- 中村 航
- リレキショ
第39回文藝賞受賞作。表紙のイラストが素晴らしい。
帯には「大切なことは意思と勇気、それだけできっとうまくいく」とある。最初、なんだか薄っぺらい言葉で、そんなわけないだろと思った。だけど読み終えて再びこの言葉を読むと、まさしくその通りな気がしてくる。意思と勇気があれば、どこにだって行ける気分になる。ついでに「りれきしょー」と唄うように声をだしたくもなる。
この物語の主人公は不思議な存在だ。"姉さん"に拾われて"半沢良"になった主人公が「履歴書」を書くことから、この物語は始まる。
「正直に書くの」
「正直?」
「そう、正直。適当はいいけど嘘はダメ。好きなことを好きなように、正直かつ大胆に書こう」
ベージュ色の薄手のコートと大ぶりのバッグ。姉さんは出勤の準備をしながら、唄うようにしゃべった。
「せっかく良でいくんだからね」
良でいくもなにも、良は良だ。
「じゃあ、例えは学歴とかは」
「なりたいものになればいいでしょう」
半沢良の書いた履歴書によると年齢は19歳。半沢良は深夜のガソリンスタンドでアルバイトを始める。姉さんとその友人の山崎との宴会につきあう。公園で護身術の練習をする。特技と書いたアイロンがけを丁寧にする。そして"ウルシバラ"という浪人生の女の子からラブレターを貰う。日常を描いているはずが、どこか現実味がないのは半沢良が生まれたばかりの人間のように無垢だからだろう。何ものでもないから、何にでもなれる。
どこか現実離れした雰囲気のなか静かに物語は進んでゆく。大切なのは意思と勇気。だが、物語のなかに強靭な意志と強い勇気が求められる場面があるというわけではない。主人公が意思と勇気を持っているためなのか、物語は何の不安の陰もなく進んでいく。
意思と勇気があれば、大抵のことはうまくいく。意思とは希望や願いを持ち続けることでであり、勇気は行動すること前を向くことかも知れない。可能性に満ちた未来がそこに待っているはずだ。