『批評の事情』永江朗/ちくま文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

永江 朗
批評の事情

批評によって、ものの見方・見え方が変わるというのが理想だと私は思います。一枚の写真、一個の彫刻、一曲の音楽が、評論家の一言によってまったく違ったり見えたり聞こえたりする。批評の力というのは確かにあるのです。当の写真家や彫刻家や音楽家さえも気づかなかったことを、評論家がはっきりと言葉にして示す。評論家が言葉をひとつ与えるだけで世界が一変してしまう。そういう評論こそが本物の評論です。

(まえがきより引用)

2001年に書かれた本書は、1990年代デビューまたはブレイクした批評家を永江朗が紹介&批評するという内容だ。充実した内容で、この本で取り上げられている人たちのなかに深く知りたいと思う人がいれば、ぜひ読んで欲しい。批評系に詳しい人でも、これだけの批評家を一冊の本で紹介しているものは少ないので価値はある。それぞれの書いた代表作を読み解きながら紹介しつつ、彼らを批評する。その永江朗の語り口が褒めている時もけなしている時も、とにかく楽しそうなのが読んでいて気持ちいい。批評家について勉強できて、さらに批評というものの魅力も体感できた。5年後ぐらいに、ぜひ2000年代でこんな本を出して欲しい。

本書で紹介されている批評家たちは以下の人たち。現在、活発に活躍している批評家の多くは90年代にデビューしたということが分かる。

宮台真司、宮崎哲弥、上野俊哉、山形浩生、田中康夫、小林よしのり、山田昌弘、森永卓郎、日垣隆、大塚英志、岡田斗司夫、切通理作、武田徹、斎藤環、春日武彦、鷲田清一、中島義道、東浩紀、椹木野衣、港千尋、佐々木敦、阿部和重、中原昌也、樋口泰人、安井豊、小沼純一、五十嵐太郎、伏見憲明、松沢呉一、リリー・フランキー、夏目房之介、近田春夫、柳下毅一郎、田中長徳、下野康史、斎藤薫、かずきれいこ、福田和也、斎藤美奈子、小谷真理、小谷野敦、豊崎由美、石川忠司、坪内祐三

現在、このメンバーでもっと世間的に注目されているのはリリー・フランキーだろう。永江朗は当時(2000年頃)書店の海外文学の棚でリリーさんの著書をみつけたと言って「日本の書店員のレベルはここまで落ちたか」と嘆いている。すいません。そして、リリーさんのコラムをおもしろいと思えない編集者は三十代以下を対象とした雑誌の現場からは外れたほうがいい、とまで言っている。リリーさんのイメージは「東京タワー」であったり「おでんくん」であったり「美女評論家」だったりするが、彼の批評家としての力量が見事に発揮されているのは、邦画評である「日本のみなさんさようなら」だろう。個人的にもおすすめ。

関連書籍

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東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~


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おでんくん―あなたの夢はなんですかの巻

リリー・フランキー
日本のみなさんさようなら