お山の妄想のお話です。
小さい頃の記憶。
夏休みは田舎の祖母ちゃんの家に遊びに行く
のが恒例だった。
過疎の村で子供は全然いなかったけど自然の
中には遊ぶものが沢山あったし、そこに住む
じいちゃんばあちゃんは皆優しくて俺は田舎
が大好きだった。
その日も朝から一人で遊んでいた。
でも、ふと普段の遊び場ではなく裏山に行き
たくなったんだ。
しっかり管理された低い山で危険もないので
祖母ちゃんも『気を付けるんだよ』とは言っ
たけど許してくれて、ワクワクしながら探検
した。
そこで同じ年頃の男の子に出会った。
遊び仲間が欲しかった俺達はすぐに仲良くな
って毎日日が暮れるまで一緒にいた。
その子の名前は『しょーくん』キリッと整っ
た顔の不思議な子。
何が不思議かって言うとしょーくんは光って
たから。ピカピカではなくてボンヤリとだけ
ど俺には光って見えた。
俺達は山を駆け回って毎日楽しく過ごしてい
たけど、とうとうしょーくんが都会の家に帰
る時が来てしまった。
しょーくんは泣きながら離れたくないって言
てくれて凄く嬉しかった、でも俺もここにい
られるのは夏休みが終るまでだから、来年ま
た遊ぼうって約束して見送ったんだ。
淋しかったけど絶対にまた会える、そう思い
ながら過ごした。
でも次の夏、一緒に遊ぶことはなかった。
しょーくんは俺が誰かわからなかったから…
認識されず拒絶されたことがとてもショック
で、それから怖くて山へは行けなかった。
今考えればしょーくんが俺と『さと』を別
人だと思った理由がわかる。
初めて会った夏迄はひいばあちゃんの言いつ
けで女の子の格好をしていたからだ。
『男の子を病気にさせる神様から守るため』
とひいばあちゃんに言われて田舎に居る間だ
け女の子の服を着ていた、だからしょーくん
は俺を女だと思っていたんだろうな。
しょーくんが大好きだった……
だけど、しょーくんは女の子の『さと』が
好きだったみたい。
俺の初恋、そして初失恋だった。
ほろ苦い思い出の彼に二度と会うことはない
と思っていた。
実際10年以上一度も無かったのに…
*
美術系の短大を卒業後、イラストレーターの
職にはついたが仕事が無くてコンビニでバイ
トをする日々。
有名なイラストレーターになってバリバリ金
を稼ぐ!みたいな野望はないけど、自分の絵
が認めてもらえないのにくさくさしていた。
そんなある日、やっと貰った小さな仕事に行
き詰まった。このままでは納得がいく絵が描
けない、妥協するのは嫌だ。
取りあえず気分転換が必要だと感じ、以前ニ
ノに『和也様の勇姿を見て自分を奮い立たせろ!』と渡されたDVDを観ることにした。
ニノは超絶人気のトップアイドルグループ
『あなし』のメンバー。
でも俺はニノの活躍なんて全然知らないし芸
能界に全く興味もない。
これは良い機会なのかな、『もう観た?』
とニノに訊かれるのもそろそろウザくなって
いたし、キラキラしたものを見ればインス
ピレーションが湧くかもしれないなんて安易
な気持ちだった。
そして映像を見て驚いたんだ、だって子供の
時に出会ったしょーくん以来何年振りかに光
る人を見つけたから。
画面の中で歌う『あなし』の四人、その中
の一人がとても耀いていた。
最初演出かと思ったけど曲や衣装が替わって
もその人だけがピカピカしているから違うと
気付き、目の異常も疑ったけどその人以外は
通常通りで問題無さそう。
ナニこれ?どういうこと??
取りあえず疑問を解消するために光る人物を
良く見てみると、会ったことのあるような懐
かしい感覚がした。
売れっ子の芸能人ならCMなんかで見たこと
があってそう感じたのかも……
でも俺はほとんどテレビ見ないからな…
もう少し良く見ようとその人がアップになっ
た瞬間に画面を静止した。
写し出されたのはイケメン。
…………あれ?やっぱ知ってる…?
意思の強そうな眉やアーモンド型の大きな目
に見覚えがある……
なんだか懐かしさを感じ、少し胸も痛む…
「……しょーくん……?」
あのしょーくんが芸能人に?
まさかニノと同じグループなんて、そんな偶
然有り得ないでしょ。
そう思いながらスマホで『あなし』メンバ
ーを検索して我が目を疑った。
だって初恋の人の面影がある人物の名前が
〖櫻井翔〗だったから。
この人……本当にあの〖しょーくん〗なの?
だから光って見えるのかな…
でも、どうしてまだ彼が光って見えるのだろ
う?あれから何年も経っているのに何か意味
があるの?
とても不思議で不可解なことだけど、相手は
雲の上の人だから直接会って確かめるなんて
無理だろうな……
でも……知りたい…
まだキラキラ煌めいて見えるのはなぜか、
そしていまだに胸が痛むのはどうしてなのかを…
*
大きな会場、普段は野球の試合をしているみ
たいだけれど今日はダイヤモンドではなくス
テージが建っている。
観客も女性ばかりで男の姿なんて自分以外は
見当たらない……
ここは『あなし』のコンサート会場、俺は櫻
井翔がしょーくんなのかを確かめに来た。
DVDを観た後、散々悩んで最終的にニノに頼
むことにした。勿論詳細は伏せて、ただライ
ブを見たいとだけ伝えたんだ。
そしたらニノは『やっと俺の勇姿を見る気に
なったのか!』と嬉々として席を用意してく
れた。
目立つ席や関係者のいる場所は嫌だと言って
おいたのに、用意されたのはセンステの最前
列……しかもその会場で行われる全ての日数分
のチケットを渡された。
頼んでおいて返すのも何だし、きっとこの先
アイドルのコンサートに行く事もないだろう
から良い経験になる、そう考えて有り難く全
日参加することにした。
会場が暗くなり演奏が始まる、そして歌声と
共に四人が現れた。
一曲目はメンステでの披露で俺の席からは遠
かったけど、どれが〖櫻井翔〗なのかはすぐ
にわかったよ、だって眩しいほど光り耀いて
いたんだもの。
そして彼が俺の前に来た時確信したんだ、
この人は〖しょーくん〗だって……
画面越しでないその顔は心の中のしょーくん
と面差が一致したから。
それから数日間同じ席で彼を見続けた。
センステに来るとしょーくんは不思議そうに
俺を見る、それは訝しがっているようにも思
えた。当然だよね、連日同じ席にムサイ男が
いるんだもの。
そんなしょーくんに俺は目を眇める、それは
眩しいのと悲しみのせい。
しょーくんが気付かないのは当たり前なのに
勝手に傷付く自分が憐れだな。
このライブでわかったこと
櫻井翔はしょーくんだった
そして胸の痛みが更に強くなったこと
どうやら昔破れたと思っていた恋はずっと続
いていたみたい、心の中に大事にしまってあ
ったんだ。それがまた芽吹いてしまった…
馬鹿だな、叶わないって現実を目の当たりに
したのに。
彼は俺を知らないし『さと』のこともとっく
に忘れているんだから。
もう完璧に諦めるべきだよね……
*
コンサートが終わると俺は現実に戻った。
原稿の依頼が来るのを待ちながら深夜のバイ
トに勤しむんだ。
……しょーくんの事も考えない、もう忘れる
んだもの。櫻井翔も同じ。
ニノには悪いけど『あなし』には関わらない
ことにした、ライブも二度と行かない。
そうしていればいつか想いは綺麗さっぱり消
えてなくなるだろうし。
なのに、努力を踏みにじる事件が起きた。
櫻井翔がバイト先に現れて俺に『さとちゃ
んでしょ』なんて訊いてくるんだ。
だとしたら何だ、そうだとわかれば用済みだ
ろうと冷たくあしらったのに櫻井翔は怯まず
に『友達になりたい』とか言う。
俺は絶対に無理だと思った、彼が近くにいる
限り胸の想いは消えない『只の友達』にな
んてなれないよ。手に入らないものに焦がれ
続けるのは辛いしね。
だから突っぱねていたのに、その後バイト先
に何度も来てしれっと話し掛けてくる、全く
悪びれない態度にいつしか俺も絆されて友人
同士のようになってしまった。
子供の頃と同様で一緒にいると楽しくて幸せ
だけど、俺は心を引き締める。
彼は友人として見ているだけ、それ以上に俺
の事が好きって訳じゃないってね……
*
バイト先以外でも何度か会い遊ぶようになっ
て、いつしか『智君』『翔くん』と呼び合う
ようになっていた。
初めて二人で飲みに行き、楽しくてつい飲み
過ぎて酔っ払ってしまったらしい。
そして良い気分で目覚めた場所はなんと翔く
んの家だったんだ。
俺は無茶苦茶焦った、だってトップアイドル
の部屋だぜ!
どこかでハパラッチが張っていて写真とか撮
られたら大変だ、唯でさえ胡散臭い男なのに
身元とか調べられて万が一にも翔くんへの邪
な想いがバレたりしたら一大事。
とばっちりで翔くんまで同性愛者だなんて思
われたら困る、俺のせいで濡れ衣を着せられ
て人気が落ちたら申し訳ないじゃ済まないもの。
お礼を言い直ぐに帰るつもりだったのに翔く
んは俺を引き止め衝撃的な事を言った。
……俺のことが好きで、俺がキラキラ光って
見える……運命の相手なんだって……
信じられなかった、というか信じちゃ駄目だ
と思った。だとしたら俺達は相思相愛になっ
てしまうだろ……
付き合って世間にバレたら、翔くんの将来は
ボロボロになっちゃうよ。
翔くんのためだと、心を殺し血を吐くような
思いで拒んでいたのに当の本人は全く退かず
それなら賭けをしようと持ち掛けてきた。
その賭けとは、広いライブ会場でピンポイン
トで俺を見つけることができたら翔くんの勝
ちで、お互いの気持ちを認め会い付き合う。
見つけられなかったら俺の勝ちで、その時は
俺の言葉に従うと言うものだ。
どのみちその場で解決しそうになかったので
賭けに乗った。
もし本当に大勢の中から俺を見つけてくれた
ら、翔くんの言う運命を受け入れられる。
俗世を気にせず想いを貫けると思ったんだ。
*
ツアーファイナルの日。
席はスタンド、ステージからじゃ遠くて気が
付かないかもしれない。
それでもコンサートに来れたから満足だ。
とっくにチケット販売は終わっていてニノに
も頼めないなか、知り合いのツテで何とか手
にすることができたのだから。
それに本当に運命の相手ならどんな場所にい
ても必ず翔くんは見つけてくれるだろ。
そう思っていたけど、いざライブが始まると
やはりステージからの距離がありすぎて正直
無理じゃないかと思い始めた。
翔くんに見つけてもらえなかったら……
きっとそれも運命なんだよね、神様が二人の
関係を許さなかったってことさ。
清く諦めて、翔くんには二度と会わないと言
おう。俺の事は忘れて欲しい、彼には開かれ
た未来があるんだから。
*
どう転んだとしても結果を受け入れると決め
た俺に審判が下される時がきた。
フロートに『あなし』のメンバーが二人づつ
別れて乗り込み外周を回り始めたんだ。
俺の席はフロートより上で、見上げれば何と
かわかるかも、という場所。
下の席の子達が内輪やペンラで手を振ったら
たちまち姿は消されてしまうだろう。
「どうなっても、それが運命…」
覚悟を決めてその時を待つ。
翔くんを乗せたフロートが徐々に近付いて来る、前方にはニノがいてスタンドの客に手を
振り愛想を振り撒いていた。
ニノが俺に気付いたら、俺が光って見えると
いう翔くんは完璧だろうな。
でも翔くんは後方を向いていて目線も下だ…
早めのスピードで動くフロートで方々を見回
すのは難しいかも……
そんな事を考えている間にニノが通り過ぎた
やはり俺に気付かなかった。
このままだと翔くんも……と暗い気持ちになっ
た時、突然翔くんが身体を進行方向に向け顔
を上げた。
「えっ?!」
そして俺と目が合うと本当に嬉しそうに笑っ
て指鉄砲で撃つ真似をしたんだ。
発射された見えない玉は見事にハートを撃ち
抜き、俺は甘い痺れを感じ胸に手を当てた。
それを見た翔くんは満足気に頷き、俺の前を
通り過ぎる時誇らしいそうに唇を動かしたん
だ。
『俺の勝ち』
女性達の歓声で翔くんの声は聞こえなかった
けど、幸せに溢れた甘い声音は俺の脳内にそ
う響いた。
焦ることなく余裕さえ見せた翔くん
もしかしたら早い段階で俺の居場所がわかっ
ていたのかもしれない。
広い会場で遠くの豆粒のような存在を見つけ
るなんて、奇跡じゃなくてやっぱり運命だよ
ね。
俺も翔くんとの運命を信じるよ。
だってお互いが輝いて見えるなんて普通じゃ
なくて特別なことだもの。
これからは二人で一緒に輝こう、
明るければ道を違えることもないから……
翔くんを最初に見つけたのは俺だもの。
もう離さないよ、俺の一番星くん。
補足終了
ごめん、投げやり
♪一番星を~ららら、見つけたよ~
ららら、一番星み~つけたぁ~♪
その昔民放でやってた番組のED
知ってる方、同郷w