お山の妄想のお話です。



どうしてこんな事になったのか……

遠くの地面を見おろし、震える手で頭を抱えた。


ことの始まりは店長の『何だか屋根で変な音がす

るの』だった。

確かに最近ガンとかコツコツと音がしていて気に

なってはいたんだ。


そんな話をしている間にもガンって音がして、店

長が『ちょっと確認してくる』なんて言い出した

から慌てて止め『俺が見てきます』と言ってしま

った。


レディを屋根になんて登らせられない、しかも母

星の神様と瓜二つの店長だもの。

良いところを見せたいって気持ちもあって高所恐

怖症なのに後先考えず言ってしまった…

今それを激しく後悔してる。


丁度店に客がいなかったのでマサキに補助を頼み

梯子を支えてもらう。登る時は上しか見ていなか

ったから全然怖くなかった、でも屋根を確認して

下りる時になり自分のキャパを超えた高さだと気

付かされた。


ヤバえ怖い、身体が動かねー、助けてとぶるぶる

震えながら訴える俺をマサキは励ましていてくれ

たけど、駐車場に車がいっぱいになり溢れる程の

が客が店内に入って行くのを見たら『店長一人じ

ゃ大変だからオレ戻るね!お客が捌けたらまた来

るからそこで休憩してて』と言い残し行ってしま

った。


アイツも店長に良いところを見せたいんだ……

憧れの神様とそっくりな店長だからね、仕方無い

とは思うけど俺を置いていくなんて酷すぎだろ。

俺が抜け駆けしたのが気に入らなかったのか?

その報復だとしたら無茶苦茶怖い。


後で一応謝ろう、それから地球人にデレデレして

いると母星にいるあいつの婚約者に密告してやる

俺をこんな所に放置した罰だ。


そんな事を考えながら屋根に座っていたら、いき

なり目の前にUFOが現れた。

ステルス仕様だから地球人には見えないが異星人

の俺にはバッチリわかる。


そして中からこれまた姿を消した異星人が降りて

来て『これがコンビニか』などと言いながら屋根

の上を歩いている。

そこでピンときた、屋根から聞こえていた謎の音

はコンビニを訪ねてきた奴等が出していたのだと


理由が分かれば後は早い。異星人にここにUFO

を停めないように話し、ついでに屋根に宇宙連合

の駐機禁止マークを書いてもらった。


〘ありがとう、コンビニに入りたければあそこの

森に停めて地球人に変身して来て〙

〘わかった。ところでひとつ質問していいか?〙

〘なんだ?〙

〘あんたストーム星人だろ?どうしてここにいる

んだ?〙

〘このコンビニで働いてるからさ〙

〘出稼ぎ?ストーム星の経済は酷いのか?聞いた

ことないが〙

〘母星は神様のおかげで経済は潤ってる゙、君達と

同じで地球に観光に来てバカンス中に少しだけ働

いてみることにしたんだ、異星での体験も面白い

しね〙

〘へー、バカンス中に働くなんて物好きだな〙

〘まあね〙


本当は神様そっくりな店長に誘われたからだけど

それは黙っておく。

森に停めてまた来ると言い異星人がUFOを起動さ

せると不測の事態が起こった、発進の空気振動で

立て掛けてあった梯子が倒れたんだ。


「うわっ、どうしよう」


実は亀のようにゆっくり動けばワンチャンイケる

のではと考えていたが、これで自力で下りる道は

完全に閉ざされた。


マサキが来るのを待って生まれたての子鹿のよう

に足をプルプルさせながら梯子を下りる、そんな

情けない姿を店長に見られたら恥ずかしくてもう

バイトなんて出来ない。


店長に見られるくらいなら、と飛び降りることも

考えたが足が竦んで話にならない……

ああ、どうしよう…頭を抱えて泣きそうだった、

まさにその時時救世主が現れた。


「お〜い、大丈夫?ハシゴ立てようか?」


問い掛けに恐る恐る下を見ると小柄な男性がこっ

ちを見上げていた。


「お、お願いできますか」

「わかった、ちょっと待っててね」


そう言うと倒れた梯子を起こし壁に立て掛けてく

れ、押さえてるから下りてきなよと言ってくれた


「あ、ありがとうございますぅぅぅぅ」


今下りれば店長に醜態を晒すこともない、震える

声で礼を述べ覚悟を決めて梯子に手をかけた。

でもそこからが進まない、後ろ向きになるのも足

を踏み桟に乗せるのも恐ろしくて出来なかった。


「どうしたの?もしかして……」

「は、はい!そうですっっ」


怖いの?と訊かれるのが恥ずかしくて被せるよう

に答えた、でもその人は笑いも馬鹿にもしないで

『おいらの言う通りに動いてみて、ゆっくりでい

いからね』と優しく言ってくれたんだ。


「先ずは左手で左の支柱を掴んで、そしたら左足

で右の支柱を押さえながら右の支柱を掴む、次に

右足を踏み桟に下ろす。ゆっくりでいいから慎重

にね」


俺は言われた通りに動いた、最初は恐怖でガチガ

チだったけど落ち着いた声で指示されると次第に

安心感も出てきた。


一段、また一段と下りていくと地面が近くなる、

後もう少しで足が着くという時気が緩んだのか踏

み桟を踏み外してしまい、そのまま後ろに倒れて

しまう。


このままじゃ良いとこ尻もち、悪ければ頭か背中

を強打だ。

星に帰って治療しなきゃならないからバイトはお

終い、神様そっくりな店長の側にいられないのは

残念だけど仕方ない……


諦めの境地で襲い来るだろう痛みに備えてギュッ

と目を瞑った、でも次の瞬間感じたのは温かさと

柔らかさだった。

ドサッという音と衝撃を感じたけど痛みはない、

どうしたのかと目を開ければ青空が見える。

どうやら仰向けに倒れているみたい。

「……いて」


状況が理解できずにボーっとしていると背後から

呟きが聞こえた。

驚いて振り返るとすぐ近く綺麗な顔があり、自分

がその人を下敷きにしていることに気付く。

この人は落ちた俺を受け止めてくれたんだ!


「わあぁぁぁ!すみません!」


慌てて身体を退かし謝ると、押し潰してしまった

人は恥ずかしそうに笑った。


「受け止めきれなくてごめん、おいらカッコ悪い

なぁ」

「そんなことない、あなたは命の恩人です!」

「やめてくれよ、大袈裟な」

「大袈裟じゃないです!受け止めてくれたから俺

は無事だったんですから。あ!怪我とかないです

か?!」

「平気だよ、丈夫なだけが取り柄だからさ。

それより……」


彼は俺の顔をしげしげ見ながら思いもよらないこ

とを言った。


「お兄さんの綺麗な顔に傷がつかなくて本当に良 かった」

「えっ?!!」

「消えない傷跡とか残ったらおいら一生後悔しち

まうし、無事で良かった。イケメンは世の宝だか

らな」

「世の宝…って……」


とんでもない称賛に狼狽えていると、彼はヒョイ

と立ち上がり置いてあった荷物を掴み『じゃあ

これで』と背を向けた。


「待って!名前を教えて下さい!お礼に伺います

からっ!」


慌てて呼び止めたけど彼は『ハシゴ、早く片付け

たほうがいいよ。危ないから』と言い残し行って

しまった。

追い掛けたかったけど、梯子を駐機場に放置する

のは確かに危なくて留まるしかなかったんだ……


***


「あれっ?!ショウちゃん自分で下りたの!!」


数分後に漸く戻って来たマサキは屋根から下りて

いる゙俺を見て驚いていた。


「自力だけど…サポートしてくれた人がいて…」

「どこにいるの?ちゃんとお礼言った?」

「言ったけど、全然不十分だと思う」

「う〜ん、それじゃあ次に会った時にしっかりお

礼を言うべきだね。因みにどんな人だったの?」


マサキに訊かれて彼の容貌を思い浮かべる…

潤んだような綺麗な瞳で鼻筋がシュッとしていて

艶々な小さな唇で………とにかく綺麗な人…

小柄で華奢なのに落ちた俺を躊躇無く受け止めて

くれる漢気がある……


「……凄く素敵な人」


尊敬して憧れる神様より、あの人の方が大きな存

在になっていた。


「えっ??ショウちゃん顔が赤いけどどうしたの

?!怖い思いをしたから熱が出た?」

「違う、これは心因性発熱じゃない」

「じゃー何?!日に焼けた?!」

「それでもねーよ」

「ならどうしたっていうのさ?」

「………お前には関係ない」

「そんな言い方酷くない?心配してるのに」


対応が気に入らなかったようでマサキはむくれた

が放っておく。

だってこれは容易に話してはいけないことだ。

たとえ親友であっても秘密にしておきたい想いだ

から。


間違いなく俺はあの人に恋をした。

何処の誰とも知らない人に……

そうじゃなきゃ彼を思い浮かべただけで頬が熱く

なり鼓動が激しくなるわけ無いだろ。


再会出来るだろうか……

あの時彼が持っていたのはコンビニ袋、きっとこ

こで買い物したんだ。それに徒歩だったから近所

に住んでいるに違いない。


だった必ずまた会える、その時は丁寧にお礼を言

って食事に誘おう。

そこから距離を縮めていつか想いを告げたい。


それが実現するまで地球での滞在は続くだろう、

敬愛する神様はお怒りになるかもしれないけどね





つづく






音信不通ですまぬ

コメント返せずすまぬ……

8月は地獄でした……