芥川賞とは違ってほとんどの選考委員が受賞作を誉めている。これはこれで選評マニアからすると面白くない。津本陽先生が休んでらっしゃるのが少し心配だ。体調が悪いのだろうか。受賞2作品と僕の一押しだった伊坂幸太郎『砂漠』から選評を抜粋しておく。
- 三浦 しをん
- まほろ駅前多田便利軒
『まほろ駅前多田便利軒』選評抜粋
井上ひさし「ため息がでるほどみごとで爽やかな成長小説でもあった」
平岩弓枝「この作者の年齢の時、私はとてもこれだけの作品は書けなかったと思い知って、また一段と羨ましくなった」
北方謙三「読んでいてひたすら面白いという、小説の本質のひとつを充分に持っている作品だった」
林真理子「若者ふたりの生活が、ややありきたりのイマドキ小説っぽく、私には物足りなかった」
渡辺淳一「とくに男二人の生活はボーイズ・ラブの延長のつもりか、大人の男の切実さとリアリティーに欠ける」
濃密な男女の関係を描くのが得意な渡辺淳一と林真理子の評価が低いのが面白い。男同士の友情もテーマのひとつのようだが、著者がボーイズラブが好きだと知って読むと、またイメージが変わるのだろう。
- 森 絵都
- 風に舞いあがるビニールシート
『風に舞い上がるビニールシート』選評抜粋
阿刀田高「社会と個人との微妙な入り混じりをこの作家は過不足なくみごとに捕らえて一つのストーリーとしている。小説の本道といってよい」
北方謙三「久しぶりに、読みごたえのある短編集であったと思う」
林真理子「この作家の成長の早さというのはただことではない。あまりのうまさは老練という言葉さえ思い浮かべるほどだ」
五木寛之「ういういしい文章と、妙に手だれな部分とが混在するのもまた魅力に一つか」
渡辺淳一「良くも悪くも、よく調べて書かれた短編集である」
収録作を読んでから選評を読むととても納得できる。表題作は綿密な取材の元で緻密に計算されて書かれた短編。その取材量と隙の無い構成は、同じ作家としては賞賛に値するだろう。だが、そういった作者の努力の跡が小説から読み取れてしまうことはまた弱点として上げられる。もうひとつの収録作「ジェネレーションX」が逆に取材量は少なく素材の切り口でみせる技巧的な短編だ。こうも対照的でレベルの高い作品が並ぶ短編集なら、直木賞受賞は当然だろう。
- 伊坂 幸太郎
- 砂漠
『砂漠』選評抜粋
平岩弓枝「これまで伊坂幸太郎さんの作品を愛読し、応援してきた私としては少々、あてがはずれた感じ」
宮城谷昌光「読み手が必ず不満を持つ小説である」
阿刀田高「作者の意図が私には計りきれなかった」
北方謙三「この作者の作品にしては、小説的リアリズムに後退している。その後退が、小説の命の新鮮さを逆に感じさせて、私には、心地よく好ましかった。」
林真理子「小説にリアリティをもたせようとしたのが、中途半端な結果に終わっている」
五木寛之「これで受賞したら伊坂幸太郎ファンが泣くだろう。」
渡辺淳一「軽妙さと反社会性、無気力さとおごりなど、現代の若者の生態を描きたかったのかもしれないが、結果は散漫な印象だけに終わってしまった」
どの選考委員も自分は伊坂作品が好きだといいつつ、この作品はけなすという非常に腹立たしい選評ばかり。伊坂作品を魅力を理解しているなら、こういった的外れな選評は書かないと思うのだが。直木賞の選考委員で伊坂幸太郎の魅力を正面から理解しているのは北方謙三だけと判明。この調子だと直木賞受賞は伊坂が次に文藝春秋社から本を出した時なのだろう。出来レースなんて、つまんないぞ。