気ままな床屋 | 砂場

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

長年通っている近所の床屋に散髪に行く。夫婦ふたりの気ままな床屋で、僕が店に入ると客は僕しかいなかった。親父さんと「今年は花粉がすごいらしい」と、たぶんこの時期の床屋でもっともスタンダードな話題を繰り広げるも、見事に会話がもたず、僕は寝に入る。

あきらかに頭の右側にかかった時間より左側が短時間で終了し、後ろ髪へと移行。僕は右側だけ異様に髪が伸びる特殊な体質のわけもなく、これは親父さんが途中で面倒くさくなったに違いない、と寝ぼけながら思っていると、奥さんが自宅になっている2階から駆け下りてきて「○○○○のほうで火事みたいや」と言い残して外に飛び出していく。

髪を切り終わり、髭を剃ろうかという頃に、奥さんが戻ってきた。「○○○○の隣の××××が燃えてるみたいやわ」「あんなとこから、なんで火がでんねやろうな」「△△さんの家は大丈夫やろうか」という夫婦の会話に、椅子を仰向けに倒され、蒸しタオルを顔にのせられた僕は入り込むことができるわけもなく、黙って聞いていた。△△は親父さんの友達のようだ。

「△△のとこは、ちょっと離れてるやろ」「ヘリコプターから水まいたら、すぐ消えるのに」「そんなに燃えてるんか」「なんか、すごい黒い煙があがってたで」。そして、ドアの開く音と閉まる音。蒸しタオルが顔を覆っているために何も見えない僕は、意識を耳に集中する。……確実に店内に人の気配が無い。

息苦しい。さっきの花粉症トークで、僕は鼻炎だと言ったばかりなのに、この仕打ちはいかがなものか。この状態で他のお客さんが入ってきたらどうしよう、などと思っていたら、二人揃って帰ってきた。10秒もなかったはずだが、走馬灯のように色々なことを考えてしまった。「△△のとこは風上」らしい。