お山の妄想のお話です。




「ああん!文句あんのか!ゴルア!」


目の前でヤンキー座りのヤンキー達が凄む。

金パで単ラン……

内側にはドラゴンとタイガーの刺繍……

ちゅーか、制服はブレザーだぞ??

無茶苦茶校則違反じゃねーかよ……


「……文句と言うか。校則違反です」


かなりビビっているけど、ここで挫けるわけ

にはいかない。

なぜなら俺は立候補者の中からブッチで当選

し、教師からの覚えもめでたい新生徒会長な

のだから。


校内の治安を守るのは俺の役目、どんなに恐

ろしい容貌の相手でも注意しなきゃならない

んだ。


「校則だぁ?!そんなモン知ったことかよ」

「あなたもここの生徒なら守ってもらわない

と………」

「うっせー!!俺らに意見すんな!」

「意見じゃなくて……規則…」

「校則なんて破るためにあんだよ!それにオ

レは番長様の言葉しか聞かねー」


どういう理屈だよ!と思いながらも言葉には

しない。こういう輩は刺激しちゃ駄目だ。

しかし『番長』には反応してしまう、俺は会

ったことはないがかなり恐ろしい人らしい。

それは渾名が物語っていた。


「番長って、三年の魔王…」

「テメっ!呼び捨てしてんじゃねー!!

様を付けろよ様をよう!!」


ヤンキーは立ち上がり俺の胸ぐらを掴んだ、

番長に敬称を付けなかったので怒りを買った

ようだ。


「まっ、苦し…」

「生徒会長だか何だか知らねーけど、俺らに

とっちゃ番長様がトップなんだよ」


ギリッと首元を絞められ息苦しく意識が遠

退いていく。


「なにしてんの?」


その時のんびりとした声が踊り場に響いた。


終わった……

こんな場所に来るなんてヤンキー仲間に違い

ない。人数が増えれば俺には不利、生意気だ

とボコボコにされる未来しかなかった。


ここは人気のない特別教室の棟、不良の溜り

場で一般生徒は近付かない。

したがって助けてくれる人はいないんだ。

だけどその人の声は穏やかで、もしかしたら

と少しだけ希望を持った。


「うるせぇ!!黙って……あっ…」


俺を絞めている奴がイキッて声の主を見、突

然固まった。

他の奴等も一瞬動きを止め、ニヤケた顔を引

き締めて立ち上がる。


「お、お疲れ様ですっ」


直立不動で丁寧な挨拶…

もしかして声の主は位の高いヤンキー??

だとしたらマジで終わった……


一般生徒が生意気を言ったとチクられて、き

っと酷い目に遭わされるんだ。

羽交い締めにされてグーパン、みぞおちに膝

蹴りとか……

明日は顔の造形が変わって別人のようになっ

ているかもしれない。


しかしそんな事より、成す術もなく不良にボ

コられた生徒会長だと後ろ指を指される方が

辛い。鳴り物入りの新生徒会長なんだぞ、せ

めて反撃して一矢報いれば心証もそこまで悪

くならないんじゃないか?


やられっぱなしの情けない奴とレッテルを貼

られるのは嫌だ、人に暴力を振るったことは

ないが一発でもお見舞いしたい。

そんな思いから俺も声の主を見た。


「………えっ???」


しかしそこにいたのはある意味期待を裏切る

容貌の人だった。


あまりにも細く華奢で身長も俺より低い、

そしてなにより顔だ。

鬼のような強面ではなく春の日のタンポポの

ような穏やかさと優しさを兼ね備えた美しい

ものだったんだ。


こんな人が本当に不良なのか?

そんな疑問が湧くがヤンキー達の態度を見れ

ば力のある存在なのだろう。

だけど……華奢な身体や美しい顔を見てし

まったら『殴る』なんて出来ないよ。


俺は自身の立場より『美しいものを傷付け

ない』という事を優先した。

へなちょこな俺の一撃が彼に傷を付けるとは

思えないけどね。


潔く殴られる覚悟を決め、せめて怪我が酷く

ならないようにと身体の力を抜いた。

その間もヤンキーとタンポポの君(仮)の

やり取りは続く。


「大勢でなにやってんだよ。そのイケメンが

おめぇらに何かしたんか?」

「えっ?!あの、校則を守れとかふざけたこ

とを言いまして…」


やっぱりチクられた……

俺はこの美しい人に殴り飛ばされるのか…

諦めが胸に広がる。


「えっ?おめーら校則破ってんの?それ駄目

じゃん」

「えっ!!!」

「へっ???」


その時タンポポの君が思いも寄らない発言を

し、ヤンキーも俺も驚く。


「校則なんて社会規範に比べたら甘々だぞ?

そんなのも守れないんじゃ世の中生きていけ

ねーよ」

「で、でも、俺達には俺達なりの信念があり

まして…」

「どんな?普通の学生にイキるのがか?それ

をカッコいいと思ってんの?弱いのに勝って

も名声は望めないぜ。おいらとやっておめー

らが勝てば話は変わるけどな。どお?やって

みる?」


言いながら構える、隙のないそれと圧倒的な

威圧感にヤンキー達は慌てた。


「そ、そんなっ!あなた様にそんなこと」

「弱い奴をからかったりして、すみませんで

したっ」


土下座でもしそうな勢いで謝り俺から手を離

す。それを見たタンポポの君は構えを解くと

満足気に笑った。


「もうやっちゃダメだぞ?次はお仕置きだか

らな」

「はいっ!!」

「なら、もう行けよ」

「はいっ!それでは失礼します!」


ヤンキー達はきっちり90度にお辞儀をする

と脱兎の勢いで離れて行く、その姿が視界か

ら消えるとタンポポの君は俺に向き直り申し

訳なさそうに言った。


「迷惑かけて悪かったな」

「えっ…いえ…」

「下の奴等を纏められないなんて、番長失格

だよなぁ~」

「…………………えっ???」


番長??

目の前の人からは全く想像できない言葉だ。


「あの…あなた番長さん…なんですか?」


聞き間違いであって欲しいと思いながら訊ね

るとコクリと頷く、そして柔らかな微笑みを

見せた。


「そー、不肖ながら番長なの」

「………うっ」


こんなに穏やかな番長が存在する?

もしかしたらこれは欺くための表の顔なんじ

ゃないのか?

魔王とまで呼ばれる人がこんなに可愛いはず

がない……


騙されちゃ駄目だ。

俺はより良い高校生活を皆に過ごしてもらう

ためにヤンキー撲滅を目標にしている、いく

らこの人が無害そうでも粛清対象なんだ。


でも、どうしよう……

目茶苦茶可愛い!!

だがしかし、規律を乱す番長…


感情の鬩ぎ合いで百面相をする俺を、首を少

し傾げながらほけ~と見ている姿のなんと愛

らしいことか!


駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ~っっ

と脳は警鐘を鳴らすけど心は番長に惹かれて

いる。対立するか協調するかこの場で決めな

くては……


「ねぇ、大丈夫?あいつらに何かされた?

怪我してんのか?」


挙動不審な俺を心配して可愛い番長(仮)が

近寄って来た。側に来れば来るほど俺の胸は

ドキドキと高鳴る。

恐怖からじゃない、これは……


「怪我してんなら見せろよ、手当てしなきゃ

ならないだろ」


彼は俺から一歩手前の位置で立ち止まった。

もう覚悟を決めなきゃ、いや、既に決まって

いる。


「…本当に手当てしてくれるのですか?」

「うん、責任とらなきゃ」

「では俺のハートを撃ち抜いた責任をとって

下さい」

「ふぁ??」

「付き合ってください!」


番長とか生徒会長とか関係なく仲良くなりた

い、親密な関係になりたいんだ。

一目惚れですぐに告白なんて、俺って実は凄

く情熱的だったんだな。


「ぷっ、おもしれ~凄ぇ冗談w」


しかし可愛い番長(仮)は全く本気と思っ

てくれなかった。



***



「……なんて事があったよね」


立入禁止の屋上で愛しい人と夕焼け空を眺め

ている。


「あん時はマジで冗談だと思った。だって初

対面でいきなりだもん」

「一目惚れだったから仕方無いでしょ」

「本当?吊り橋効果つーヤツじゃないの?」

「だとしたらすぐに間違いに気付くよ。あれ

から数ヶ月経った今でもドキドキするからこ

の気持ちは本物なの!」

「んふふ、ガチで?」

「マジでガチ!」


隣で愛する人が穏やかに笑う。

最初は全く相手にされなかったが挫けず猛ア

タックした成果だ。


男同士だし生徒会長、番長という立場上公に

は出来ないけれど俺達はひっそりと愛を紡い

でいる。

例えば今のように立入禁止の屋上で密会とか

ね、規則違反だけど二人の時間を得るためだ

から会長特権で不問としよう。


「でもさ、翔くんもだいぶ丸くなったよね。

就任したての頃は規則規則ってうるさかった

のに今じゃ自分から破りにいってるもん」

「智君のおかげで厳しいだけじゃ駄目だって

気付いたの」

「おいら?何かしたっけ?」

「ヤンキーさん達に強要じゃなく、やんわり

規律を守るように言ってくれたでしょ。圧制

は良くないって分かったんだ」

「度を越した違反したらお仕置だぞって言っ

ただけだけど」

「それで守ってくれるんだもの、あなたは信

頼されてるんだよ」

「こそばゆいからよせよ~」


恥じらう姿がとても可愛い。

でもこの人は魔王と渾名が付くほど喧嘩が強

い「人は見かけによらない」を体現してい

るんだ。


「ふふ、可愛い」

「ばーか」


智君ははにかみながら胸ポケットから小さな

箱を出し、その中から一本取り出すとパクリ

と口に咥えた。


「あっ!!それ違反だよ!」


指摘すると不服そうに俺を睨む。


「なんだよ~、これくらいいいじゃん」

「駄目っ!」

「翔くんにも一本やっからさ」

「いりません!」

「タバコじゃないからいーじゃん」


言いながらカリカリと音をさせた。

智君が咥えているのは煙草ではない、シガレ

ット型砂糖菓子だ。ハッカの香りとココアの

風味のそれを俺も子供の頃によく食べた。


「校内へのお菓子の持ち込み禁止って生徒手

帳に載ってるでしょ」

「他の奴等だって休み時間とかにお菓子食べ

てるだろ、それは見逃してんのになんでおい

らだけ駄目なんだよ」

「だって本物の煙草と間違われたら困るじゃ

ない」

「そんな理由?絶対誰も間違わないよ」

「そうかもだけど、駄目なものは駄目」

「翔くん横暴~」


文句を言いながらも一本食べ終えると箱をし

まう、こんなところも愛しくてたまらない。


「甘いのが欲しいなら別のものにして」

「飴ちゃんとか?」

「飴やチョコもいいけど俺ならもっと甘いの

をあげられるよ」

「それなに?美味いもの?」

「うん、欲しい?」

「美味いならちょーだい」


無邪気に欲しがる智君。

俺はしめたとばかりに細い頤に手を添え上向

かせると、そのぷるぷるの唇を自分のもので

塞いだ。


甘い甘いキス


これは校則に無かったから違反じゃない。

もしかしてどこかの項目に含まれていたら

それ自体を規則から消してやるんだ。


愛しい人のためならどんな事も出来る。

これじゃ、生徒会長失格かな。


「ね、甘かったでしょ」


長い口づけの後、自分史上最高の笑顔で尋ね

ると智君は暫く見惚れていたけど、突然我に

返りプッと頬を膨らませた。

不意打ちだから怒ったのかな?


「甘かったけどさ、翔くんがいない時はどー

すんだよ」


思いがけない言葉に頬がいっそう緩む。


「甘い物が必要じゃなくなるくらい会う度に

キスするから」

「………それでも欲しくなったら?」

「その時は飴ちゃんで」

「じゃー翔くんが買って」

「いいよ」


智君にせがまれ帰りにコンビニで飴を買わさ

れることになった。

一寸勿体無いと思う。

俺はケチじゃないからお金じゃない、飴の方

だ。


だって智君がその飴を食べる機会は永遠にな

いからね♡









たまにはイチャ×2

こんな奴に権力を握らせたら

アカン




TVのリモコン壊れた(泣)

YouTube観れない

pc立ち上げ面倒臭い

スマホ画面小さい

最悪どすわ