お山の妄想のお話です。
一郎
「うえ〜、重かったぁ」
ドンッという音とともに肩から重みが消えた。
ダイニングテーブルの上には商品が詰まったエコ
バックが二つ、両方ともパンパンだが片方に牛乳
パックが三つも入っているので肩が外れそうに重
かったんだ。
「たかが2日分の食料品なのに……やっぱ牛乳が
多すぎるんだよなぁ」
育ち盛りが4人いて、朝にシリアルなどで使うと
しても3リットルは多いと思う。
今までは1日1パックで足りていたのに……
どうして減りが早いのか考えて辿り着くのは二郎
だ、近頃物凄く牛乳を飲む。
そりゃもうガブガブと。
理由は何となくわかってる。
じろは同学年の中では小柄でそれを気にしている
のと、二つ年下のさぶがグングン大きくなってき
て背を抜かされそうだから。
小さいというコンプレックスと弟に対してのプラ
イドで背を伸ばそうとしているんだろう。
まだ中1だし成長期は人それぞれだから気にする
なと常々言っているけど、どうしてか焦っている
みたい。
おいらは小さくて可愛いじろが大好きなのにな…
二郎
今日も朝から牛乳を飲む。
そして給食にも飲む(余っていたら2本)
勿論夕飯時にも飲む。
毎日お腹を壊す一歩手前までガンガン飲んでる。
そんな暴挙に出たのは勿論身体を成長させるため
だ。このままではヤバいという危機感が俺を駆り
立てている……
***
事の始まりは先月のこと、久し振りに双子と風呂
に入ったんだ。
普段は三郎やいち君と入っている弟達だが、その
日は両方とも忙しくて俺が一緒に入ることになっ
た。もう小3で二人でも大丈夫なんだけど、風呂
はスキンシップに最適な場だから。
裸の付き合いで普段話さない事とかも聞けるし。
久し振りに俺と入れると四郎も五郎もはしゃいで
いてちょっと嬉しかった。
先に二人を風呂場へ行かせ、タオルやパジャマを
用意してから服を脱ぐ。裸になり扉を開けると仲
良く体を洗い合っているのが見えた。
「お前達、本当に仲がいいな〜」
「いつもそうだよ!さぶ兄がいる時は三人で洗い
っこしてるし」
「へ〜、じゃあいち君と一緒の時は?」
「全面的に洗ってもらってま〜す」
「えっ?!!マジ?!」
「俺もしろも自分で洗えるのに、洗わせてって言
うから」
「もうすぐ一緒にお風呂に入らなくなるだろうか
ら、だって」
確かに思春期になれば風呂は一人で入るようにな
る、それまでいち君は可愛い弟達の世話を焼いて
あげたいんだろう……
……でも、ちょっと待て。
きっと三郎も双子同様に甘やかされていただろう
けど、俺はいち君に洗ってもらったことなどないぞ??それどころか一緒に風呂に入った記憶さえ
ないんだが。これって贔屓じゃないか?!
納得いかぬ、と悶々としながら体を洗っていると
双子はいつの間にか湯船に浸かっていて、ひそひ
そ話をしていた。
「ねえ、しろ…じろ兄って…さぶ兄よりさ……」
「ごろ君もそう思う?」
「うん。よく見えなかったけどたぶん…」
「絶対いち兄よりも……」
耳に入ってきたのは兄弟の名前、どうやら俺は何
かを比較されているようだ。
身長かな……近頃三郎に成長期が来てどんどん追
いつかれてきてるし…
でも、いち君は俺より背が高いから違う??
何を比べられているのか気になって弟達に訊くこ
とにした。
「お前ら、何ヒソヒソしてんの?」
泡を流して風呂椅子から腰を上げ、二人の前で仁
王立ちになる。
「俺のこと話してたんだろ?言いたいことがある
なら本人に言えよ」
「………でも、言ったら絶対怒るもん」
「じろ兄キレたら怖いし」
五郎と四郎は少し怯えてた、普段躾のために厳し いことを言っているせいかな。
「怒らないよ。だから言って」
このまま有耶無耶にしたら気になって仕方ない。
まだ幼い弟達だからきっと取るに足りないことで
怒るどころか呆れて笑って終わる内容だろう。
そんな風に高を括っていたのに……
「本当に怒らない?」
「怒らない」
「絶対?」
「絶対に」
何回も確認してくるので嫌な感じがした、でも聞
かずにモヤモヤするよりましだ。
その言葉に二人は顔を見合わせ頷くと真正面から
俺を見た、そして五郎がハッキリと言った。
「じろ兄はいち兄やさぶ兄より小さいって話して
た…」
一瞬やっぱり身長か、と思ったが違和感があった
なぜならいち君は兎も角三郎はまだ俺より背が低
いから。
「まてよ、まださぶより俺の方が大きいぞ?」
「えっ?さぶ兄と比べたことあるの?」
訊き返すと二人はキョトンとする。
「わざわざ並んで比べなくても見ればわかるじゃ
ん、まださぶに背を追い越されてないし」
「違うよじろ兄、俺達が言ってるのは背の高さじ
ゃない」
五郎が困ったように眉を下げる。
背じゃなかったら他に比べるものなんかないと思
うけど。
「は?じゃあ、何なんだよ?」
わからなくて再度尋ねると、『それ』と四郎が俺 の腰辺りを指差す。つられて下を見て全てを悟っ
てしまった。
それでも誤認識かもと一縷の望みに縋ったが、
四郎から返ってきたのは最悪なものだった。
「何って……ち◯こじゃん」
「……ち◯こ……」
「久し振りにじろ兄の裸見てつい比べちゃった」
「そ。それでごろ君と話してたの」
ショックだった、まさか年下の三郎に負けていた
なんて……
「今のところいち兄が一番で二番がさぶ兄、三番
がじろ兄かなぁ」
『俺達はまだ子供だから順番外〜』と笑う四郎の
声が遠くに聞こえる……
衝撃な出来事に、その後どうやって風呂から上が
ったのか全く記憶に無かった。
***
気が付くと自室にいた。
暫くぼーっとしていたがハッと我に返り、双子の
言葉が本当か確かめようと思った。
自分の目で確かめないと納得出来ないし。
三郎を探しに行くとキッチンにいて、風呂上がり
らしくパンツ一丁で牛乳を飲んでいた。
確認するのに絶好のチャンス!
俺は気付かれないよう静かに背後から近付き一気
に三郎のパンツを引き下ろした。
「うわわっ!何すんのじろちゃん!!」
突然の出来事に三郎は慌てたが牛乳パックとコッ プを持っているためパンツを引き上げられない。
その隙に前に回り込みじっくりと三郎のJrを観
察した。
「ち、ちきしょう……」
そして無情にも双子の言葉が正しいと判明したんだ。
「も〜っ!いきなり何するのっ!!ビックリして
コップ落とすとこだったじゃん!って、あれ?
じろちゃんどうしたの??」
負けたショックにヘナヘナと跪き項垂れる俺を
心配する三郎、だけど理由は死んでも言えない。
「なんでもない…」
「只のイタズラだったの??」
「……そういうこと」
「変なイタズラやめてよ〜。てか、今手が離せな
いからパンツ上げて〜」
「……はい」
言われた通りパンツを上げると、三郎は『ありが
と〜』と笑ってもう一杯牛乳を飲んだ。
傷心の俺は三郎に背を向けると、ガックリと肩を
落としてとぼとぼと部屋に戻った。
そして布団を頭から被り考えたんだ。
ずっと小さいままだったらどうしよう……
三郎に負けたのはキツいけど、それよりもっと大
きな問題がある。それはいち君より小さいままだ
ったら困るということ。
だって大人になってえっちなことをする時、ガッ
カリさせてしまうだろ。気持ち良くさせるにはあ
る程度の太さや長さは必要だもの……
このままじゃ好きな人を満足させてあげられない
かもしれない……
それは男として非常に残念ってことだ。
自分に自信をつけるためにもどうにかしなきゃ…
それにはまず体を大きくする、身長を伸ばして筋
肉もつける。
ネットで調べてみたら筋肉量が多いと男性ホルモ
ンの分泌を促進しぺ◯スの成長に寄与するってあ
った。要するに筋肉ムキムキならあそこも立派に
なるってこと。
だけどそれは一部の研究者の考えで真実がとうか
は定かでない、遺伝や成長期のホルモンバランス
で決まるって説が有力みたいだし…
けど遺伝やホルモンバランスは自分ではどうにも
できないだろ?
だったら筋肉説に賭けるしかないじゃん。
食事はいち君が作ってくれるからタンパク質増や
してなんて言えないし……少い小遣いからプロテ
インやサプリを買うのは無理。
やれるのは規則正しい生活、睡眠、運動位だ。
それは今までもやってきた、兄弟全員がそういう
生活を送ってきたんだ。だからさぶの成長が早く
て俺が遅いのは腑に落ちない、奴と俺では何かが
違うんだ。
それは何なのかよ〜く考えてみた、そして出たの
が牛乳を飲む量だった。
俺は朝と昼(給食)でしか牛乳を飲まないけど三
郎は夕飯とか風呂上りに飲んでる、カルシウムを
多く摂るから成長が早いんだと判断した。
「俺も明日から牛乳を沢山飲む!そしていち君を
喜ばるくらい大きくなるんだ!!」
この決意は揺らぐこと無くひと月続いた。
***
「なぁ、飲み過ぎじゃね?」
風呂上りに牛乳を飲んでいるといち君が心配そう
に言ってきた。
「大丈夫だよ、お腹も壊してないし」
「おいら調べたんだけど、牛乳の飲み過ぎは体に
良くないみたいだぞ。成長期の子供は活動量に合
わせてコップ1から2杯が適量だって、明らかに
じろは飲み過ぎだ」
「だったらさぶも飲み過ぎじゃん」
「さぶは学校でも走り回ってるし、野球もやって
るからじろとは違うだろ」
「そりゃ、そうだけど」
一日中動き回っている三郎と週何回か部活をやる
程度の俺では運動量はまるで違う。
「お前が牛乳を飲み始めたのは小さいのを気にし
てだろ?気持ちはわかるけど無茶は良くない、何
度も言ってるけど成長期は人それぞれなんだから
あんま気にすんなよ」
「気にするよ!俺が小さいままだといち君だって
困るんだよ!」
「へっ?!おいらも???」
「そうだよ!だって……」
そこまで言ってはたと気づき『小さいと気持ち良
くならないよ』という言葉を慌てて飲み込む。
まだ気持ちも伝えてないのにこれはNGだ。
「なぁじろ、そんなに慌てて大きくなる必要ない
だろ?20歳位までは成長するって言うし焦るこ
とねぇ。おいらお前が無茶して体壊しそうで心配
なんだよ」
「いち君……」
邪な思いでで行動していた俺にはいち君の慈愛に
満ちた眼差しが痛い。
「それにさ、本当に大切なのは見た目や背の高さ
なんかじゃない。優しさや誠実さとかで、もうじ
ろは持ってるじゃん。おいらそんなじろが大好き だぞ」
「い、いちくぅん」
我ながら単純だと思うけど『大好き』と言われ感 無量だった。そしていち君がそんなに心配してい
るなら『牛乳作戦』は暫く止めると決めた。
だけど長く太くするのを諦めたわけじゃない、
これから色々と試して着実に成長させるんだ。
それが俺といち君の幸せに繋がるのは確実だから
一郎
エコバッグから買って来た物を取り出していく。
卵、肉、ほうれん草、ブロッコリー……
じろが牛乳を適量飲むようになったぶん、背を伸
ばすという商品を買うようになった。
じろにはああ言ったけど、実はおいらも身長を伸
ばしたいんだ。
でもそれは弟達に抜かれるのが嫌とかプライドの
ためじゃない。
なんでかわからないけど危機感があるんだ、
動物的な勘が身の危険を知らせてる感じ。
そして『じろはずっと小さいまはまでいいのに、
その方が安心』なんて思ってしまってもいる……
どうしてだろ??
終わり
危機管理能力が高い一郎www
そして二郎よ、硬さも必要やぞ
題名は身長ではなくちん長w
まだまたコメントにお返事出来なく
申し訳ありませんm(_ _)m
繁忙期なんや〜(泣)