天然の妄想。




「やっぱり人気の店とかは無理じゃん」

「そうですよね、誰に見られてるかわからな

いし」

「バレたら事務所の偉いさん達が激怒するし

今年も無難にドライブ、夜景、その後部屋に

直行パターンかな」

「ま、部屋の方が落ち着くしイチャイチャで

きますからね」



目の前で翔くんとニノがクリスマス イブの

予定を話している、今年も恋人と過ごすらし

い……


羨ましいな……

これは『彼女がいて』ではなくて『翔くん

とイブをすごせる彼女』が羨ましいんだ。


おいらね、実は翔くんが好きなの。

何年か前から自覚してたけど告白してない。

……だって玉砕するとわかってるからさ。


マゾじゃないからわざわざ自分から傷を負い

にはかないし、それによって気持ち悪がられ

たり距離を置かれる方が嫌だもん。

だから今も胸の痛みを堪えつつ、普段通りに

振る舞っている。


「プレゼント何にした?」

「前に欲しいって言ってたブランドバックに

しました」

「へー、俺はネックレス」

「指輪じゃないんですね」

「そうゆうのは別の機会、覚悟を決めた時だ

ろ」


まだまだ続く二人の会話。

どうしても聞こえてくるそれに、凹んだ気持

ちで指先を弄っていると横からニュッと手が

出て来た。


「はい、あーんして!」


手の主は相葉ちゃんでおいらの口許に蜜柑を

差し出している。

反射で口を開くと丁寧に実を入れてくれた、

こういうちょっとしたことにも優しさが滲み

出ている。


「おいし…」

「良かった!もう一個食べる?」

「食べる~」

「も~、大ちゃん可愛い♡」


何時もよりテンションが高い相葉ちゃん…

結構キテるみたい、おいらと同じで好きな人

の惚気なんて聞きたくないんだろうな。


相葉ちゃんはニノが好き、おいら達は同じ境

遇なんだ。

心の痛みも淋しさも共有してるから辛い時は

助け合える、今も『恋人ごっこ』で気を紛ら

わしてくれてる。


おいらと相葉ちゃんはピンでの仕事が無くて

冠番組のロケがよく一緒になる。

『恋人ごっこ』は長い移動や待ち時間の暇

潰しで始めた遊びだ。


初めのうちは『彼氏』『彼女』と役割があっ

たけど今は無い、そーいうのを感じさせない

恋人同士的なものになった。


「おいらも食べさせてあげるぅ♡」

「や~ん、嬉し~w」


お返しに蜜柑を差し出すと相葉ちゃんはおい

らの指先も一緒に含んでしまう。

うけ狙いだってわかるから乗ってあげた。


「やだ~指は食べちゃ駄目ぇ」

「どうして?おいしーよ」

「んふふ、感じちゃうから~」

「そうなの?大ちゃんエッチだね~」


恋人ごっこのおかげで気分が浮上し、ケラケ

ラ笑っていたらニノが呆れたように言った。


「そういうくだらない遊びやめなさいよ、

見ているこっちはドン引きですから」

「えー、別にいいじゃん!ニノちゃんに迷惑

かけてないでしょー」

「見せられるだけで迷惑!ごらんなさい、翔

さんは不愉快そうですよ」


翔くんを見るとニノの言葉通りに顔をしかめ

ている、真面目な人だからこんな遊びは嫌い

なのかも。

男同士だからかメンバー同士だからかはわか

らないけど、翔くんは生理的に受け付けない

みたい。やっぱおいらに望みなんてない…


「……気持ち悪かった?ごめん」


せめて嫌われたくないから謝ると、翔くんは

一層眉をひそめた。


「気持ち悪くはないけど、そういうのは良

くないんじゃないかな。嵐のファンなら遊び

だってわかるけど、そうじゃない人達にはガ

チだと思われかねないし…」

「翔ちゃんの心配はソコなの……?」

「他に何があるっていうんだよ」


……そりゃそうだよ、悪い噂はグループに

はマイナスだしね。


「それは心配ない、オレらだって馬鹿じゃな

いしTPOはわきまえるよ!」

「でもな」

「でもな、じゃないよ!オレらより翔ちゃん

達が気を付けてよ、イブを一緒に過ごす恋人

がいるなんて知られたらファンが激オコで大

変なことになるし」

「俺はそんなヘマしない」

「そう言ってバレてる人結構いるよ?」

「……なんだよ雅紀、今日はやけに絡むな」

「絡んでないでしょ、心配してんの。今だっ

て楽屋だから安心して話してたんだろうけど

さ、ADさんとかも頻繁に出入りしてるし何

処で誰が聞いてるかなんてわかんないよ」


いつにない相葉ちゃんからの正論に翔くんは

黙り込む。


「もうじきクリスマスだからって浮かれるの

も程程にして、その日に楽しく過ごせない人

だって大勢いるんだからね!」


それっておいら達のことだよね……

好きな人と一緒にいられないの確定で、しか

も惚気まで聞かされたから苛ついちゃった?

こんなに憤った相葉ちゃんを見るのは久し振

りだな。


「あなた何を興奮してるんです?」

「人の気持ちを考えないデリカシーのない人

達に怒ってるだけ!」

「それは私と翔さんのこと?」

「逆に他に誰かいる?」


ニノと翔くんはお互いに顔を見合せ首を傾げ

る。わからなくて当然だよ、だっておいら達

の片想いだもん。


「あーばちゃん、ジュース買いに行こ」


何だか虚しくて二人から離れることにした、

自販機で甘いココアでも飲めば相葉ちゃんも

落ち着くだろうし。



そんな事があってから翔くん達はクリスマス

の話をしなくなった。

だけど収録の休憩時間に頻繁に携帯でメール

をしてる、イベントに向けて恋人との連絡に

余念がないんだな。


おいらと相葉ちゃんは飽きずに『恋人ごっ

こ』を続けている。

それを見て翔くんは露骨に眉をひそめ、おい

らは嫌われたと凹む。

相葉ちゃんは然り気無い優しさをくれ、それ

に癒されたのか段々と胸が痛むこともなくな

った。


「大ちゃん、24日予定ある?」

「ん?別にないけど」

「ならオレと遊んで?」

「いいよ~。仕事も無いしその日に遊んでく

れる友達もいないからね」

「やった!じゃ、二人でパーティーしよ!」

「いいね!パーッとやっちゃう?!」


クリぼっちより二人でいた方が楽しいから。

でも疑問もある、だって相葉ちゃんは友達が

多いから他の誘いもあったはずだ。


それなのにおいらと?

もしかしておいらを選んでくれたのかな…

だとしたら……嬉しい


えっ??嬉しい??

自分の考えに驚いた、たってイブを二人で過

ごすのに喜びを感じてるんだよ?

クリぼっちよりは良いとか思っていたけど、

この気持ちはそれと違う。


もしかして、いつの間にかおいらは…


お日様の様に笑う相葉ちゃんにおいらの胸も

ポカポカと温かくなった。



12月24日、クリスマスイブ

世の中は浮かれまくっている。


おいらにとって今までこの日は二つの意味が

あった。一つはやはりクリスマスイブ、そし

てもう一つは嵐のメンバーである相葉ちゃん

の誕生日だ。


勿論毎年プレゼントは贈っていた。

だけど誕生日を祝うパーティーなんかしたこ

とはなかった。相葉ちゃんは仲の良い友達に

(風間とか)祝ってもらってたみたいだし


だけど今年は違う、どこかの神様より相葉ち

ゃんをお祝いする。

大切な仲間、友達、そして想いが届くなら恋

人としてね。


……駄目だったら、そのままクリスマスパ

ーティーに変更すればいい。

相葉ちゃんは優しいからきっと変わらぬ態度

で接してくれるもの。


「ケンタどーしよ……予約してないから無

理かなぁ。コンビニのでいいかな?それと

も肉を買って家で揚げる?いや面倒だろ」


オードブルなんかは昨夜簡単に作っておいた

けどチキンを用意してなかった。

上手く行っても失敗してもクリスマスパーテ

ィーはするんだし、やっぱりチキンは必要だ

よね。


収録が終わり帰り支度をしながらブツブツ言

っていると、一緒の仕事だった翔くんが何か

言いたそうにおいらの所に来た。

恋人と会うためにきっちり予定を組んでたは

ずだけど、どうしたんだろ?


「翔くん急がないでいいの?」


どこかで待ち合わせのはずだけど。

時間は大丈夫なのかと心配になった。


「……今日の予定は無くなって」

「えっ?彼女に急用ができちゃったの?」

「そうじゃないんだ……少し前に別れて…」

「ええっ?!どうして??」

「色々思う所があって、彼女より大切な存在

に気づいたんだ。自覚してしまったらもう彼

女と一緒にいられなくて…」

「……………そうだったんだ」


少し前まであんなに楽しそうに彼女とのクリ

スマスを予定していたのに……

正直驚いてしまった。


「それでね智君、突然なんだけど今晩俺に付

き合ってもらえないかな」

「おいらと?」

「うん……」


少し前だったら例え誰かの代わりだとしても

翔くんとイブを過ごせるなら即座にOKし

ただろう、そんな切ない想いを抱えていたか

らね。だけど今は違う、おいらの心は別の方

向に動いているんだ。


「ごめん、おいら大切な人と会うんだ」

「えっ!!大切な人?!」

「そう、大切な恋人」

「ちょ、それ誰!」

「おいらの恋人って言ったら相葉ちゃんしか

いないだろ」

「それって『恋人ごっこ』でしょ」


何故か焦っていた翔くんは相葉ちゃんの名前

が出た途端ほっとしたみたい、遊びの延長だ

と思ってるんだろうな。


「恋人ごっこかそうでないか、今晩それをハ

ッキリさせるつもりなんだ。だから翔くんと

遊べないの。じゃ、急いでるから」

「ま、待って!それどういう意味なの!」


再び焦りだす翔くん、だけど今はそれを説明

する時間はない。

だって急がないと相葉ちゃんが家に来ちゃう

もの。


おいらはパニックを起こしている翔くんを残

して楽屋を飛び出した、チキンの件は置いと

いても予約したケーキは絶対に受け取ってお

かなきゃならないもの。


運命をかけたケーキ

おいらの想いを受けてくれたら、きっともっ

と甘くて美味しいはずだよ。



テーブルの上には各々用意した豪華な料理と

別々の店のケーキの箱が二つ。

ひとつはおいらが用意した運命のケーキ

もうひとつは相葉ちゃんが持ってきた有名店

のものだ。


「どっちが用意するとか決めてなかったから

二つになっちゃったね~」

「んふふ、そーだね」


両方ホールケーキらしくて結構な量になりそ

う、二人とも甘いもの好きだけど食べきれる

かちょっと心配。

……後でやけ食いになるかもだけど。


「あのさ、パーティーを始める前に相葉ちゃ

んに聞いて欲しいことがあるんだ」

「えっ?実はオレもあるの」

「そうなの?どっちが先?出来たらおいらが

先に話したいんだけど」

「……わかった、オレ後でいいよ」


やっぱり優しいな。

駄目でも絶対に相葉ちゃんは優しいままだろ

う、卑怯だけどそれに甘えるよ。

それでもやっぱり勇気がいる、何回か深呼吸

をしてから覚悟を決めた。


「今日はおいらにとって特別な日、神様じゃ

なくて大好きな人の誕生日を祝いたいの」


それだけ言ってケーキの箱を開いた。

中はイチゴのショートケーキだけどクリスマ

ス用の飾りは一切ない、そのかわり真ん中に

大きなチョコのプレートが乗っている。


〖相葉ちゃん大好き♡付き合って〗


文字はおいらがチョコペンで書いたもの。


「相葉ちゃんが好き。『ごっこ』じゃなく

て恋人としてお祝いさせて欲しいんだ」


精一杯の告白をした。

返事を暫く待ったけど相葉ちゃんは驚いた顔

でケーキを見ていて何も言ってくれない。

……やっぱり駄目かな、遊びならいいけどマ

ジでは男となんて有り得ないよね…


悲しいけど想定内、実はもう一枚チョコプレ

ートを用意してたんだ。

そっちの文字はMerry Christmas☆

付け替えればクリスマスケーキに早変りさ…    


『なんちゃって!ビックリした?』 

とか言って冗談にしちゃおうか、相葉ちゃん

も空気を読んでくれるだろうし。


そう決めてチョコプレートを外そうと手を伸

ばすとガッチリと掴まれた。


「超嬉しいよ。オレも誕生日を大好きな人に

祝って欲しかったんだ。だけど大ちゃんは翔

ちゃんが好きだと思ってたから言えなくて」

「嘘っ、だって相葉ちゃんはニノが…」

「うん、好きだったよ。だけど大ちゃんとい

たらその想いはいつの間にか消えちゃった。

オレ大ちゃんが好きになってたの、だから翔

ちゃんのことで傷つくのを黙ってられなかっ

た、守りたい優しくしたいって思ってた」

「それ本当に本当なの?」


にわかには信じられなかった、だって長い間

ニノを想っていたのを知ってたから。


「オレの気持ちは本物!大ちゃんも本当だよ

ね?後で嘘ぴょ~んなんて言わないでよ」


相葉ちゃんもやっぱり一寸疑ってる、お互い

辛い時間が長かったからね。


「言わないよ~」

「じゃあ、もう『ごっこ』は卒業だね!」

「うん、おいら達は恋人!」


感極まって抱き合おうとしたけど、間には御

馳走が乗ったテーブルがあるから断念。


「最高に嬉しいけど、ちょっと悔しいな」

「悔しい?」

「そー、好きって先に言いたかった~

先を譲らなきゃ良かったよ」


本気で悔しがっている姿が可愛くて、つい

笑ってしまった。

おいらは格好良くて優しくて可愛い大切な人

を手に入れた、ずっとずっと大切にするよ。



それから日付が変わるまで、おいらは全力で

誕生日をお祝いした。

用意したケーキは恋人の笑顔と相俟ってとろ

けるように甘く最高だった♡


そして25日は恋人として初めてのクリスマス

も過ごした、相葉ちゃんの持ってきたケーキ

も美味しくいただきました♡





とさ。





お山じゃナイネ

m(_ _)m



その後

真実の大切な存在に気付いた翔

しかし時既に遅し

愛する人は他の男のものに…


絶望を味わうが

奪い取ることを決意する


そしてドロドロの恋愛ドラマが

幕を開……かなーいw