お山の妄想のお話です。





触れた唇はしっとりと柔らかい。

ほんの少しだけ眼を開くとすぐ近くに長い睫

が見えた。


俺は最愛の恋人とキスをしている……

もう数えきれない程しているけれど、今日は

凄く高揚していた。


それは初めてキスより先に進むから。

恋人と繋がり一つになる……

それは愛し合う者同士の崇高な行為、ずっと

夢見てきたことだ。

それがやっと実現するのだから緊張して当然

だろう。


「智君……本当にいいの?」


唇を離し最終確認をすると愛しい人は俺の眼

を見ながら迷いなく頷く。

同性に抱かれるなんて初めてだろうに智君

瞳に恐れの色はない、全てを委ねてくれるの

が嬉しくそして大切にしなければと強く思っ

た。


「ありがとう……大好きだよ」


受け身になることを承諾してくれた事に感謝

して、その身体をベットへと横たえさせる。


大切な宝物……

そっとそっと、傷つけないよう注意を払う。

結果的に動作は緩やかになり、彼を焦らせて

しまったようだ。

覆い被さる俺の首の後ろに手を回し引き寄せ

られた。


「そんなに気を使うなよ、おいらは頑丈だか

ら平気だよ」


悪戯っぽく笑いながらそんな事を言う。


「頑丈とかって問題じゃない、あなたを大切

にしたいの。俺の宝物だから」


傷つけないよう、壊さぬよう、至高の時を一

緒に過ごしたい。


「………わかったよ、翔くんの好きなように

して。でもあんまりゆっくりだとおいら恥ず

かしくて死んじまうかもしんねぇからな」


拗ねたようなチョンと尖った唇が可愛い。

お望み通り少しだけ急ごうか、実はこちらも

あまり余裕がないから。

先ずはその愛らしい唇にキスをして、次にロ

ーブの紐を解いて……


頭の中でシュミレーションする。

細い身体のあらゆる場所にキスをして、指や

舌を使い蕩けるような愛撫を贈る。

そして……最愛の人の中に入り一つになる…


早く溶け合ってしまいたいけれど受け入れて

もらうには準備が必要だ。

狭いままだと必ず傷つけてしまうから入り口

を解さなければならない、ローションを使い

指一本から始めよう。

本当は風呂で身体が温まっている時の方が解

れやすいのだけど……


そう考えて思考が止まる。

同性を抱いた経験なんて一度もないのに、ど

うしてそう思ったのか。

まるで経験したようなそんな感覚まで……


『シャワーをしながら指を入れてここを緩め

なさい。中も綺麗に洗っておくんだ』


突然脳内にそんな言葉が響いた。

聞き覚えのある声、そして見知ったバスルー

ムの映像が浮かぶ。

そこは子供時代を過ごした場所、そしてそう

言ったのは自分を引き取った養父……


「    !!   」


忘れていたその頃の記憶が鮮明に甦り、衝撃

と耐え難い吐き気に見舞われ俺は口を押さえ

ながらトイレへと駆け込んだ。


そして腹の中の物を戻しながら泣いた…

どうして辛い記憶を思い出したのか、なぜ今

まで忘れていたのかと……



**



捨て子だった俺は養護施設で育った。

そこは教会に併設され運営は寄付に頼るもの

で、年齢がバラバラな沢山の子供達が生活す

るには場所も狭く、世話をするシスター達の

数も不足した環境の悪い場所だった。


それでも衣食住に困らなかったのば莫大な支

援をする大富豪の存在があったから。

上級国民であるその人は慈悲の心でいくつも

の施設に寄付をし、定期的に孤児を養子へと

迎えてもいた。


俺のいた施設でも、その人の養子になれば広

い屋敷に自分だけの部屋が貰え美味しい物を

食べ贅沢に暮らせるのだと有名だった。

でもそれは富豪のお目にかなった極僅かな子

供だけ、何の取り柄もないチビな自分は該当

しないと諦めていた。


そんなある日、シスターが遊戯室に壮年の紳

士を案内してきた。

紳士は子供達を見回し、何人かと会話をした

のち部屋から出て行った。

その時俺も言葉を交わし、名前や年齢、将来

の夢などを尋かれ答えていた。


普段から度々あった事だから養子縁組希望の

人なのだろうと深く考えずに答えたけれど、

絡みつくような視線を向けられ気持ちの悪い

思いをした。

全身を値踏みでもするかのように見られ訳の

わかならない恐怖も感じた、でも時間の経過

と共に忘れていったんだ。


その数ヶ月後、俺と他数人の養子縁組が決ま

った。俺の里親になったのはいつかの紳士で

その人が噂の大富豪だったんだ。


**


少ない荷物を持ち迎えの車に乗った俺達は大

きな屋敷へと運ばれた。

豪華で頑丈な作りの門をくぐり、玄関前のロ

ータリーを素通りして屋敷の裏手にある建物

の前で降ろされる。


母屋と比べればこぢんまりとしているが、そ

れでも今までいた施設よりは大きく豪華な造

りだ。


「ここが新しいお家?」


一緒に来た二つ歳下の潤が訊いてくる、それ

に頷き繋いだ手に力を込めた。

ここが新しい生活の場所、夢のような暮らし

が待っているんだ。


「誰にも邪魔されない自分だけの部屋がもら

えるんだよ」

「おもちゃも取られない?」

「うん、自分だけの玩具ももらえる」

「うれしい!翔くんと一緒だからもっとうれ

しい!」

「僕も潤がいて嬉しいよ」


自分に懐いている潤と同じ家の養子になれる

のはとても嬉しかった。

この時俺達はこれから幸せな生活が始まると

疑わずにいたんだ……


**


清潔な身形、美味しい食事、与えられた部屋

にはバスルームまでついている想像以上の待

遇。屋敷に教師が来て学年別に教えているの

で学校には通わず、養子であることを揶揄わ

れることもない快適な毎日。


ただ一つ不満があるとしたら屋敷の敷地から

出るのを禁じられていること。

同じ顔ぶれの閉鎖された空間に、遊び盛りの

子供達は辟易していた。


だから週に数回訪れる養父は大人気だった。

幼い子供達は養父に纏わりつき、抱っこや一

緒に遊んでとせがんだりしている。


ここで暮らす子供は小1から小6までで男女

合わせて15人程いるが、無邪気な低学年と

比べると高学年は養父に緊張しているようだ

った。


小4の俺は潤のように養父に抱きつく事はし

ないが緊張することもない。だから高学年の

様子がどこかおかしく感じていた。


しかし、その数ヶ月後に彼らの緊張が何故か

わかるこになった。


**


「来週の金曜日、21時までに三階の図書室に

来なさい」


夕食の後養父に呼び止められそう言われた。


「図書室にですか?」

「そうだ。他の子達も集まるから遅れないよ

うに」

「………はい」


返事の後お辞儀をして部屋を出ようとすると

まだテーブルについている一つ年上の女子と

目が合った。普段話すことはないけどとても

綺麗な少女だ。


その少女は悲しそうな、そして憐れむような

表情で俺を見ている。

どうしてか気になったけど話す機会もなく、

結局聞けないまま金曜を迎えた。



「失礼します…」


21時5分前に図書室の扉を開けると中には

俺以外の4年から6年までが既に揃っていて

各々ソファーや椅子に座り本を読んでいた。

それを見てこれは高学年だけの読書会なのだ

ろうと思い込んでしまった。


注意深く皆を見ていればそんなわけがないと

気づけていただろう、彼らは沈んだ暗い表情

をしていたのに……


ただの読書会だと安心した俺は取り敢えず皆

と同じように椅子に座り読書を始める。

終わる時間になればきっと誰かが声をかけて

くれるはずだ。


しかし柱時計が9時の鐘を鳴らすと状況は一

変し皆本を閉じ椅子から立ち上がる、慌てて

それに倣うとそのすぐ後に図書室の扉が開き

養父が現れた。


「お帰りなさいませ、お義父さま」


皆がお辞儀をすると、養父は視線を走らせ全

員が揃っているのを確認する。


「皆いるな、それでは少し話そうか」


自ら近づきゆったりとした微笑みで言葉を交

わす養父だか、子供達は対照的に酷く緊張し

て硬い表情だ。


「翔、君は今日が初めてだね」

「……はい」


最後に俺の前に立った養父に舐めるような視

線を向けられ、初めて会った養護施設の時の

ようにねっとりしたそれに得体の知れない恐

怖を覚えた。


「それならばこれからの事を教えなくてはな

らないな。よし、今晩は翔にしよう」


腕をつかまれ立たされてついてくるように告

げられる。

どうして自分だけ?どこに行くの?

これから何が起こるの?

わからない事だらけで怖い、助けを求めて皆

を見ると全員が眼を逸らしていた。


そして皆が安堵の表情を浮かべているのを見

て俺の恐怖心は格段に増した。


**


連れてこられたのは三階の奥にある豪華な寝

室。広い部屋の中央には天蓋付きの大きなベ

ットが置かれている。

ここはこの建物での養父の寝室なのだろう。


どうして寝室?一緒に寝るため?

添い寝をすればいいのかな?

九歳の子供にはその程度しか考えつかないが

、恐怖と嫌な予感は続いていた。


「いいかい翔、これから起こることは誰にも

話してはいけないよ。話したら君はここにい

られなくなるからな」

「えっ?!ここにいられないの?!」

「そうだ。でも安心しなさい、私の言うこと

を聞けばそんなことにはならないから」

「……はい」


また施設に戻されるのは嫌だ、そんな思いか

ら養父に従うことにした。


「では、バスルームに行こうか」

「えっ??はい……?」


寝室からバスルーム?いったい何をするのか

全く想像ができない。


「さ、服を脱いで。シャワーを浴びよう」

「えっ?えっ?」


あっという間に全裸にされた。

そして頭髪から足の指先まで丹念に洗われ、

最後に尻の奥へと指を這わされる。


「ここが一番重要だぞ。今日は私がしてやるが、これからは自分で穴を解し丁寧に解して

広げておくんだ。出来なければお前の身体が

傷つくし私も快感が得られないからな、毎週

必ずするんだぞ」


養父はそう言いながらローションまみれの指

を押し込んでいく。

一本二本と数を増やしゆっくりと広げていく

それは快感など無縁の痛みと嫌悪感だけの時

間だった。


でも真の悪夢はその後、ベットの上で待って

いたんだ。

その夜、初めて俺は性の暴力をうけた……


**


養父は小児性愛者だった。

いくつもの施設に寄付をするのは、獲物を簡

単に手に入れ自分の欲を満たすため。

何人もが餌食になり、それを知りながらも施

設は子供達を差し出していた。


汚い大人の世界……

何も知らず施設で育つ方が幸せだろう。


汚い指で触れられる度に逃げ出したいと何度

も思った、でも今の生活を捨てる事は出来な

い。上がった水準は容易には落とせない。


恐怖とジレンマが続く日々に疲れ果てていた

時、『あと二年我慢しろ、そうしたらこの屋

敷を出て全寮制の学校に行ける。あいつの相

手をすることはなくなるんだ』と俺の状態を

見かねた二つ上の少年が教えてくれた。


確かに屋敷にいる養子は小学生だけだ。

中学生になり成長した身体に興味がなくなる

と家から出し新しく幼い子供を迎え入れる。

でも養子にした以上世間体もあるので18歳

までは金銭的に面倒を見るというセオリーら

しい。


二年は長い……

でも毎週相手をさせられるわけでもない、

運が良ければ一月以上何も無く過ごせるし。

そうして幼いながらに覚悟を決めた、残りの

二年間この地獄を耐えようと。


毎週金曜に行われる恐ろしい選抜を乗り切り

自由に向けて進むんだ。

暗い道だけど歩き続ける、だって明けない夜

はないのだから……


**


子供の頃のおぞましい記憶、地獄のような体

験を全て思い出した。

何故今まで強烈な記憶を忘れていたのか。

自己防衛のため無意識に記憶の淵に沈めたの

かな。


しかしこのタイミングで思い出すのは酷いと

思う。やっと愛する人と交わえるというのに

トラウマだ……


愛する人にあんなに辛い思いをさせたくない

あの嫌悪感を味わわせたくないんだ。


でも…智君とひとつになりたい

どうしたらいい、どうすればいいんだ……








まさかの翔くん犯られてた話

初?!初かな??わからん


ゆゆさん!山の日、メッセージで

知ったわ~産休三級!!



注 )シリアスじゃないよw