お山の妄想のお話です。



今晩は一年で一番忙しい夜

そしてこの職種が一番輝く時。


まずこの日のための特別な衣装に袖を通し、

それから少し変わった形の帽子をかぶり全身

を赤と白のコントラストに染める。

これを着れるのは難関な国家試験に合格した

エリートのみだ。


「ユニホームは完璧。よし、仕事だ」


鏡の前で何度も確認し今宵の主役なのだ

もっと派手に、なんならスパンコールくら

付けたいなどと考えながらロッカールー

出た。

向かうのは車庫、そこにパートナーの

『トナカイ』が待っている。


俺は子供に夢とプレゼントを届けるサンタク

ース。そして今晩は聖なる夜だ。


***


「おはようございます、今日はよろしくお願

します」


ソリの前にはタブレットで荷物の確認をする

相棒の姿があった。


「ああ、よろしくな。サクサク終わらせうぜ」

「ええ。翔さんの作ったルートなら最短時間

終わるでしょう」


相棒のトナカイは先輩の翔さん。

彼はエリート中のエリートで他のトナカイや

サンタの憧れの的だ。


トナカイの仕事は迅速かつ効率的にサンタを

目的の家に連れて行くこと、そのためにいく

つものルートを考え時間を計算する。

ソリの運転以外にもトラブルへの対応なども

ありナカイ国家試験はサンタのそれより難

関だ。


それをトップの成績で通過し、就任した年か

らホープ賞など多くを受賞してきた人。

去年のイブには最多最速配送の記録を打ち立

てペアのサンタと最高賞を取っていた。


今年もまた昨年のサンタとペアだろうと皆考

えていたけど、何故か別のサンタと仕事をす

ると言うので立候補し猛烈アピールの末目出

度く相棒となれたんだ。


あわよくば去年の記録越えをしサンタのス

ルを上げる、なんてホホクしていたのに

積まれた荷物を見言葉を失った。

だって今まで見たことかない程のプレゼント

がギュウギュウに詰め込まれていたから。

到底一晩で配れる量じゃない…


「あの、荷物多くないですか?」


間違いじゃないかと訊くと、翔さんはニッコ

リと笑って首を振った。


「これが今晩の仕事で間違いない。他の奴等

よりは多少多目だがきっちりコースは決めて

あるから大丈夫だ」

「……はぁ」

「何だよ随分弱気だな、若手の中じゃお前の

実力がダントツだから期待してんだぞ?最速

は無理かもしれないけど最多配送賞は狙える

から頑張ろうぜ潤!」


バンバンと背を叩かれ渇を入れられた。

そうだ俺は『トナカイ最強』の人に選ばれた

サンタ、些か量は多いけど期待に添えるよう

に頑張らねば。


***


全てのプレゼントを届け終わったのは空が白

み始める直前、かなりギリギリだったがなん

とかノルマは達成できた。


車庫に戻ると他のソリは整然と並び人の姿は

ない、どうやら自分達が最後だったようだ。


「お疲れ様、無事に終わってよかったよ。

若手No.1は伊達じゃないな」

「いいえ、翔さんのルート取りが完璧だった

からです。俺は何回かもたついて、物音で目

覚めた子供に危うく見つかりそうになるドジ

も踏んでしまったし」

「結局見つからなかったし気にするな。それ

に子供たちはサンタは爺ちゃんだと思ってい

るから若くてイケメンのお前はサンタと認識

されないんじゃないか?」

「サンタコスプレの謎の人物が部屋にいる方

が怖いと思うけど……」

「ははは、そうかもな。でも女の子なら喜ぶ

だろ?カッコいいお兄ちゃんがいたって」

「やめてくださいよ、翔さんの方がイケメン

じゃないですか」

「そんなことないよ。もうおじさんだし」


謙遜しているが彼はこの国家機密組織

『holy night』内では昔から容姿端麗頭脳明

で知れ、伴侶がいる今でも熱い視線を送

られている。容姿に自信がある俺でも翔さん

は格別だと思う。


「俺とたいして変わらないのにおじさんとか

言うの止めて下さいよ」

「もう歳だよ。暑さ寒さが堪えるもの」

「あっ……もしかして風邪ひいてます?」

「いや、ひいてないけど」

「でも鼻の頭が赤いから……」


実は今日顔を合わせた時からずっと気になっ

ていた。昨日の打ち合わせでは赤くなかった

から急に体調を崩したのかと心配だったんだ


「風邪とか病気じゃないから安心して。これ

は昨晩ちょっと擦りすぎちゃって」

「こすりすぎ??アレルギーですか?」

「違うよ。俺のサンタから一晩早いプレゼン

トを貰ったんだ♡」


『俺のサンタ』とは多分伴侶の智のこと。

智は同僚で昨年翔さんと一緒に新記録を樹立

したサンタだ。


「プレゼントで鼻が擦れるんですか?」

「うん、凄く擦れた。実はプレゼントは智君

でね、シテる時は全然気にならなかったんだ

よ♡」

「シテる時って……」


初めは意味がわからなかったけれど、男前が

台無しなほどデレデレと鼻の下を伸ばしてい

るのを見て夜の生活の事だと察した。


「あの人が感じる所をねっとりと攻めてたん

だけど、お股の間とか狭いだろ?あちこちで

鼻を擦り付けちゃって赤くなったんだ。その

後キスも沢山したからそこでも鼻が擦れちゃ

ったし♡」

「は……はあ…」

「♪暗い夜道はピカピカの~♪って歌みたい

に鼻の頭が光ったら普段隠されている奥の方

までじっくり見れたのになぁ。それが残念な

んだ。ま、昔と違って今の『トナカイ』は

人だから仕方無いけど」


翔さんの言う通り昔はトナカイが空飛ぶソ

を引いていた、けれど科学が進歩した今で

巷でUFOと呼ばれるものがソリの役割を

ていてそれを操縦する人をトナカイと呼

んだ。


「えっと…昨晩はお楽しみだったんですね」


知り合いの生々しい話を聞いて戸惑い、対処

に困って出たのが間抜けなそれ……

しかしこちらの気まずさなんて感じていない

ようで翔さんは嬉々としている。


「ちょっと頑張り過ぎちゃったかな。けど折

角のプレゼントだもの堪能しなきゃ♡」

「でも智もサンタの仕事あったんでしょ?大

丈夫だったんですか?」


サンタである以上イブは仕事がある。

いくら『SHINOBI』という通り名があるほ

どのスキルを持つ智でも身体がキツく仕事に

支障が出たんじゃないか?

同じサンタとして配慮の足りない翔さんに少

し苛ついた。


「あ~、それは大丈夫。智君の配達分は減ら

しておいたから」

「えっ?そんな事出来るんですか?!」

「出来るよ?お互いの同意があり上司の了承

を得ればね」

「マジですか、それ詳しく…」

そんな制度があったのが初耳だったので内容

を詳しく訊こうとした時一台のソリが俺達の

横に乱暴に停まり、見るからに満身創痍なサ

ンタとトナカイがヨロヨロと出てきた。


「お疲れ、だいぶ遅かったな雅紀」


翔さんがクタクタなサンタに話し掛ける。


「も~参ったよ~何とか終わらせたけど、あ

のプレゼントの量はオレには無理!!」

「何言ってんだよ、お前だって同意してニノ

と楽しんだんだろ」

「そうだけど、まさかこんなに大変だとは思

わなかったよ」

「智君とニノの仕事を引き受けるって事で素

敵なプレゼントを貰ったんだ文句言うな」

「プレゼントは最高だったけどさ~仕事がこ

んなにキツくなるなんて思ってなかったし」

「泣き言はよせ、男らしくないぞ」


へたり込んで愚痴るサンタの相葉さん、それ

に説教する翔さん。状況が掴めずただ眺めて

いると相葉さんのペアのトナカイがヨロヨロ

と隣へやって来た。


「お疲れ様…松本君も巻き込まれたの?」

「お疲れ風間君…どういう意味?」

「知らないの?松本君の所も配達のプレゼン

ト普段より多かったでしょ?」

「それはハンパなかったけど」

「あれはね、大野君とニノの分のプレゼント

を回されたからなんだよ……」

「は?!それって……まさか!!」


思い当たる節があった。

それは先程の『配達量を減らす方法』と翔さ

んと相葉さんの会話だ……


「今年、相葉ちゃんとニノがペアにならなか

ったのには理由があったんだ、櫻井さんと大

野君の所も一緒さ」

「つまり……二人に楽をさせるために今年は

ペアを解消したってことか」


今回サンタの智とトナカイの二宮がペアだっ

たのを思い出した。


「そういうこと、去年は前夜に無理をさせて

結構もめたみたい。それで今年はペアになっ

た僕達に皺寄せがきたんだよ」

「……なんてこった」


つまりは『イブイブのプレゼント♡』のため

に仕組まれていたってことだ。

翔さんは伴侶である智から、相葉さんは恋人

の二宮から濃厚なプレゼントを貰うためにあ

らゆる手を尽くしたんだろう。


はっきり言っていい迷惑だ。

翔さんとペアになれて喜んだ自分が憐れでし

かない……


「来年は頼まれてもペアにならないぞ」


いくら憧れの人でも、都合よく扱われるの

は我慢できない。


「僕もどんなに頼まれても断るよ」


相葉さんと大親友の風間君も愛想を尽かした

ようだ。


「なあ、来年は二人で組んであの人達を見返

してやろうぜ」

「そうだね。色ボケサンタとトナカイには負

けたくないし」


よくよく見れば相葉さんの鼻も赤かった、理

由はきっと翔さんと変わらないだろう。

色ボケとは的を得ている。


「くっそ、上手く使われちまった」

「屈辱をバネに頑張ろう」


俺達はタッグを組み二人をギャフンと言わせ

ようと誓った。


***


年末、仕事納めの日は表彰がある。

昨年の翔さんと智の記録は破られることなく

燦然と輝いている。


苦い思いをしたイブの仕事だったが、嬉しい

ことにプレゼント最多配達賞を受賞した。

多くのプレゼントを届ける事になった理由が

理由なだけに素直に喜べない節もあったが、

やはり称賛を浴びるのは気分が良い。

大勢のサンタやトナカイの前での表彰は自己

肯定感が高まった。


「やったな潤。おめでとう」


始めての俺と違い、何度も経験のある翔さん

はそれほど高揚感はないようだ。


「これを頂けたのは翔さんのおかげです。

コース取りは完璧でしたし」

「お前がもう少しスムーズに侵入出来るよう

になれば他の賞も狙えるさ」

「そうですね、善処します」

「よし!じゃあ来年もまたパートナーになっ

てくれるな!」


翔さんは疑いもなくまた一緒に仕事をすると

思っているようだ。

確かに彼となら他の賞も狙えるだろう、

けど……


「それはお断りします」


キッパリと言ってやった。

智とのイブイブ♡のために使われるのは真平

御免だから。


「えっ?!」


断られるとは夢にも思ってなかったのだろう

翔さんは鳩マメになっていたw


直ぐに過酷だった配送の噂が広がり翔さんは

敬遠される。そうなればパートナーは見つか

らず『イブイブのお楽しみ♡』どころじゃな

くなるだろう。


きっと来年は『真っ赤なお鼻のトナカイ♡』

にはなれないはずだ。

ざまあ見ろと俺は心の中でほくそ笑んだw





終われ


なんだこれ?!

しかも時期外れ



■おまけ■

イブの智サンタとニノトナカイ。


「今年は楽でいいね~大野さん」

「うん、尻はちっと痛いけど去年の何倍もマ

シだよ。ニノもでしょ?」

「まあね、それでも昨日は結構しつこくされ

たよ。しかもやった後寝てたら布団取られて

風邪ひいちゃったし」

「だから鼻が赤いのかぁ。大丈夫?」

「大丈夫だよ。あいつらが俺達の配達分をだ

いぶ引き取ってくれたからね。そういうあな

たも鼻が赤いけど?」

「これはね翔くんがキスをたくさんしてくる

から擦れちゃったんだ」

「へ~そうなんだ。てっきり鳴かされ過ぎな

のかと思ってた」

「まぁ、それもあるけど…」

「あるんかーいw」

「翔くんかなりしつこかったからさ、去年の

二の舞になるならイブイブのプレゼントはこ

れから無しにするって言ったんだ。そしたら

少しセーブしてくれたみたい」

「去年のイブはお互い酷い状態だったからね

今年は条件を出してて正解だった」

「まさかこんなに配送量が減るとは思わなか

った。例年の1/3以下だもん」

「相葉さんと翔さんは今頃大変でしょうね。

身から出た錆ですけどw」

「ふふ、そうだね」

「そうだ、来年は全部二人に回して俺達は休

むってのはどう?」

「サンタとトナカイなのに?」

「聖なる夜の休暇もたまにはいいじゃない。

二人で遊びに行こうよ」

「んふ、なんだか旦那が働いている時に高い

ランチをする奥様みたい」

「普段あの人達に美味しく頂かれてるからた

まには俺達も美味しいもの食べに行こ」

「いいねぇ」

「それには仕事を全部押し付ける作戦をたて

なきゃ。条件がイブイブの♡だと無茶苦茶さ

れて動けなくなりそうだし」

「おいらそーいうの考えるの下手だから、ニ

ノ頼むよ」

「仕方無いな、わかったよ」

「来年のイブ楽しみだな~」

「そうだね。でも取りあえず今年の仕事をさ

っさと終わらせて家で寛ぎましょ」

「翔くんも相葉ちゃんも帰りは遅いだろうか

ら十分休めるもんね」

「そーゆうこと!」




結局皆鼻赤なオチ

これはゆゆさんのエロ話

(赤紫×青)からのインスパイア