お山の妄想のお話です。
目の前には二人の女子。
俺と彼女等は見つめあっている…
なんてロマンチックなものではなく、睨み合
っていた。
「私達の方が先に店に入ったのよ?当然注文
はこっちが先でしょ!」
「そんなの関係ない。俺の方が早くウェイタ
ーを呼んだし」
「呼んだだけでまだオーダーしてないじゃな
い!」
「あんた達、俺が説明を受けてるのを盗み聞
きして先にオーダー通そうとしただろ!汚いぞ!」
絶対に負けられない戦い。
それは目玉商品の『シャンパンタワー』
料金は三千円とかなり高いが、それに見合う
だけのスペシャルさがあるんだ。
***
本日は我が高校の学園祭。
この日は外部の一般の方達も校内に入り自由
に楽しむ事が出来る。
俺は暫し生徒会を抜けさせてもらい、可愛い
弟達と祭りを楽しんでいた。
中三のさぶは昨年も来たけど中一のしろごろ
は今回が初めてで、あちこち回っては楽しそ
うにしている。
「ねぇ二郎さん、そろそろ一郎さんの所に行
きましょうよ」
「一兄のクラスは飲食が出来る模擬店って言
ってたよね?歩き回って疲れたから一休みし
に行こう」
「オレお腹空いちゃった~、いっちゃんとこ
で何か食べよーよ」
「最初からそのつもりだったのに、お前達が
ウロチョロするから時間をくったんだぞ」
言われるまでもなく、弟達と合流してからい
ち君の模擬店へ行くべく突き進んでいる。
それなのに奴等は展示物や小物雑貨、バザー
なんかを見かけては寄り道しているから中々
到着しないんだ。
「ゴメン、でも一兄の教室って遠いの?」
「いち君の模擬店は旧校舎の応接室を使って
るから結構距離があるんだよ」
旧校舎はこの学園の最初の建物で、現代的な
今の校舎と違い洋風の木造建築で歴史的価値
があるので一部を残し保存している。
普段は立入禁止だけど今回特別に使用許可が
おりたらしい。
「どんなお店かなぁ。お腹にたまる料理があ
るといいな~」
「さぶ兄さっきたこ焼き食べてたのに…」
「喫茶店だとしたらサンドイッチくらいじゃ
ないですか?あとはケーキとか」
「それじゃ足りないよ~、お好み焼きとかな
いかな。カレーでもいいや」
「ナポリタンもいいよね」
いち君のクラスは喫茶店だと弟達は思い込ん
でいるけど実際はわからない。
生徒会長の俺でさえ何の模擬店か知らないん
だ、それはこの学祭の特殊なルールのせい。
一年生は基本見物(部活での模擬店などは別)
二年生は生徒会での審議を通ればクラス別に
展示や模擬店を出すのが可能。
三年は生徒会ではなく学年主任の許可があれ
ば良しとなっている。
これは最後の学園祭を存分に楽しめという理
事長の意向らしく、余程倫理に背くものでな
い限り出店は許可される。
因みに過去にはメイドカフェや女装男装喫茶
などが承認された。
だから行ってみないとわからないんだ。
俺としてはメイド姿の可愛いいち君に
『おかえりなさいませ、ご主人さま♡』
とか言われてオムライスにケチャップで
〖じろくん♡大好き♡〗とか書いて欲しい
そして『おいしくな~れ♡』『フゥフゥ、あ
~ん♡』なんて萌え萌えで食べさせてもらう
んだ♡ヤバい、天国じゃんか。
「二郎兄、顔!」
「不気味です」
ふわふわないち君を妄想してニヤけていたら
双子に白い目で見られてしまった。
マズい、兄としての威厳が……
*
いち君のクラスの模擬店は俺達が予想して
いたようなものではなかった。
普通の喫茶でもメイドカフェでもない……
なんと、ホストクラブ(喫茶)だったんだ。
生徒会長としては学園祭でこれをやって問題
にならないのか??と心配だったが、教師が
OKを出したのなら大丈夫だろうと思うこ
とにした。
ホストクラブは盛況で入室を待たされた。
応接室の前の廊下にはホストの写真が貼り出
されていて、それを見て客は指名を決めるら
しい。
移動しながらチャラついたホスト(学生)の
写真を眺めていたら、なんといち君の写真も
あった。
源氏名はリョウ
額が出るように前髪を分け、こちらに向かっ
て淡く微笑む写真は麗し過ぎて皆が立ち止ま
りぽ~っと見惚れるほどだ。
しかも『指名ナンバーワン』などと貼って
ある。
いち君がナンバーワンなのは当然!!
しかし、こんなに美しい姿を他の奴等に見せ
るのも近づかせるのも嫌だ!
あの甘い香りを不特定多数が嗅ぐなんて絶対
に許せない!俺だけが知っていればいい!
女子に微笑みかける姿を想像しただけで嫉妬
に震えたが、弟達はただただ感心していた。
「わ~っ、いっちゃん凄くカッコいい!」
「ふふ、当然ですよね」
「一兄は前髪があった方がイケてる。ナンバ
ーワンも当たり前だよ」
そりゃそうだ、『俺のいち君』だもの!
……と言っても、まだ兄弟以上の関係には
なれていないけど。
「くそっ、不服だが仕方無い」
今日は楽しい学園祭だし可愛い弟達もいち君
のホストに期待している、嫉妬のせいで場の
雰囲気を壊すのは申し訳ない。
何とか悋気を抑え、リョウの接客を楽しみに
順番を待った。
*
「申し訳ありませんが、一組20分の時間制
限となっております」
やっと俺達の順番になり、ウェイターに案内
されて席に着くと時間制限があることと指名
ホストはワンテーブル一人だと説明を受けた
指名は勿論いち君一択なので弟達はホストの
プロフィールなどそっちのけでメニューをガ
ン見している。
俺はカフェオレと決めていたので部屋の中を
眺めていた。
応接室は広く家具はロココ調でまとめられ、
ゴージャスなソファーセットやサロンテーブ
ルに数人のグループが座っている。
お客は皆女子。
まあ、普通はホストの店に男は来ないよな。
いち君のクラスの模擬店じゃなきゃ俺達だっ
て来やしなかったさ。
楽しそうにチャラ男と話す女の子達を生暖か
い目で見ていると、部屋の一角にスポットラ
イトが当てられているのに気付いた。
そこには造花などで飾られた小さなテーブル
がありグラスがタワーのように置かれている
積み重ねられたそれはライトに当たりキラキ
ラと煌めいている。それが特別のような物に
感じて、どんな趣旨か知りたくなった。
なので丁度通りかかったウェイターに訊いて
みた。
「あのスポットライトって?」
「ああ、あれはシャンパンタワーです」
シャンパンタワー……
たしかグラスの天辺からシャンパンを注いで
いくヤツだよな?
「一回三千円だけど興味あります?」
「そんなにするの?!」
「あれに使うシャンメリー代が結構かかるか
ら。でも特典もありますよ~」
「………どんな?」
「まず、セットでオールコールが付いてきます」
「オールコール??」
「ここにいるホスト全員が集まって盛り上げ
ます。そして指名ホストとのツーショと全ホ
ストでの集合写真を記念にプレゼント!」
「 !! 」
指名ホストとのツーショという言葉ですぐに
決心がついた。なぜならここは写真撮影が禁
止で盗撮も出来ないように入り口でスマホを
預けたから。
実は麗しいいち君の写真が撮れないのを嘆い
ていたんだ。
それに仮に写真撮影が出来たとしても、いち
君は絶対一緒に写ってくれないだろうし。
「それ!注文…」
「ちょっと待って!!私達がシャンパンタ
ワーオーダーします!」
俺の言葉を遮るように突然隣のテーブルの女
子が声を上げた。
どうやら俺とウェイターの話に聞き耳をたて
ていたようだ。
「え?えっと、でも生徒会長の方が…」
「彼はまだオーダーしてなかったわよ」
早い者勝ちだと言いたいのか女子は食って掛
かりウェイターは困惑気味にこっちを見た。
きっと当事者同士で決めてくれと言うことだ
ろう。
「あんた達がオーダーの途中で割り込んで来
たんだろ。それに先に彼を呼んだのは俺だ」
「店に入ったのは私達が先なのよ?オーダー
だってこっちが先でしょ!」
「入った順番なんて関係ないだろ!とにかく
シャンパンタワーは俺がオーダーする!」
毅然とした態度をとると女子達は怯んで黙っ
た、なのでそのまま通すことにする。
「指名はリョウで!」
「えっ!私達もリョウを指名したいわ!」
「先にオーダーしたのはこっちだから、あん
た達は別のホストにしなよ」
「嫌よ!シャンパンタワーを譲ってあげたん
だから指名はこっちが優先よ!」
「何言ってんの?譲ってもらってないし」
頓珍漢な事を言うなと一瞥をくれてやると、
それが癇に触ったのか一人がキーキーと騒ぎ
始めた。
「あなた年下のくせに生意気よ!生徒会長だ
からって威張ってるの!」
「俺は真っ当なことを話してるだけで、年下
も生徒会長も関係ないだろ」
「関係あるわよ!生徒会長は生徒のためにあ
る役職でしょ、いわば生徒ファーストじゃな
きゃいけない立場よ」
『だから譲れ』と?できる訳ないだろ!
いち君の晴れ姿(?!)滅多に拝めない麗しい
姿でのツーショを譲り渡すなんて愚の骨頂。
それにお願いすれば普段拒否られる事も、こ
の場のノリでしてくれるかもしれない。
流石に兄弟だし、妖しい噂が出回るようなも
のは頼めないけど(チューとか)
お姫様抱っこくらいなら何とかOKがもらえ
るかも……
勿論俺がいち君を姫抱きするんだけどね。
夢のように幸せなツーショは絶対にスマホの
待ち受けにするし!なんなら引き伸ばして部
屋の壁紙にしてもいい!
妄想が大きく膨らみ、これは絶対に負けられ
ない戦いだと強く思った。
「ふざけんな、絶対に譲らない!」
「なんですってぇぇぇ」
生徒会長という立場などかなぐり捨て、望む
ものに突き進む。
それは女子達も同じで全然譲らない。
ヒートアップし互いに引かず睨み合い、周り
を気にする状況じゃなかった。
なのでその時、俺の頭からは弟達の存在が完
全に消えていたんだ。
***
そのせいで惨めな巻引きになるなんて
想像もしていなかった……
ホストクラブ…
行ったことないしw
田舎には無いしw
嵐以外にお金使いたくねー