お山の妄想のお話です。
■ 姫始め & 抱負 ■
「さぁ!今年のお初をいたしましょうか」
新年に入って二日目の夜、ベットの上で翔く
んはやる気満々に言った。
おいらの返事も聞かず嬉々としてパジャマを
脱ぎ捨てるのをボンヤリ眺めていると、あな
たも早く脱いでと催促される。
促されるままTシャツに手を掛けた時、はた
とこのままじゃ駄目だと気付いた。
「いや、ちょっと待って。ヤるのはいいけど
今年こそはチェンジしねえか?」
毎年毎年役割りの変更を提案しているけど、
いつも舌先三寸で有耶無耶にされる。
おいらだって男だぞ、やっぱり入れてみたい
じゃん。だから今年こそはと強めに訴えた。
「チェンジって何を?寝る場所?」
「違う、入れるをのだよ」
わかっているくせにはぐらかそうとする。
埒が明かないのでハッキリ言ったけど翔くん
は焦るでもなく余裕綽々だ。
「抱くか抱かれるかってこと?」
「そーだよ」
「あなた俺にされるの嫌なの?」
「嫌じゃねーけど」
「じゃー今のままでいいでしょ、俺はあなた
が飛ぶほどヨくする自信あるし」
そりゃ翔くんは凄く気持ち良くしてくれる、
けどおいらも同じ様にメロメロにしてやりて
ーんだ。
「おいらと翔くんは恋人同士だよな?」
「そうだよ。というか、もう夫夫だよね」
「対等な立場だよな?」
「当然でしょ」
「じゃー、おいらが入れる方になっても文句
ねーだろ?」
「う~ん、それはちょっと違うんだな~」
「何がだよ?!」
「適材適所というものがあってね、俺はあな
たを突いて気持ち良くさせるのに特化してる
から入れられても智君を喜ばすことは出来な
いと思う」
じゃあ、俺は入れられるのに特化してるっち
ゅーのか?!何気にプライドを傷つけている
のわかってないの??
苛っとして絶対に引き下がらないと決めた。
「そんなんヤってみねーとわかんねぇじゃん
試しもしないで決め付けるとか横暴じゃね?
対等な立場とは言えないよな」
語気を強めると翔くんは困ったように黙り込
んだ。おいらは普段こんなに強気に出ること
はないから驚いたんだろう。
「どうしても俺を抱きたい?」
ずっと考えていたようで数分後にやっと口を
開いた。
「うん」
「そっか……」
「抱かせてくれる?」
「うん…と言いたいけど、そうするとアイ
デンティティの危機に陥りそうで怖いんだ」
「どうゆうこと?」
「自己の役割り、存在意義、目標を見いだせ
なくて混乱したり心理的な危機に陥るってこ
と。アイデンティティ・クライシスって人生
の中の様々なきっかけで起こるんだ、たとえ
ばトラウマになるような出来事とかさ。
そうなったらあなたとの関係や仕事に影響が
でてしまうんじゃないかな……」
そんな風に言われたらおいらが我を通すのは
困難になる、それを見越した発言だろう。
頭の良い翔くんの作戦だ、付き合いが長いか
らわかっちゃうんだよね。
「仮にそうなったら必ずおいらが支えてや
るから安心しろ」
でも今年のおいらは一味違うぜ、上手いこと
翔くんに乗せられはしないし。
それを聞き翔くんは一瞬『失敗した』とい
う顔をしたけどすぐに取り繕う。
これを機転っちゅーんだろーな。
「そうだね、智君の助けがあるなら安心だ」
「まかせとけ、だからいいだろ?」
やった!今年は逆だ♡と喜んでいたのに間髪
入れずに反論される。
「良くない。突然言われても心の準備が出来
てないし、何だかフェアじゃない気もする」
「はぁ?じゃー今までヤられたおいらはどう
なんの?それこそ不公平だろ」
「言いがかりは止めてよ、今までは同意があ
ったじゃない」
「同意っていうか、煙に巻かれてただけ」
「酷い言われよう……辛いよ…」
悲しそうな表情に少しだけ罪悪感を感じる。
しかしここで仏心を出したら負けだと強気を
貫く。
「智君がそこまで望むなら叶えてあげたいけ
ど葛藤がある。申し訳無いけど『はいそうで
すか』とは行かないんだ。で、ここはどうだ
ろう後々文句が出ないようにじゃんけんで決
めない?一発勝負でさ、それなら自分の責任
で運が無かったからって納得するし」
じゃんけんか…。
このまま話していても埒が明かないし、それ
ならそれでいいかもしれない。
勝率は五分五分、だけど今のおいらは負ける
気がしなかったので頷いた。
「一発勝負だから『最初はグー』はナシで」
「OK!後で問題になるからね、しっかり決
めておこう」
これは必要なこと、先に決めておかないと後
ではぐらかされるかもしれないから。
自分の不利にならないようにしとかなきゃ。
「それじゃ、サクサクやっちゃおうか」
何故か翔くんも余裕があるみたいで引っ掛か
りを感じたけど、決着をつけるためにさっさ
とじゃんけんをすることにした。
「じゃ、行くよ!じゃ~んけ~ん、ぽいっ」
翔くんの掛け声に合わせて拳を突き出す。
おいらはパー
翔くんはグー
結果、おいらの勝ちじゃん!!!
今年の神様はおいらに微笑んでくれた!
嬉しくって右手を上げてガッツポーズを作り
喜びを表現した。
敗者は悔しがってるかな?
もし悲嘆に暮れていても、優しくするから大
丈夫だと言って安心させよう。
そんな思いで翔くんを見た、だけど当の本人
は嬉しそうにニコニコしている。
負けたんだよ?したがってあれだけ嫌がって
いた受けになるのに、どうして笑顔??
あれ?なんか変じゃない…
嫌な予感が襲ってきた、まさにその時。
翔くんはおいらの右手を掴み『勝ったあなた
が受け!』だなんて宣言したんだ。
「ちょっ、勝った方が攻めだろっ!」
「違うよ、勝った方が受け。俺はそのつもり
でじゃんけんしたもの」
「はぁ?!そんな事言ってねーだろ!」
「俺だって勝った方が攻めなんて聞いてない
し、この世の中負けた方が大変な仕事をする
のが当然でしょ」
「大変な仕事って?!」
「愛する人を気持ち良くさせるのは重労働な
んだよ?自分の快楽は二の次で相手を喜ばせ
なくちゃいけないし力仕事でもある。そして
ムード作りから後始末までする事は多い。
ま、あなたへの愛の前には些末でしかないけ
どね」
「それ受ける方が楽だって言ってるのか!」
「そうじゃない、身体に相当な負担をかけて
いるのはわかってるよ。だから目合い以外の
ことをさせたくないんだ」
「おいらにはそれが出来ないと思ってる?」
「それはないけど……逆にあなたは出来る
自信があるの?」
「…………うっ」
自信があるか、と訊かれて言葉に詰まる。
翔くんほどのことが出来るかと言われたら無
茶苦茶自信が無い。
「愛を確め合うのに余計な事を考えたくない
でしょ?だから勝った方が受けってことでい
いじゃない。したがって引き続きあなたに愛
を注がせていただきます」
反論できず固まっていると納得したと思った
のか翔くんは微笑を湛えのしかかってきた。
おいらはベットに押し倒されながらデジャブ
を感じていた。
じゃんけん勝負
勝敗………前にもあったぞ?
ああ、あれだ。
昔少年隊の番組で嵐のリーダーを決めた
あの時と同じじゃねーか……
当時もおいらが勝って、負けた翔くんがリ
ーダーに決定だと喜んでいた。
なのに翔くんと東山さんが『勝ったからリー
ダー』とか言って結局リーダーにさせられた
んだ。
全然納得いかなかったけど、どうにもできな
かった……
その後聞いた話だと、翔くんは勝っても負け
ても理由をつけておいらをリーダーにするつ
もりでいたらしい。
今回も同じパターン、狡いよ…
釈然としないけど、反論しても絶対に言いく
るめられてしまうのは予測できる。
どう主張しても弁が立つ翔くんは論破してく
るはずだもの。
不本意だけど今年もネコで我慢しよう。
次はじゃんけんなんかで決めないぞ!
もっと正当性のあることで決めよう。
一年かけて考えれば良い案も浮かぶはずだし
来年こそは絶対翔くんをヒイヒイ言わせてや
るからな!覚悟しとけよ!!
来年はババ抜きで勝負しよ♡
by 翔
■ お雑煮 ■
コトコトと鍋から音がして蓋を開けると良い
匂いが漂う。
いい感じで具材が煮えてきたみたい、そろそ
ろお餅の準備をしようかな。
「お~い、お餅何個?」
食べる数を訊くと『2個!』と返事があった
ので袋からまずは二つ取り出した。
おいらはどうしよう?2個いけるかな?
一つか二つか悩んでいると翔くんが側に寄っ
て来ておかしな事を言いだす。
「智君用のお餅はなるべく小さく切っておい
てね~」
「は?おいら用の餅を??なんで?」
「だって喉につかえたりしたら大変でしょ」
いくら世間に『おじいちゃんみたい』と言わ
れようがおいらはまだ若い、喉につかえるな
んてあるわけないんだ。
「餅をつかえたりしねーよ」
今までだって一度もそんな経験はない、噎せ
たことはあるけどさ。
「万が一を心配してるんだよ、あなたに何か
あったら大変だもの」
「大丈夫だよ、変な心配すんな」
「お餅にかぶりついてハムスターみたいな頬
のあなたは可愛いだろうけど、小さなお口に
いっぱい詰めたら飲み込めるか不安になるん
だもの」
「翔くんじゃあるまいし…口いっぱいに頬
張ったりしねえよ。それにもし喉に詰まらせ
たとしても助けてくれるだろ?」
何を言っても小さくしろと言う翔くん……
心配してくれるのは嬉しいけど、小さくした
餅なんて食いたくねー。
だから敢えて言ってみた。
「いざという時の対処は学習済みだけど…
まず背中を強く叩いて詰まったものを吐き出
させる背部叩打法がある。でも、非常事態と
いえ大切なあなたを叩くなんて出来ない…
他には腹部突き上げ法ってのもあるけど、あ
なた細いから壊してしまいそうで怖いんだ。
だから最悪な事態にならないようになるべく
なら小さな餅を食べて欲しい」
この要求はおいらを愛するが故ってことか。
でもさー、心配し過ぎだろ。
おいらお年寄りでも小さい子供でもないんだ
から放っておいてくれよ……
本当はそう言いたいけど、翔くんの切実な顔
を見たら突っぱねられない。
「いやいや、まだ手はあるだろ?確か掃除機
で吸うってやつあったよな。仮においらが餅
を喉に詰まらせたらそれやって」
そう提案してみた。
昔からあるやり方のようだし、身体を叩いた
り締め上げたりしないから安心だろ。
でも翔くんは激昂した。
「馬鹿な事を言わないで!掃除機で吸うのは
とても危険で絶対にしちゃいけないとも言わ
れてるんだよ!」
「へっ?!そうなの?」
「大事な大事なあなたに出来るわけない!」
正月の餅一つでそこまでおいらを想ってくれ
るなんて、とてもいじらしく思えた。
おいらの運命の相手が翔くんで良かった…
とか本気で感動したのに、次に出た言葉で全
てが吹き飛んだ。
「それに、あなたの可愛いお口に入れていい
のは俺のだけだもの。汚らわしい掃除機の吸
引ノズルなんて絶対入れさせないよ!」
人によったら百年の恋も冷めるだろう台詞。
でもおいらは悲しいかな慣れっこだったし、
翔くんはこれが通常運転だとわかっている、
従って対処法を弁えてるんだ。
「あー、だったら翔くんが吸ってよ」
「えっ?!」
「掃除機が駄目なら翔くんが口で吸いだして
それなら安心でしょ」
ウインクを付けて言えばもう大丈夫。
翔くんはすぐその気になるしw
「うん!それなら大丈夫!俺の命に代えても
餅を吸いだすからね!」
どうやらこれでおいらの餅は小さくしないで
すみそうだ。
餅一つで面倒臭いけどこれはこれで面白い。
ヤバイな、
おいら翔くんに毒されているみたいw
終わり!