『78』吉田篤弘/小学館 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

吉田 篤弘
78(ナナハチ)

クラフトエヴィング商会の吉田篤弘が描く、連作短編集。発行が昨年の12月だから本屋大賞には投票できなかった。今のところ、来年度は本書に一票入れたいと思っている。

現代を舞台にした物語と、寓話的な世界の物語が並行して語られる。タイトルの『78』はレコードの回転数。短篇ごとにサブタイトルと同じタイトルのレコードのイラストが描かれている。さすが、クラフトエヴィング商会の仕事だ。心地よい音楽が流れているかのような物語たち。ぼんやり聴いてみたり、耳をそばだててみたり、全身系を集中させてみたり。、どんな風に読んでも味わい深い。もし著者が、音楽を聴いているかのような物語を描きたかったのなら、その試みは大成功なのではないかと思う。

その昔、世界は78回転で回っていた――。

「78(ナナハチ)」という名の一風変わったSP盤専門店を主たる舞台に、置き手紙を残して失踪した店主、常連客の若者―ハイザラ・バンジャック、二人が思いを寄せる女性・カナが主な触媒となって、大昔の伝説のバンド「ローリング・シェイキング&ジングル」、〈失意〉を抱える作家、中庭と犬をこよなく愛する老人、未完の曲を探すチェリストの息子、「夜の塔」に棲む七姉妹などの物語が不思議な連鎖を見せ、ある種、巨大な一枚絵のごときものとして立ちあがる、まったく新しい物語長編。 (出版社ページの紹介文)

帯には「あらゆる場所で、あらゆることが でたらめに響きあう」とある。その言葉どおり、この短篇たちは、それぞれの世界の物語を語りながら、どこかでもうひとつの物語と共鳴している。短篇を読み進めていくと、歌の歌詞に1番と2番があるように、短篇ごとに同じメロディ(構造)だけど歌詞(世界)が違う物語が描かれ始める。そうかと思って読んでいたら、また違ったメロディと歌詞が始まる。別の歌が始まったのかと思えば、さっき聞いたメロディが流れてきたりする。

声はどこへ行ってしまうのか――。
いえ、声だけでなく、すべての音は一体どこへ行くのか。
あなたもまた身近に音楽を感じているのですから、きっとこの不思議を理解できるはずです。オーケストラの一員であるならなおのこと。自分の音が他の楽器と響き合い、それがひとつの音楽となって、また別の誰かの耳に届けられる――。
それで音は本当に消えてなくなってしまうのでしょうか。
それに、あなたの楽器と誰かの楽器が共鳴したように、ここで話しているこの声も、私が気付かないだけのことで、どこか誰かの何かと響き合っているとは考えられないでしょうか?(本文より)


それほど重苦しい内容ではないので、少しくつろいだ気分で読むのがいいかと思う。コーヒーなど飲みながら、ゆったりと楽な姿勢で。音楽でも聴くかのように。