お山の妄想のお話です。
サト
「それでね、姫が……」
ショーがニコニコしながら話す。
とても隣国訪問が楽しかったみたい…
そして縁談が囁かれていた姫君とも親しくな
ったようだ。
「考えも合理的で無駄がないし完璧で、俺は
凄く感心したんだよ。さすがは次期女王だな
って」
隣国から帰ってから口を開けばずっと姫君の
ことばかり……
これって惚気話なの?
ショーは姫を気に入ったってことだよな…
そんなに素晴らしい人と結婚するなら自慢し
たくなるだろうけど、おいら聞きたくない…
でも人質のおいらには『聞きたくないから
話すな!』なんて言えない…
なので内心苛々しながらも仕方無く相槌を打
っていた。
「サトにも姫を紹介したいな、きっと気が合
うと思うんだ」
姫君とおいらが?
豊かな国の王女と小さい国の第二王子兼人質
だぞ、きっと価値観とか全然違って話しにも
ならないよ。
「……へぇ…ショーがそんなに誉める人な
ら会ってみたいなぁ」
心にもない事を言ってみた。
ショーを虜にした人になんて会いたくないの
が本音、自分と比較して惨めになるのがオチ
だもの。
「本当?なら話を進めてしまおうかな」
「えっ?何?」
「今度は姫をこちらに招待しようと考えてい
たんだ」
「ここに……」
「そう、友好を深めるためにはこの国のこと
も知ってもらわなきゃね。サトの国と同様に
長く同盟を結びたいから」
そう言ってニッコリと笑う……
おいらは複雑な気持ちだった。
だっておいらの国は属国、隣国とは置かれた
立場が違うもの。
隣国はここには劣るけれど広大な土地を持ち
軍事力もある。ショーと姫が結ばれたら殊更
勢力を増して周りの国々の宗主国となるだろう。
二人は明君とそれを支えた賢妻として歴史に
名を残すんだろうな……
おいらは哀れな人質として…いいや、きっ
と繁栄した国の影に呑まれて存在すらなくな
るだろう。
ショーと同じ時代に生きた証もなく、誰にも
知られないまま消えるんだ。
……それもいいかもね。
小国の第二王子、継承権もない人質のおいら
には相応しい。
「湖の畔に白い花が咲く頃でいいかな。船か
ら見たら白い絨毯みたいで凄く綺麗なんだ」
「……へぇ」
「サトは見たことないよね?だから一緒に行
こうよ」
「うん……」
「よし!そうと決まれば善は急げだ。親書を
書いて送ろう」
楽しそうに書斎に向かうショー、それとは逆
においらの心は沈んだ。
このままトントン拍子に事が進んで二人は幸
せな結婚をする……
そしたら、おいらは?
人質のままここに留められ、幸せな姿を見続
けなきゃならないの?
大好きな人は幸せであって欲しいけど……
辛くて悲しいのは嫌だよ
あんな思いはもうしたくない……
「……………ん??」
そう考えて引っ掛かりを感じた。
『あんな思い』って?
これ迄の人生で該当するものは無いけど……
もしかしてあの〖沈む夢〗の人物と自分を
混同しているのかな。
リアルな夢だから無意識に実体験と取り違え
てしまったのかも。
だとしたら、やっぱり嫌だ…
あんな想いはやるせないもの。
そうなる前に逃げ道を作らなきゃ
……ショーの結婚を機にこの境遇からの解
放を王様に訴えてみようか……
強大な国にとっては小国の人質なんて用無し
だろうし。
そうしたら自国には帰らないで他の国々を旅
してみたい、色々な場所に行き様々な経験を
して沢山の人と出会うんだ。
ショーを忘れるくらい毎日を忙しく楽しく過
ごして、いつか運命の人に巡り会う。
愛する人と幸福に溢れる時間を過ごせば心の
傷なんてすぐに癒えるさ…
ショーに姫君がいるように、おいらにだって
素敵な相手がいるはずだ。
赤い糸で結ばれた大切な人……
「どんな人かな……おいらの相手」
こんな人がいいなって想像すると、おかしな
ことに最終的にショーになる……
……おいら重傷だ
このままじゃ、絶望の淵に沈むしかないよ
ショー
隣国から戻るとサトの様子がおかしかった。
沢山の土産を渡しても浮かない顔だし、旅の
話にも関心がないようだ。
特に王女の話には素っ気ない感じがする……
どうしてだろう?
幼い頃からサトとずっと一緒にいたからわか
るけど、王女とは絶対に知り合いじゃない。
だから悪い感情は無いはずなのに。
まさか父王の謀りごとを知っていた?
だから妬いてくれているのかな?
だったらとっても嬉しいんだけどね。
俺も王女も全くその気はないから余計な事は
話していないけど……
王女の第一印象は控えめだが賢く強い人、
サトに似ていると思った。
それだけで好印象だったけれど、王女は俺と
の婚姻はないと断言し更に株を上げたんだ。
お互い愛する人がいて、王女は別の問題も抱
えている。俺を信用して極秘事項のそれを話
してくれた。
苛酷な生い立ちと先行きが見えない不安、
その中にあってなお凛とした姿に感嘆した。
王女ならきっと望む未来を手に入れる、しか
し暫しの休息も必要だ。それには気を張り詰
める自国より他所の方が良い。
ここに招待しよう、幸いにも湖の畔にある城
を父王から譲り受けたばかりだし。
そこはサトのために手に入れた城。
二人でのんびり過ごす場所が欲しかったから
サトを王女に紹介したいし、お披露目にも丁
度良い。
そう考えて然り気無くお伺いを立てたけれど
やはり気が進まないようだ。
でも俺は心に決めたことがあるから、サトの
反応をあえて無視してこの計画を進めること
にした。
「それには必ず王女に来てもらわないとな。
さて、文をしたためるとしますか。
まずは、親愛なるニーノへ……と」
王女への手紙を書きながら、湖の風景を思い
浮かべる。
蒼く澄んだ水面と一面の花畑
そして『綺麗だね』と微笑むサト……
……絶好のロケーション
美しく咲き誇る白い花の中で一世一代の告白
をするんだ。
二度と悲劇を繰り返さないように、そして今
度こそ最愛の人と結ばれるために……
m(_ _)m