『わからなくなってきました』宮沢章夫/新潮文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

宮沢 章夫
わからなくなってきました

何かエッセイを読みたいなと思ったら宮沢章夫を読むことにしている。といっても、まだ2冊目しか読んでいないが、それだけで宮沢章夫のエッセイの質の高さは身にしみてわかる。こういう信頼できるレベルの高いエッセイを書いてくれる人がいるというだけでも安心できる。

この「わからなくなってきました」というタイトルがいい。これは野球中継で9回の裏に逆転のランナーがでたときなどにアナウンサーが必ず叫ぶセリフということで紹介されている。

アナウンサーの気持ちも理解できないでもないが、だからって、そんな無責任な言い方をしてもいいものなのだろうか。「わからなくなってきました」と口にした瞬間、私にはこの人が、すべての責任を放棄したようにしか感じられないのだ。

アナウンサーと一緒に食事に行ったとしよう。途中までごく普通に食事をすませていたが、あと少しで食べおわる頃になって、その皿を見ながらアナウンサーがため息をつく。残さず食べられると思っていたのに、不意に満腹になったらしい。皿にほんの少し残された料理。食べられるか、食べられないか。アナウンサーは言うのである。
「わからなくなってきました」