『人間の土地』サン=テグジュペリ/新潮文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

サン=テグジュペリ, 堀口 大学
人間の土地

伊坂幸太郎『砂漠』に登場する西嶋はこの本の言葉をよく引用する。高校時代に万引きで捕まったとき、家裁の調査官(たぶん、『チルドレン』の陣内)から貰って、それ以来、愛読しているという設定だ。表紙のイラストでわかるように、宮崎駿も本書の信者らしい。訳は堀口大学。


職業飛行家としての劇的な体験をふまえながら、人間本然の姿を星々や地球のあいだに探し、現代人に生活と行動の指針を与える世紀の名著。(裏表紙の紹介文より)


昨年から、時間をかけてゆっくりと読んだ。座右の書としてたまにパラパラ捲ってみたくなる本だった。郵便物を飛行機で運ぶ職業飛行士としての体験談などが語られている内容。まだ故障も多く、死と隣り合わせの職業で、命を落とす同僚も多く、またサン=テグジュペリも砂漠で遭難して3日後に奇跡的な生還を遂げるなど、体験談としても名作。


だが、本書が名著と呼ばれるわけは、これらの体験談ではなく、そこからサン=テグジュペリが導きだした言葉にある。


「真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ」


「他人の心を発見することによって、人は自らを豊富にする」


「人間であるということは、自分には関係ないと思われるような不幸な出来事に対しても忸怩たることだ。」


「今日の世界を把握するに、ぼくらは昨日の世界のために作られた言葉を用いているわけだ。過去の生活が、よりよく人間の性情に適するように思われるというのも、理由は、ただ過去の生活が、よりよく僕らの用語にあてはまるからにほかならない」


「家のありがたさは、それがぼくらを暖めてくれるためだけでもなければ、またその壁がぼくらの所有だからでもなく、いつか知らないあいだに、ぼくらの心の中に、おびただしいやさしい気持ちを蓄積しておいてくれるがためだ。」


「一見、砂漠は空虚と沈黙にしぎないかもしれないが、その理由は、砂漠がまだ日の浅い恋人には身をまかせないからだ。」


「サハラ砂漠がその姿を見せるのは、ぼくらの内部においてである。砂漠へ近づくということは、オアシスを訪ねるということではなくて、一つの泉をぼくらの宗教にすることだ。」


「種が芽を出すように、それらの言葉がきみの中に根を張ったとしたら、それは、それらの言葉が、きみの必要と一致したからだ。」


「きみらはいずれも正しいのだ。理屈はどんなことでも証明する。」


「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」


「ニュートンはけっして、謎の解みたいに長く隠れていた法則を〈発見〉したのではなかった(中略)彼は、牧場に落ちる林檎を表現しうると同時に、太陽の昇ることも表現しうる人間の言葉を作り出したのだ。」


「たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが、自分たちの役割を認識したとき、はじめてぼくらは、幸福になりうる」


「死というものは、それが正しい秩序の中にある場合、きわめてやさしいものだ。」


きりがないので、このくらいで。時間を置いてもう一度読めば、また別の言葉が僕のなかに響くだろう。僕が選んだ言葉がつまらないと思う人でも本書を読めば、少なくともなにかしら共感・反感をおぼえるものが見つかるに違いない。人間として生きることに対して真っ向から取り組んだ本書は、生きている人間なら無視できない内容となっている。


経験することが大事なのではなく、そこから何を学ぶかこそが重要なのだとあらためて思う。本書の最後の一文はそんな言葉。ここまできて、はじめてタイトルの意味が分かる。


「精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる。」



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