お山の妄想のお話です。
「ふんふんふ~ん♪」
美しい鼻唄が響き渡る台所。
アメリカンサイズの無駄に広いアイランドキ
ッチンで作業しているのは愛しい人。
彼は今日の戦利品を上機嫌で捌いている。
休みを丸一日使い釣りに行き、長時間の戦い
の末に釣り上げた大物らしい。
「このカンパチ、デカイだろ~オフショワジ
ギングで上げたんだ~。一時間は格闘したなぁ」
15キロはありそうなカンパチを上手におろ
しながら釣り上げるまでを嬉々として話して
いる。
普段無口な彼が饒舌なのだから余程エキサイ
ティングな体験だったのだろう。
「……へ~、凄いね」
愛する人が過ごした幸福な時間。
本当なら一緒に喜ぶべきだろうけど、俺の心
は幾分か冷めていた。
だって、俺を一人家に残して後輩達と船釣り
に行ったんだぜ?
恋人であるこの櫻井翔を残して!!
『一緒に行く?』なんて尋かれることもなく
早朝にこっそり一人で出掛けたんだ。
目覚めた時、腕の中に愛する人がいなかった
喪失感たるや……
ナイーブなセンチメンタル青年の俺は枕を涙
で濡らしたよ。
しかも智君を慕っている…いや、あわよくば
と狙っている後輩達とだぞ!
何かの拍子に狼に変貌して襲われても大海原
にポツンと一隻だけ、逃げ場はなく助けてく
れる人もいないんだ。
智君が食べられたらどうしよう……
あの人は意外と強いから大丈夫!!
数分毎にそんな事を考えて、カモメになって
釣り船まで飛ぼうなんて柄にもなくメルヘン
な思考になってしまったりもした。
……俺は高所恐怖だからカモメになっても飛
べるかはわからんけどもな。
大切な人は無事に生還出来るのかと、一日中
不安や焦り猜疑心や嫉妬で悶々としていた。
それなのに智君ときたら釣りに夢中で全く音
沙汰なし。
せめて数時間に一度はメールなりラインなり
送ってくれと懇願したのに、愛しい人には全
たく切ない男心が伝わっていないんだ。
そんなだから色々と心配で外出も出来ず折角
の休日がヤキモキしただけで終わってしまった。
こうして無事に帰ってきたのは神様に感謝す
るけど、どうにもやるせない。
故に智君の語る武勇伝に素っ気なく返すのは
許して欲しい。
「刺身と照り焼き、あとは大根と煮てあら汁
も作ろ。翔くんに美味いものたらふく食わせ
てやるからな!」
なんてニコニコして言うのは反則だよ、俺の
怒りが有耶無耶になりそうだ。
智君が釣って調理した魚だもの、他の高級魚
よりも美味しいはずさ。
*
集中している姿は真剣そのもの、綺麗な手が
包丁を握り滑らかに刺身を造る。
独特なリズムがある動きは彼の得意なダンス
みたいで見惚れてしまう。
そして夢中になっているせいかチョンと尖っ
た唇が可愛い過ぎる。なんだかエンゼルフィ
ッシュみたい、智君も天使だからそう思える
のかな。
…………あ~、キスしたい。
料理をしている姿に発情とか変態っぽいけど
長い時間触れてないから当然だよね。
しかし迂闊に手を出せば、あの刺身包丁で捌
かれる危険性がある……
そうなると今度はまな板の魚にさえ嫉妬して
しまうよ、だって智君に全身余すところなく
ベタベタと触られているんだもの。
あの魚は智君に釣られて幸せだろうな……
俺がお魚さんなら絶対に智君に釣られたい。
あのぷるっぷるな小さな唇が餌なら食いつい
て絶対に離さない、そして目茶苦茶暴れて竿
を上下左右へとしならせてやるんだ。
人間の俺なら存分に手で抜いてあげられるけ
ど、お魚の俺にはヒレしかないからね。
最後は快感に竿から撒き餌が吹き出して、白
く粘着質のそれが俺の全身に降り注げば最高
だ。それって所謂顔しゃだよな。
「ふふっ…」
智君の唇と竿で淫靡な想像をし愉悦に浸って
いる間に、彼の人は刺身を終え次の料理に取
り掛かっている。
大根を持っているから煮物に使うか褄にする
んだろう。
恋人……刺身……つま……そして人が寝られる
程の大きなアイランドキッチン……
ボンヤリと周りを見ながら考えてしまった、
もし俺が釣り人で智君を釣り上げたならどう
しようかと。
とりあえず作業台兼テーブルに智君を横たえ
て服を脱がす…いや、お魚さんは最初から裸
だろ。
それから捌いていく?いやいや、無理だ。
基本俺は料理が出来ないし大切な智君に傷な
んてつけられない。
ならばその美味しそうな裸体をそのまま頂こ
うかしら?
いや、折角の大物だから特別な食べ方にしな
いと……
特別とは……さて、どうしよう。
食べる事は好きだけど調理法や盛付けなんか
はさっぱりわからない。
過去に食べたものや興味があったものを考え
ていると、若かりし頃にやっていた深夜のち
ょいエロ番組を思い出した。
そういえは衝撃を受けた料理?があったな。
あれは確か、〖女たい盛り〗というやつだ。
仰向けになった裸の女性の体を器にして刺身
なんかを盛るんだ。
刺身を食べ進めると、いや~んな部位やあれ
~の部位が現れるという余興的なもの。
それを智君の体ですればいいんじゃん!
刺身なんかは買ってくればいい、置くだけな
ら俺にだって出来るし。
大トロ、中トロ、赤身なんかはお腹の上で
白身魚は胸の上、そうすれば赤いボッチが透
けて見えるからね。
お股の上には海藻を乗せてその上には大好物
の貝を置こう。
アワビ、赤貝、ホタテにサザエ、つぶ貝もい
いよね。白ミル貝を捌かないで置いたら智君
の智君も紛れてしまうかも。
お箸で摘まんでも取れなかったらそれは大当
たりってことでww
「くふふっ……」
最高な妄想にまたもや笑いが漏れてしまった
だってさ、ミル貝じゃなくても俺は絶対に含
むもの。噛めないけど舐めたり吸ったりして
味わうよね。
「…………翔くん」
怪訝な声で呼ばれ顔を上げると、さぞかし不
気味な笑いだったのか智君がドン引きして俺
を見ていた。
「あ、ごめん。料理が美味しそうだから早く
食べたいな~と思って笑っちゃたんだ」
「……そう?もう少し待ってくれな」
苦しい言い訳だけど素直な智君は信じてくれ
たみたいで、テキパキと汁に味噌を入れ始め
た。これ以上不審がられないようにイケナイ
妄想を止め気を引き締めないと。
だってこれから美味しい料理とお酒でお腹を
満たし、そして濃密な恋人達の時間になるの
だから。
俺の挙動不審を怪しまれでもしたら幸せな時
間が失くなりかねないよ。
今日、置いていかれた不満と憤りはあなたを
乱すことで晴らすつもり。
ビクビク動く活きのいい身体を押さえ付けて
俺ので奥まで突いてあげるから。
だから智君、
シーツの波間で存分に俺に溺れてね♡
終る
ゆゆさん、ネタあんがとー
せやけどエロくならんかった
消される恐怖から
ヤバそうな所は一部ひらがな