊藤 たかみ
八月の路上に捨てる


芥川賞受賞作。選評では散々な言われようだった。村上龍のコメントで「現代における生きにくさを描く小説はもううんざりだ」とあったので、どれぐらい「うんざり」するか確かめるべく読んでみた。

主人公は離婚したばかりで、現在アルバイトで自動販売機にジュースを補充する仕事をしている。同僚である先輩女性と車でまわりながら、聞かれるがまま自分の離婚の顛末を語るという構成。先輩女性も離婚経験者で、彼女はその日を最後の職場を移ることになっている。

主人公は学生時代に脚本家になる夢を追っていた。当時、付き合っていた女性とずるずると結婚する。彼女はOLとして働き、主人公は養ってもらいながら脚本を書く。彼女は夢を追う主人公を手助けすることに満足していたが、いつまでも売れない脚本家のままの主人公に不満がつのる。主人公も恩着せがましい妻の態度にストレスを溜めていき、事態は悪循環。彼女は会社を変えるが長続きせず、やがて会社を辞める。自宅に引きこもって精神的にダメになっていく。主人公はアルバイトをしながら脚本を書き、嫁にストレスをぶつける。

夢を追うことが素晴らしいとされる、現代だからこそ起こる悲劇だと言える。主人公は生涯を賭けてまで脚本家になりたいと思っていない。だから夢を諦めて正社員として働く道も選べるはずだが、そこで妻が励ます。妻は夢を追うことが素晴らしいとされる現代だから、夢を追う夫を応援して、自分が働って養ってあげる。まさに「現代における生きにくさ」を描いた内容。

こういう小説を続けて読めば厳しいと思うけど、僕としては「現代における生きにくさ」的な小説は避けて通っていたため、新鮮さがあってそれほど「うんざり」しなかった。悪循環で夫婦の関係が壊れていく展開は説得力がある。ただ、芥川賞狙いで選考委員の年齢に合わせたためか「現代における生きにくさ」というには少し古くさいイメージに思える。昭和の話?という気分だった。