『知的生活の方法』渡部昇一/講談社現代新書 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

渡部 昇一
知的生活の方法


大ベストセラー。小説だけでなく書物全般を愛し、読書を趣味として、また人生の糧として楽しむ人間にとって、本書は有意義な内容で、見事な読書のための指針となる。といって著者が読書の方向を押し付けるのではなく、自分の感性を信じて、おもしろいと思える本を読んでゆき、その再読を重ねることが大切だという内容だ。ベストセラーらしく、誰でも受け入れやすい読書論だ。

中高生に大作家の文学(夏目漱石とか)が分かるはずもなく、下手に読んだ気になってしまう弊害があるという指摘は自分の読書歴を考えると納得できる話だ。僕も中高生の頃に読んだきになって、夏目漱石や太宰治などそれ以来読んでいない。確かに二十歳を過ぎて社会にでてから読んだほうが、もっと深くわかるだろう。

以下、気になった言葉の引用

・中学生や高校生に文学を読ませることについて

中学生や高校生がそれを(『吾輩は猫である』)を読んでぞくぞくするほどおもしろくなるわけはない。そんな人がいたら天才であろう。
(中略)
なまじっか「漱石を読んだ」という記憶があるために、漱石がわかる知識や人生経験ができたころには、もう漱石には手を出さないということになることが多い。
(中略)
先ばしって、大人の読むような傑作を子供の読書指導などですすめることが、大人になった日本人の読書生活を乏しいものにしているのに関係があるのではないだろうか。

カール・ヒルティは、子供のころに適切でない宗教教育を受けると、宗教をほんとうに必要とし、かつそれがわかる年ごろにかえって宗教に無関心になる危険のあることを指摘した。(中略)
私はそれを日本の青少年の読書についても当てはまるのだはないかと考えている。

またヒルティは「キリスト教はそれを学ぶ者により多くの人生経験と、特に謙遜の気持ちがあることを前提としているので、かえって修行中の若い人には不適当なところがある」とも言っているが、それと同じように大人の読書を予想して書かれた大作家の文学は、かえって若い青年には不適なところがあると言えるかも知れない。

・自己に忠実な読書

(小説を読んで)自分にはおもしろくないということを公言する必要はないが、ほんとうにおもしろいと思わないものを、おもしろいなどというふりをしてはいけないのだ。他人に対しても自分に対しても。特に自己をいつわってはならない。自己の実感をいつわることは、向上の放棄にほかならないのだから。

この知的な歓びの源泉は、私が少なくとも読書に関しては「自己に忠実」であったことの報酬として与えられたものだと解釈している。少年のころの「おもしろさ」をどこまでも忘れずに、そこに至らないおもしろさは本物ではないとしてきた、そのほうびであろう。

・再読について

このように繰りかえして読むということの意味はどういうことなのだろうか。それは筋を知っているのにさらに繰りかえして読むということであるから、注意が内容の細かいところ、おもしろい叙述の仕方にだんだん及んでゆくということになるだろう。これはおそらく読書の質を高めるための必須の条件と言ってよいと思う。

あなたは繰りかえして読む本を何冊ぐらい持っているだろうか。それはどんな本だろうか。それがわかれば、あなたがどんな人かよくわかる。しかしあなたの古典がないならば、あなたはいくら本を広く、多く読んでも読書家とは考えたくない。まず二、三年前に読んでおもしろかったと思うものを片っぱしから読みなおしてみられるとよい。そしてなん冊か読みなおして、おもしろかったらそれだけをとっておき、また来年かさ来年に読みかえしてみるのである。そうしつづければあなたの古典ができ、いつの間にか読書趣味が鋭敏になっており、本物の読書家の仲間に入っていることになるであろう。

・本を買うことについて

収入が少ないなら少ないなりに、自分の周囲を、身銭を切った本で徐々に取り囲むように心がけてゆくことは、知的生活者の第一歩である。西洋のことわざに、「あなたの友人を示せ、そうすればあなたの人物を当ててみせよう」というのがあるが、私はこう言いたい、「あなたの蔵書を示せ、そうすればあなたの人物を当ててみせよう」と。

別にこれという動機もないときに、いつか読んだ本がふと読みたくなることがあることをだれでも体験したことがあるだろう。その瞬間が極めて大切である。

読んだ本の内容というのものは忘れるものだ。それは唖然とするほどよく忘れるものだ。

知的生活とは絶えず本を買いつづける生活である。したがって知的生活の重要な部分は、本の置き場の確保ということに向かざるをえないのである。つまり空間との格闘になるのだ。そしてこの点における敗者は、知的生活における敗者に連なりかねないのである。

その際(家を建てた場合)、書斎にするところは、はじめから工事者に注文して、床を特別にしなければ後になって必ず抜ける。

・知的生活の敵

ハマトン(『知的生活』という本を書いたイギリス人)は時間を空費させるもっとも大きな敵は、下手な勉強だと言っている。