『ジョン平とぼくと』大西科学/GA文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

大西科学, 銀八
ジョン平とぼくと

大西科学 というテキストサイトがある。僕がインターネットを始めた7年前にはすでにあって、ときどき読ませていただいていたので、この本は迷わず購入。日常の出来事に科学的視点をからめて書かれている大西科学のコラムと、ライトノベル小説は隔たりがあるように思っていたが、読んでみるとライトノベル的な文法を使って違和感のない仕上がり。大西科学らしい現実感のある日常的な視点を取り入れて、ドラマチックな派手さが売りのライトノベルにしては「ゆるい」雰囲気となっている。

魔法が日常的に存在する世界。人間には一人づつ使い魔と呼ばれる動物がいる(魔女の黒猫のようなもの)。主人公は魔法よりも科学が得意な高校生で、その使い魔はジョン平という犬。魔法実技の特訓を幼なじみの女の子からうける毎日だが、そんな中、新しい物理教師が赴任してくるところから物語りが動き始める。

ストーリー的には驚くほどひねりがないが、それもライトノベル的ということなのだろう。魔法が日常的に存在する世界という設定のなか、その魔法体系の創りこみかたが大西科学氏らしかった。「人を傷つけるなら魔法を使うよりナイフで刺したほうが早い」と本文にもあるように、この世界の魔法はそれほど強力なものではない。魔女の宅急便の世界に近いだろうか。魔法は特別なものではあるが、万能といったわけでもないというバランスが、独特の「ゆるい」雰囲気を作り上げている。

そんな世界観の魅力も読みどころのひとつだが、もうひとつ注目すべきはもタイトルにもあるジョン平だ。バカ犬好きにはたまらないジョン平。魔法の上手い同級生たちの使い魔は言葉もしっかりと喋るのだが、ジョン平はカタコトなのがいい。「おなかすいたー」とか主人公が何かをしていると「がんばれー」とだけ言う。バカ犬好きの僕としては、ジョン平がいるだけで物語が楽しくてしかたなかった。単発で終わるにはもったいないほど世界観の設定が緻密に作られているので、続編も期待できるかも。