お山の妄想のお話です。




俺には悩みがある。



それは秘かに想いを寄せている人が一緒に

シャワーを浴びてくれないことだ。


これだけだと『はぁ?お前頭湧いてんのか』

と言われそうだが切実な問題なんだ。


俺は結構有名な歌って踊れる五人組のメンバ

ーなのだが、同じメンバーの青に恋心を抱い

ている。


別の誰かに奪われる前に自分のものにしたく

て、猛アピールをしているけど青は全然気付

いてくれないんだ。


他3人は俺の気持ちを知っている、でもだ

からといって協力してくれるわけではない。

ただ黙って傍観しているだけ。


邪魔されないならそれで一向に構わない、人

の力を借りずにあの人の心を掴みたいから。

とりあえず青にとって今の俺はメンバー、後輩、友達ポジションだ。


で、シャワーの話に戻るけど俺達はライブ後

にその会場にある風呂に入って汗を落とす。

スポーツの大会なんかも行う場所だから風呂

場はデカイ所が多い。


シャワーブースも、多い所はそれぞれ使えて

いいんだけど、中には壁で仕切られて三つし

かない会場とかもあるんだ。

そんな時は早い者勝ちで個室に飛び込みシャ

ワーする。


汗でベタベタした身体を早く洗いたいし。

そんな時個室を勝ち取るのは大抵俺と緑と紫

の三人で青と黄は出遅れるんだ。


誰かのシャワーが終わるのを待っていればい

いのに、悪戯心が旺盛な二人は無理矢理個室

に乱入してくる。


狭いスペースに男三人、ギュウギュウで肉弾

戦らしい。だいたい標的にされるのは緑で始

めは『狭いじゃん!出てってー』なんて叫

んでいるけどそのうちキャッキャッとハシャ

ギだす。緑は楽しいのが好きだからね。


だけど稀に『三人は無理だからっ!』って

一人追い出される、それは青の割合が多い

(黄は要領が良いから絶対に出ない)


すると青は俺の所でなく紫の個室に突撃して

『うわっ!何だよ!出ろよ!!』と非難さ

れながらも『おいらと紫の仲じゃん』など

と言い一緒にシャワーする。なんだかんだ言

って紫も満更じゃないようだ。


青は何故か俺の所には寄り付かない……

たまに紫に完全拒否されるとシャワーがあく

まで外で待っている、裸で待って風邪をひい

たら大変だから『青君一緒に入る?』って

誘ってみても『待ってるからいい』と断ら

れるんだ……


どうしてだ?

邪な考えを察知してるのか?

それは無いだろ、だって青は俺の想いに気付

いてないんだから。


……もしかして、実は俺の事が好きで恥じら

っているとか?

そうなら早く告って来て、何時でも俺はウエ

ルカムだからね。



そんな事を考えながら大きな浴槽に一人で浮

かんでいた。

今日の会場の浴場はシャワーがいくつもある

からサッサと浴びて湯船に浸かったんだ。


他の奴等もまだだから独占状態、こんな状況

たまにしかないから年甲斐もなく泳いでみた

りした。

今はハシャギ過ぎて疲れたからお湯から顔だ

け出してプカプカ浮いて休憩してる。


次のライブ会場はシャワーブースが個室だ、

今度こそ青とシャワーを浴びたい。

甘い汗の香りや狭い個室で密着する身体……

想像しただけで身体の芯が熱くなる……


誤解が無いように言っておくけど、断じて個

室内で青にオイタをしようなんて思ってない

からな!

ただ他のメンバーと同じように、仲良く楽し

くしたいだけなんだ!


そういうのは両想いになってから。

付き合っていくらか過ぎた頃と決めている、

大切な人だから順序を違えたら駄目なんだ。


仲間として楽しく一緒にシャワーを浴びたい

だけ、今の状況じゃ俺だけ仲間外れだろ。

(狭いシャワーブース内で洗いっことかした

いなぁ。よ、邪な気持ちはないからな!)


どうしたら青は俺の所に来てくれる?

秘かにケーキかアイスでも持って入って釣っ

てみるか?

青は甘い物好きだからな…

この作戦上手くいくかも??


ケーキは生クリーム、アイスはバニラ。

小さな口の端からツーッとそれらが垂れて、

輝く肌にポトリと落ちる……

香りたつそれを側にいる俺が綺麗にしてあげ

るんだ……


ザラザラしたスポンジなんか使わない、きめ

細かい美しい肌に傷をつけたくないからね。

細心の注意を払い俺の唇と舌で甘い汚れを落

とす……なんという至福!!!


誤解すんなよ、これはエロいことじゃないぞ

ただ青の汚れを落としているだけだからな!


色々妄想してニヤニヤしていると、浴場の

入り口が騒がしくなった。

どうやら他のメンバーも来たようだ。


それを別段気にせずプカプカ湯船に浮いてい

ると、ワイワイ騒ぎながら緑と黄が入って来

るのが見えた。

二人は壁際のシャワーに向かっていたが湯に

浮かぶ俺に気付き浴槽に寄ってくる。


「赤ちゃん、プカプカ浮いて気持ち良さそー

だね!オレもしようかな!」


緑はキラキラと眼を輝かせていて今にも湯に

飛び込んで来そうだ。いくらなんでも汗まみ

れではマナー違反、まずは洗ってこいと注意

した。


俺の言葉に従い緑はシャワーへと走る、黄は

それに『走ると危ないよ』と進言しながらも

浴槽の手前に止まっている。

早く汗を流したいだろうにここに居るという

ことは、俺に用事があるのかな?


「黄はシャワーに行かないのか?」

「行きますよ、ただ赤さんに警告しようと思

ってここにいるんです」

「警告?何だ?」


嘲るように言う黄、俺には訳がわからない。


「赤さん、あなた今まで青の事を考えてませ

んでした?」

「えっ?!うん、考えてたけど。何故?」

「……どんな事を?」

「どんな事って……青君に対して悩みがあ

ったから、その対処法とか考えてた」

「悩みって何ですか?」


黄に『俺の所にだけ青君が来てくれない』

なんて相談出来ない、馬鹿にされるのがわか

っているから。

でも青君と一緒にいる時間が長いこいつなら

彼が俺を避ける理由を知っているかもしれな

い。


それが解れば万策を練るのも可能だ、揶揄さ

れる可能性が高いが訊く価値はある。


「俺の悩みは…個室で数の少ないシャワー

ブースで俺の所にだけ青君が来ないことなん

だ。どうしてか知ってるか?」


思いきって尋ねると黄はシニカルな笑みを浮

かべた。


「あいつがあなたのブースに入らない理由は

知ってますよ。私からしても妥当だと感じて

ますしね」

「それどういう意味だよ!詳しく話せ」

「話す必要ないと思いますが?」

「何故だ!それじゃわからねぇよ!」

「あなた、自分の身体の事情もわからないん

ですか?鈍感すぎでしょ。それともソレが通

常なんですか?」


黄が指差すのは俺の身体、それも下半身。

こいつ何を言ってるんだ?そこには俺様の

存在感あるJr.が鎮座しているだけだろ。

胡乱に思いながらも少しだけ頭を上げお股

を見て驚いた。


いつの間にか俺のJr.が逞しく起っきして

いたんだ。風呂場の天井を仰ぐように聳える

存在感増し増しのモノ……

頗る元気だが俺は全然気付いてなかった。


「えっ?!あれ?いつの間に??」

「無意識でソレですか……先が思いやられ

ますね」

「生理現象だ仕方ないだろ」

「例え生理現象でもTPOをわきまえるのは

当然でしょ。人前で無意識でソコをそんなに

するなんて有り得ませんよ。どうせ今まで青

のやらしい想像してたんでしょ」


的確すぎてぐうの音も出ない。

まさに黄の言う通りだった。


「青があなたの所に行かないのは身の危険

を感じてるからです。その様子じゃ気付い

てないようですが、あなたの息子さん毎回裸

の青を見ただけで元気溌剌になってますよ」

「ええっ!!マジか!!」


始めて知った衝撃の事実……

そりゃ、自分を見て押っ立ててる奴と狭い個

室で一緒にいるのは怖いだろう。


「青はあなたの気持ちも知っていて満更でも

ないみたいです、でもその股間はいただけない。奴は危険に敏感ですからね」


なんてこった!!

俺のJr.がやらかしていたなんて!

しかも無意識って、これからどうすりゃいい

んだよ!


このままじゃ、一緒にシャワー♡なんて夢

のまた夢だ。というか、このままでは人間性

まで疑われそうだよ。


どうしよう……俺のヤンチャ坊主をどうし

たらいいんだ?

黄の言う通りJr.のせいで敬遠されている

ならシャワーブースどころか風呂場にも一緒

にいられなくなりそう。


マジで困った、俺は答えを探し必死に考えた

すると考え過ぎたせいか段々頭がぼーっとし

てきたんだ。

身体も無茶苦茶熱い……知恵熱かな……


***


「翔くん!おい、大丈夫か!!」


すぐ近くで大好きな声がする。

だけど何時ものおっとりしたものじゃなく

切羽詰まったような感じだ。


どうしたのかな?何かあったの?

問題が起きて困っているなら俺が力を貸す

よ、だから安心して……


そう言いたいのに喉がカラカラで声が出ない

頭もぼーっとしたままだしどこかおかしい。

それでも必死に重い瞼を開けると目の前に不

安そうな表情をした青君の顔があった。

何故こんなに接近しているのかわからないけ

ど、超ラッキー♡


「あっ!気がついたの?!よかったぁ」


目を開けた俺に気付き青君は安心したようだ

けど、『気がついた』って何?

自分の置かれた状況がわからずポカンとして

いると、青君の後ろからヒョッコリ顔を出し

た黄が教えてくれた。


「あなた風呂でのぼせたんですよ」

「えっ?!マジで??」

「ええ、意識を失くしてお湯に沈みかけてい

るのを緑が見つけて引き上げたんです。そし

てここまで運んで寝かせたんですよ」


キョロキョロと周りを見渡すとそこは風呂場

ではなく脱衣場だった。


「すまない、迷惑かけた」

「本当ですよ。調子こいて長時間湯船に浸か

っていたから」


……そうか、あれは知恵熱なんかじゃなく

のぼせただけなんだ……

思い悩みすぎたせいかと思った身体の異常は

のぼせだった。


「あんま責めんなよ、まだ調子悪いんだ

から」


迷惑をかけションボリする俺を青君が庇って

くれる、それに黄は鼻を鳴らした。


「責めてません、呆れてるんです。のぼせた

理由だってきっとしょうもないこと考えてい

たからでしょうしね」

「しょうもないことって何だよ?」


青君が訊くと黄はニヤリとした。

これは悪い笑いだ、俺の悩みをばらすつもり

かもしれない。

それを阻止するためわざと体調不良のふりを

して話を逸らそうとした。


「ああ~、気持ち悪り~。頭熱いし喉もカラ

カラだぁ」

「大変だ、おいらタオル濡らしてくる!」


それを本気にした青君は俺の額に乗せてある

濡れタオルに手を伸ばした、細く白いすべら

かな腕を見て気が付く。


……は、裸じゃん!!

きっと青君も風呂に入りに来て騒ぎに巻き込

まれたんだろう。

申し訳ない気持ちもあったけど、それよりも

裸体に目がいってしまう。こんなに近くで見

れるなんてそうそう無いから。


ドキドキしながら青君を横目で見た……

すっと伸びた首、細い肩と薄い胸、引き締ま

った腹(シックスパック!)

残念ながら可愛いお臍から下はタオルで隠さ

れていたけど眼福だ♡


「タオルを冷たくして、それから飲み物も

必要だな。サーバーはそこにあるけどスポド

リの方がいいかな……自販機で買うか」


何時も優しい人だけどこんなに献身的に尽く

してくれるなんて感動しかない。

彼に触れられないのは残念だけど幸せだ……

具合が悪いように見せかけて、もう少しだけ

この幸せを噛み締めよう。


「待って……側にいて…」


弱々しい声で懇願すると青君は弱りきった表

情をした。


「凄く具合が悪いんだな…どうしよう救急

車呼んでもらおうか」


いくらなんでもそれはヤバい。

仮病で救急車を呼ぶなんて言語道断だ。


「きゅ、救急車は呼ばなくて大丈夫。ただ

青君が側にいてくれれば…」

「おいらがいても処置できない。やっぱり

お医者に診察してもらわないと」

「そんなに心配しないで少し休めば治るよ」

「でも……」


どんなに平気と言っても不安が拭えないらし

く、青君は『とりあえずマネージャーに連

絡しなきゃ』と立ち上がろうとした。

それを黄がやんわりと止める。


「ちょっとお待ちなさい。マネージャーも

救急車も必要ないから」

「何言ってんだよ、赤くんすごく調子悪そ

うじゃねーか」

「いやいや、大丈夫。全然平気ですって」

「どこがだよ!」

「あれ、見てみなさいよ」


黄は冷ややかな目で俺のある部分を指差した


「無茶苦茶元気でしょ」


そこには掛けられたバスタオルを押し上げる

俺のJr.がいた……

これ、最悪なパターンじゃねぇか……


「 ……… 」


黄が指差した方向を反射で見てしまった青君

は全てを悟ったのか無言で風呂場へと消え、

残された俺は股間を隠しながら、なす術もな

くその後ろ姿を見送るしかなかった……


「ね、言った通りでしょ?躾をしっかりしな

いとこの先にあなたの幸せはありませんよ」


顔の横にしゃがんだ黄が涼しい顔で言う。

それを恨めしく思ったが、結局は自業自得…


このまま状態が悪化すれば日常でも避けられ

るようになるし、仕事にも支障がでる。

俺の恋の成就が遠くなる……


無意識でなっては為す術がない、それに下手

な事をして不能にでもなったら本末転倒。



結局、解決策は見つからないままこの先も辛

いバスタイムが続きそうだ。










この救いがない話は

ゆゆさんに捧……ぐふっ!


震えて握り締めてる 右手だけを

明日の道標にしてw


右手で握る……ww

自己処理やん♡




アホな話が終わったので

再び雲隠れします。