『LOVE』古川日出男/祥伝社 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

古川 日出男
LOVE

2005年度三島賞受賞作。この物語には様々な登場人物が現れる。まさに老若男女。東京の片隅で生きる彼らの数時間、もしくは数日間の出来事がこの物語のなかで描かれている。全体を通して語られる物語というものは存在しない。失恋したOL、売れない歌手、殺し屋、料理人、学校の先生、その生徒、番長、リストラ担当者、などなど。ここで語られる彼らの人生の一部分は、彼らが生きていく中での大きな転換期の部分と重なっている(特に変わらない人もいるけど)。といっても、それは彼らに通過点のひとつに過ぎないだろう。読者は彼らの人生の一部分を垣間見るといった趣向だ。

登場人物のなかに、猫を数える人間が何人かでてくる。彼らはその街に住む猫の数を把握し、その多さで勝敗を決する。ここにはどんな猫がいて、あそこにはあんな猫がいて。猫好きの人なら、どの路地に猫がよくいるか知っているものだが、この連中はプロなのでレベルが違う。

そして、猫を数える人が街角にひそむ猫を観察するかのように、著者はこの物語に登場する人達を観察して描写する。猫好きの人が猫を観察する視線と似ているのだろう。猫を数える人たちが猫を把握するために、個体ごとに見つけた位置や時間を把握して、その容姿や行動を記録するがごとく、著者は人間を描いていく。そのようにして、この長編は構成されている。まるで人間の視点からノラ猫を観察するがごとく、神の視点から人間を観察する。猫と人間のどちらが興味深い観察対象か意見は分かれると思うが、この物語の登場人物たちは猫に負けずとも劣らず魅力ある人間ばかり。ノラ猫観察的な感覚で読む、少し変わった小説。