お山の妄想のお話です。




「お父さん、ぼくのお家を作って!」

「ふえ??」


手を繋ぎ幼稚園に向かう途中、真剣な表情を

した息子が言った。

突然の事で驚くオレをよそに愛息子の翔ちゃ

んは話し続ける。


「お父さんはどんなお家も建てられるんだよ

ね?前にキリンさんと住めるお家を建てたっ

て言ってたもの」

「ん?まあね、お客さんの要望ならどんなお

家も建てるよ~」

「じゃあ、ぼくお金いっぱいためてお客にな

るから作ってくれる?」

「いいよ、どんなお家?」


オレはハウスメーカーで働いていて注文住

なんてお茶の子さいさい、可愛い息子の

ならどんな願いも叶えてやるんだ。

でも翔ちゃんの建てたい家ってどんなの?


今はマンション住まいだからお庭がある家と

かかなぁ?前にワンちゃん飼いたいって言っ

てたし。

そんな予想をしていたのに翔ちゃんの要望は

全く別だった。


「さとしくんと一緒に住むお家!」

「えっ?!さとしくんってお友達の二宮智く

んのこと??」

「うんっ!さとしくんとずーっと一緒にいら

れるお家が欲しいの」


智くんは翔ちゃんと同じハムスター組の男の

子、とっても仲が良くて園ではずっとくっつ

いてるし休みの日にも一緒に遊ぶの。

勝ち気な翔ちゃんとは反対のおっとりとした

優しい子ですっごく仲良しなんだ。


「智くんと仲良しで離れたくないから一緒に

いられるお家が欲しいってこと?」

「そう!けっこんもするし!」

「ふえっ?!!」


本日二回目の変な声が出た、翔ちゃんの言う

けっこんって血痕じゃなくてウェディングの

方だよね??


「ちょっと待って?!智くんは翔ちゃんと同

じ男の子だよ?結婚は無理じゃない??」

「ちがうよ!好きな人と一緒にいるのがけっ

こんなんだよ!」

「うん、そーだけど……普通は女の子とする

よ?それで夫婦になって赤ちゃんが生まれて

お父さんとお母さんになるの」

「女の子とじゃなきゃけっこんできないの?

さとしくんは男の子だけどぼくは大好きだよ

!さとしくんとけっこんできないならだれと

もけっこんしない!」


翔ちゃんは幼稚園まであと少しという所で立

ち止まりオレを睨んできた。


「ん~……ほら、翔ちゃんはまだ子供だし大

きくなったら別の人と結婚したくなるかもし

れないでしょ?その時にお父さんがとっても

素敵なお家を建ててあげるから」

「そんなの嫌だよ。ぼくは大人になってもず

っとさとしくんが好きだもの。さとしくんと

ぼくの住むお家じゃなきゃいらない!」

「え~っ、困ったなぁ…」

「おとうさんなんてキライ!」


まだ園児だから結婚の意味がよくわかって

ないんだな……

このくらいの歳だと男の子は『ママとけっこ

んする』とか言うみたいだけど、オレはシン

グルファザーで母親がいないから仲の良いお

友達になっちゃったのかな。


きっと年齢が上がっていけば智くんと結婚出

来ないって自然と理解するだろうけど、だか

らって今『そうだね』なんて適当に誤魔化し

たり出来ないよ。

何て言ったらわかってくれるかなと頭を悩ま

せていると後ろから可愛い声がした。


「おはよ~しょーくん」

「さとしくんっ♡おはよう」


条件反射なのかその声を聞いた途端翔ちゃん

は満面の笑みになって、智くんの側へ走って

行くとギュッと手を繋いだ。


「いっしょにお教室にいこ♡」

「うん」


さっきまで激おこだったのに今はにこやかに

エスコートしている……

これはもしや『仲良しのお友達』以上に智く

んを想っているのかも。


だとしたら切ないな、だって未來は明るくな

いとわかっているから。

オレの二の舞になって欲しくないんだよ……


元気に歩いていく小さな後ろ姿を見ていると

背中をコツンと叩かれた、なんだ?と振り返

ったらそこに智君のパパがいた。


「何をボケッとしてるんです?子供達が行っ

てしまいますよ」

「カズちゃん……」

「おや?どうしたんですか、何時もバカみた

いに元気なあなたがシュンとするなんて」

「翔ちゃんにキライって言われてさ~」

「無神経なことを言って怒らせたんでしょ」

「そんなことないよっ!ただ智くんと結婚す

るって言うから男同士じゃ出来ないって諭し

たの。そうしたら怒っちゃって…」


智くんのパパは二宮和也という。

同じシングルファザーだけど違うのは、オレ

は離婚したけど彼は奥さんを亡くしてシング

ルになったってこと。


「翔の純粋な気持ちを傷付けたからでしょ」

「でも男同士で結婚できないのは確かだし、

変な希望を持たせたくなかったから」

「変な希望?それは智と結婚すること?」

「うん……諦めなきゃならないことでしょ。

子供のうちに諦めさせれば大人になって深く

傷付くこともないしさ」

「……相葉さんは諦めて傷付いた経験がある

んですね」

「うん、あるよ」


そう言ってカズちゃんを見つめた。

するとカズちゃんは苛ついたようにオレに向

かって言う。


「その経験は俺だってあります。諦めなけれ

ば良かったと思ったことも、嫁さんに申し訳

ないことをしたと悔いる日もある……

でもあなたと違うのは子供達の想いを否定し

ないことです、本当に好きなら応援して力に

なってあげたい。諦めてずっと想いを引き摺

る方が辛いことを身をもって知っていますか

らね」

「カズちゃん……」


実を言うとオレは長い間カズちゃんが好きだ

った。俺達は幼馴染みで小さな頃からずっと

一緒で今の翔ちゃんのようにカズちゃんと結

婚することを夢見ていたんだ。

カズちゃんも同じ気持ちだとわかっていたか

ら実現すると思ってた。


だけど成長するにつれ、この想いが世の中に

受け入れられないことがわかってきた。

奇異の目で見られたり侮辱され差別されるこ

ともあるんだと。

オレと一緒にいることでカズちゃんがそんな

目に合うと考えたらとても怖くなったんだ。


だから気持ちを封印して沢山の女の子と付き

合った、いつかカズちゃん以上に好きになる

コが現れるって信じてた。

でも結局そんな人と巡り合うことはなかった

けどね。


蟠りを抱え自暴自棄になっていた頃、酔った

勢いで一夜を共にした女性が妊娠してしまい

責任を取る形で結婚した。それが翔ちゃんの

母親だった。


女性はオレに想いを寄せていたようで一緒に

なれたのを喜んでいてオレも好きになろうと

努力したよ。でもね、駄目だったの。

彼女は俺の一番が欲しかったみたいだけどそ

れが掴めないとわかると、別の男を見つけて

何処かにいっちゃった。


それには何も感じなかった、夫婦仲は冷えき

ってたし。ただ一つ感謝してるのは翔ちゃん

を置いていってくれたこと。

可愛い可愛いオレの息子だもん。

翔ちゃんには色々救ってもらってる。


オレが結婚して間もなくカズちゃんもある女

性と結ばれた、幸せそうだったけどもともと

身体が弱かったみたいで智くんが産まれ少し

して亡くなってしまった。


カズちゃんはとても悲しんだ……

その時カズちゃんにとって一番は彼女なんだ

と思って不謹慎だけど嫉妬したな。


お嫁さんの死と慣れない育児でカズちゃんは

疲れ果てていた、その時オレはまだ離婚前だ

ったから彼の家にお手伝いに行ってた。

翔ちゃんを育ててるし子供は大好きだから智

くんの面倒を見てカズちゃんを休ませてあげ

てたんだ。


ある日、憔悴しきったカズちゃんを見かねジ

イバアが何日か智くんを預かってくれた。

その時オレはカズちゃんにストレス発散して

欲しくてお酒を飲ませたんだ。そこで真意を

知ることになった。


カズちゃんのお嫁さんは自分が一番愛されて

いるわけじゃないと知っていて結婚した。

二番でも構わないただ女性では一番好きでい

てくれたら満足だと言ったそうだ。


『酷いことをした……一番に愛せなかった。

でも彼女はそれでも良いって笑ったんだ、俺

はそんな優しさに甘えてた。きっと笑顔の裏

で苦しみ悲しんでいたはずだ。捨てきれない

想いのために彼女を傷付けていたんだ…

俺は最低な男だ、でも残された智だけは必ず

守りたい、これからは智の幸せのためだけに

生きようと思う。それが彼女への償いにもな

るから……』


涙で顔をグシャグシャにしながらカズちゃん

は誓っていた、

そこで気づいたんだ、カズちゃんもオレと同

じだって。捨てきれない想いをずっと抱え、

今後の人生は智くんに捧げる覚悟なのだと…


その後すぐオレも離婚して、翔ちゃんのため

に生きようと思った。だってオレのせいで母 

親が出ていったんだもの、カズちゃんの気持

ちがよくわかったよ。


オレとカズちゃんの一番は子供達になり、

子供達のためにオレ達の関係は進展しなかっ

た。


「子供の気持ちを優先させたいのはオレだっ

て同じだよ、でもダメなものはダメって言わ

なきゃ。傷付いてからじゃ遅いよ」

「思い通りにいかないことや失敗を経験して

成長するんです。今否定することこそ心を傷

付けます。自分の幼い頃を思い返してみなさ

いよ、あんたが俺と結婚するって騒いでた時

おじさんやおばさんは否定した?笑って頑張

れって言ってましたよね。子供はどんどん育

ち自分の進むべく道を選びます、それを見守

るのが親の役目でしょ」

「わかってるよ!でも翔ちゃんが傷付くのを

見たくないんだ!……可愛い息子にあんな思

いさせたくない」


その言葉にカズちゃんの眉が上がるのが見え

た、どうやら怒らせちゃったみたい。


「傷付くとかあんな思いとか、同じ失敗を翔

がするとは限らない、あの子は賢いから真実

の愛なら貫くはずだ。俺とあんたみたいに未

来に怯えて断念することもないさ。それにこ

の先なんて誰にもわからないだろ、ただ俺達

は人の道にそれないようにしてやればいいん

だよ」


……カズちゃんの言う通りオレ達は意気地

無しだった。

世間の目を気にしすぎて2人で乗り越えよう

としなかったんだ。


「先の事なんて誰にもわからない、もしかし

たら翔は別の子に恋をして家庭を築くかもし

れないし、智と一緒に幸せに暮らすかもしれ

ない。それを決めるのは本人なんだ、親は見

守るだけでいい」

「翔ちゃんには翔ちゃんの人生があるから口

出しするなってことだよね。だけど傷付く可

能性が少しでもあるなら、そこから遠ざける

のも親の役目じゃないの」


お互い言いたい事は理解している、けど子供

を思うと意思は曲げられないんだ。


「はぁ、これじゃ堂々巡りだ。話しても埒が

あかない」

「それはこっちのセリフだよ!」


意見の衝突で険悪なムードになり睨み合って

いたら上着の裾をクイクイ引かれ、視線を向

けると智くんがオレ達を不安気に見上げていた。


「とととあーばちゃん、けんか?」


強い口調で言い合っているのを見て喧嘩だと

思って戻ってきたみたい、オレとカズちゃん

はやらかしてしまったようだ。


「違うよ、喧嘩じゃないから安心して」

「そうだよ、ととと相葉さんは仲良しだから

心配しないで」


笑顔を作ると智くんは安心したみたい。


「だよね、ととはあーばちゃんが大好きだも

んね~」

「えっ?!??」


突拍子もない言葉に驚くオレの横でカズちゃ

んの動きが止まった。


「さとがね、しょーくん大好きって言うと

とともあーばちゃん大好きって言うの~」

「ええええええっっ!!!」


そんな事を言うはずないと思いながら、確認

のためカズちゃんを見ると顔がトマトのよう

に真っ赤だった。


「ちょっ、さと!お口にチャックしなさい!

あんたもそんな目で俺を見んな、これはちょ

っとした誤解だからなっ!!」


ワタワタと智くんの口を押さえキッと睨まれ

たけど全然怖くない、それよりも喜びが溢れ

た。


「ねー、お父さんもニノちゃん大好きなんで

しょ?」


智くんの少し後ろにいた翔ちゃんが問う、

カズちゃんの本音を聞いた後だったからオレ

も本心を明かした。


「大好き!ずーっと好きだったもの!」


今まで想っていても口にはしなかった…

若い頃は不安との葛藤があったし、今は子供

のためだけに生きると誓っていたから。

自分の気持ちなんて二の次だったんだ。

でも智くんの言葉でのカズちゃんの反応を見

て全て弾き飛んじゃった。


「くふふ、ととよかったねぇ。さと、ととも

あーばちゃんもしょーくんも大好きだから、

みんな仲良しでずーっと一緒にいよーね」

「ぼくもみんな好き!だけど一番はさとしく

んだからねっ!」


フワフワ笑う智くんの手を握って翔ちゃんが

叫んでいる。

オレの隣に腕組みをして明後日の方を向い

ているカズちゃん。不機嫌そうにしているけ

ど照れ隠しだってわかってるよ。


すっごく幸福を感じてる。

翔ちゃん、智くん、カズちゃん、皆でいるの

が凄く幸せ。

想いを共感できたからかな、怖いものなんて

何も感じないんだ。


今なら困難を乗り越えられるかもしれない、

カズちゃんと共に子供達を守りながら進んで

行ける気がする。


ほんの少しの勇気さえあれば幸福を掴める。

さあ、根性をだすんだ!

気合いを入れオレは皆に提案した。


「ねぇ、皆聞いて。さっき翔ちゃんに智くん

と一緒に住むお家を作ってって頼まれたんだ

けど、それをちょっとだけ変えて皆でずーっ

と一緒に住む家にするのはどうかな?」

「みんなで住むお家?ずーっと一緒?」

「そう、智くん賛成してくれる?」

「するーっ!」

「翔ちゃんは?」

「さとしくんと一緒ならいいよ」

「カズちゃんは?」

「……………」


カズちゃんは黙ったまま中々返事をくれない

からちょっと不安になっちゃった。


「オレと一緒は嫌?」

「嫌じゃないですよ、ただあんたの変わり身

の早さに呆れてるんです。さっきまで諦めさ

せるとか言ってたのにいきなり手のひらを返

したりして」

「それはゴメン。でも気が付いたんだ、この

先嫌なことや辛いことがあっても皆となら乗

り越えられるって。オレとカズちゃんで子供

達を守ってそしてお互いを守ればいいんだ。

協力してくれる?」

「………仕方ないですね」

「ありがと。これからオレもカズちゃんと一

緒に亡くなったお嫁さんに償うから」

「子供達を幸せにするのが償いになりますか

ら、頑張りましょう」


臆病だったオレ達の目を覚ましてくれたのは

最愛の息子達。

これからは心を解放して愛する人達を守って

幸せに生きていきたい。


オレとカズちゃんならできるよね?








おわる


あれ?これお山♡話し??








♪おまけ♪


「オレはフリーランスだから事務所兼仕事部

屋、それからゲーム部屋が欲しい」

「さとはお絵かきをする部屋がいい」

「ぼくは自分のお部屋とは別にさとちゃんの

絵を飾るお部屋が欲しい。それとさとちゃん

の部屋につづく秘密のトンネルも必要!」

「あとねーお魚のいっぱいいる水族館みたい

なお部屋も~」

「ギターも弾きたいから防音の部屋も頼みま

すね。翔もピアノするから大きめにして」

「お父さんすべり台もつくって!」

「えっえええっ!みんな注文多すぎるよ~

いくらオレが店長でもそこまでは無理~」

「よくそんなで皆と一緒に住める家を建てる

なんて言えましたね。あなた『あきらめない

』を信念にしてるんじゃなかったの?」

「だってこんな無茶振りされるとは思ってな

かったもん!キリンと住める家より百倍難し

いよ!」





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