お山の妄想のお話です。





「智君からのアプローチを期待して呑気にし

てた、告白してくれたら喜んで受けようなん

てさ……傲慢だよね。好きなら自分が行動す

るのが当たり前なのに、俺は智君に甘えてた

んだ」

「俺……甘えられてるなんて感じたことない

けど………」


いつも翔くんが何でもしてくれてたから、俺

の方が寄りかかっていたと思う。


「結構智君に頼ってたんだよ。俺は行動する

前に色々考え過ぎて身動きがとれなくなる事

があるけど、あなたは普段ぼんやりしてるの

にこうと決めたらすぐ実行するじゃん。しか

も殆ど上手くいく、だから今回も智君に任せ

ればハッピーになれるって勝手に考えてた。

それが愚かなことだったと気付いてから色々

と考えた、だって絶対にこのまま終わりたく

なかったからね。それで朝一番でチョコを渡

しに行こうって思い付いたんだ」

「………来なかったよね?」

「うん……15日に渡すのは『嫌いな人』って

いう話があるのを思い出して……1ミリでも

智君に嫌われたくないから行けなかった」


その話は都市伝説みたいなものだと思ってた

けど……翔くんは信じてるんだ。


「そうなると次はどうしよう、どうしたらい

い?って悩んで…動転して考えは纏まらないし、チラッと見たあの後ろ姿も本当に智君だ

ったのか疑い出してね。もしかしたら想い合

っているなんて幻想で、俺の思い違いかもな

んて自信もなくなって怖くなったんだ。

時間が経つにつれ、どんどん怖じ気も増して

智君に連絡することも出来なくなった」


そう言えばこのひと月の間、翔くんからの連

絡はなかった。少しだけ淋しいと感じてたけど、失恋したと思っていたから俺も連絡しな

かったし。


「何日かウジウジと過ごしてたけど、やっぱ

り智君が好きだから想いを伝えようと決めた

んだ。だけどまたそこからどういうシチュエ

ーションでとか考えてたら、また何日も過ぎ

ちゃってて気が付いたら3月に入ってた。

普通の日に告白するのは少しハードルが高い

けど3月はホワイトデーがあるでしょ、狡い

けどそのチャンスに賭けようと思ったんだ」


ホワイトデーがチャンスと思ったのは、浮わ

ついた空気に便乗してってことかな?

バレンタインの俺と同じだから悪い事とは思

わないけど……


「だからね、あのお菓子は智君に受け取って

欲しくて用意したの」

「貰えねーよ……チョコやってないもん」

「でもあの日あなたはチョコを渡しに来てく

れたんでしょ?」

「……………うん」

「よかった……なら、もうチョコを受け取っ

たも同然だよ。俺からの告白である贈り物

を受け取って返事をして」

「返事?」

「そう、ホワイトデーのお返しのそれぞれの

意味を話したでしょ。それは俺からの告白な

んだよ」


キャンディは『あなたが好きです』

マカロンは『あなたは特別な人』……

翔くんが並べたお菓子の中から一つを取って

俺からの返事にするってこと?


「貰った物の意味が俺からの翔くんへの気持

ちってことになるの?だったら一つなんて選

べないよ、全部意味が当てはまるもの…」


翔くんの事が大好き、とても特別な人。

隣にいると安心するしずっと幸せが続くこと

を望むよ。

選べない、たった一つなんて……

欲張りだと思われるだろうけど全部欲しい。


「……翔くん……全部じゃ駄目?」


強欲だと思われても仕方がない、でも思いき

って訊いてみた。


「…智君」


てっきり呆れられたと思っていたのに、翔く

んの声は優しくて……


「俺、最初から全部あなたに受け取ってもら

うつもりだったよ。言ったでしょ、このお菓

子は俺からのこ告白だって。それを全部受け

取ってもらえたら俺達の想いは繋がったって

ことになるでしょ?」

「うん、俺の気持ちも翔くんと同じだよ」

「俺と智君は相思相愛ってことで間違いない

よね?」

「間違いない……俺は翔くんが好きだ」


バレンタインに言えなかった言葉

諦めていたけど言えて嬉しい。


「嬉しい……」


見上げた翔くんはとろけそうな甘い笑顔を浮

かべていた、見惚れるほど綺麗だけど今の状

態じゃ居心地が悪い。


「あの……そろそろ退いて」


この押し倒された体勢は恥ずかしいから。


「今凄く幸せを噛み締めているから、もう少

しだけこのままでいさせて……」

「え~っ、ここ公園だぜ…誰か来たら恥ずか

しいじゃん」

「大丈夫だよ、邪魔されたくないから人の居

ない場所にしたんだもの」

「まさかこうなる事を計算済みで?!」

「ふふ、違うよ。人気がない場所にしたのは

純粋に智君と二人だけで話したかったから。

こうなったのは思いがけない幸運なの」


翔くんは身体の上から退こうとしないけど掴

んだままだった手は離してくれた。


「1ヶ月会ってなかったから、智君の顔を満

足するまで見ていたい」


言いながら顔を近付けてくるから、反射的に

両手で翔くんの頭を掴んで動きを封じる。


「顔が近い」

「だって良く見たいし」

「なんか、邪心を感じる」

「ひどい!心外だよ!」

「あはは、ごめん」


そんなやり取りをしながらも翔くんは懲りず

に顔を近付けようとする、だから掴んでいた

手を拳骨に変えてこめかみをグリグリと攻撃

してやった。


大袈裟に『痛ってー』と騒ぐ翔くんが面白く

て続けていると『マジで痛い、ゴメンナサイ

』と涙目で訴えるので止めてあげた。

翔くんには悪いけど少しだけ意地悪した、

今まで流した涙の仕返しかな。



暗くなったので手を繋いで帰路につく。

人通りがない薄暗く細い路地を選んで歩くか

ら誰かと遭遇することもない。

それは安心だったけど、恋人だからと手を繋

ぐのは少し恥ずかしい。


「……やっぱ、手離して」

「何で?嫌なの?」

「嫌じゃない、小っ恥ずかしいの」

「照れてるの?可愛い(*≧з≦)」

「………」


浮かれる翔くんが一寸面倒臭くなってきた時

ある事を思い出した。


「あっ!やべえ!」

「なに??どうしたの?」

「母ちゃん達のお返し買ってない…」

「バレンタインの?」

「あ…うん」


身内からもチョコを貰わなかった翔くんの前

では気まずかった。けどお返しをしなければ

姉ちゃんにシバかれる。


「そっか、じゃあどこか店に寄る?」

「うん、コンビニでいいけど……翔くん怒っ

た?」

「どうして?怒るわけないじゃん」

「だって翔くんは家族からも貰わなかったん

だろ……」

「それは俺個人の考えで智君には関係無いで

しょ。それに俺は家族を大切にするあなたが

大好きだもの。ただね、コンビニは大通りに

あるから手を離さなきゃならないのが嫌なだ

け」


不服そうな翔くんは繋いだ手を見た後、俺の

持つ紙袋に視線を移した。


「その中の物、おばさんとお姉さんに渡せば

?そうすればわざわざ買いに行かなくて済む

し、智君一人じゃ食べきれないでしょ?」

「これは駄目!絶対に誰にもあげない!」


その無神経な言葉に俺は大きな声を出し、翔

くんを驚かせた。


「えっ??どうしたの急に??」

「お前が変な事言うからだよ!これには翔く

んの想いが詰まってるんだろ?そんな大切な

ものを人になんてやれないよ!全部俺一人で

食べるのっ!」

「……ありがと…智君……」


失言にはムッとしたけど俺の台詞を聞いては

にかむ翔くんが見れたから、それに免じて許

してあげよう。



悪夢で目覚めた朝、その後の祈りが神様に届

いたのかな。

涙のバレンタインは神様のおかげで笑顔のホ

ワイトデーに変わったのか?


ううん、違うよ。

翔くんの勇気のおかげで幸せな日になったん

だ………


「感謝しなきゃ」


ホワイトデーの特設コーナーで適当に母ちゃ

ん達用を数個選び、それから普通の菓子の棚

へ移動する。

お目当ての物はすぐに見つかり手を伸ばす。


一枚はあの日あげられなかった物の代わり

もう一枚はホワイトデーのお返しのお返し?

何でもいいや、バレンタインじゃないけど大

好きな人にチョコをプレゼントしたいんだ。


安い板チョコ2枚だけど、翔くんには俺の想

いが伝わるよね。


コンビニの外で待つ大切な人のこぼれるよう

な笑顔を思い浮かべながら、俺は弾むような

足取りでレジへと向かった。






おしまい      

   


HAPPY  WHITE  DAY      

だいぶ過ぎちょるがな     






おまけ


「毎日もらったお菓子食べてるけど、全然減らないん

だよね」

「ははは、ごめんね、俺の愛が甘くて重くてw」

「スイーツ部だから甘いのは良いんだけど、虫歯にな

らないか心配なんだ。歯医者怖いし」

「歯をドリルで削られるものね、嫌な音もするし…

よしっ!智君が虫歯になったら俺が責任をとるよ!」

「責任?どうとるの?代わりに歯医者行く?」

「違うよ~、俺にうつして♡」

「うつす?何を?」

「虫歯」

「???」

「虫歯菌はうつるんだよ?知らなかった?」

「虫歯って歯をしっかり磨かないとなるんだろ?」

「それもあるけどね。産まれてきた赤ちゃんの口には

虫歯菌はいないけど、離乳食が始まって親や祖父母が

自分の使った箸やスプーンでご飯をあげると、箸とか

についていた唾液から虫歯菌が感染するんだって」

「へ~、知らんかった」

「だから俺に虫歯菌をうつしていいよ」

「んん??」

「唾液を介して感染させて♡」

「つまり……?」

「ふふっ、お口とお口がドッキング的な!」

「………………」

「そうそう、甘いもの食べ過ぎて太ったらダイエット

も協力するよ!」

「俺ジョギングとか嫌だよ」

「ジョギングより簡単な運動があるよ」

「どんな?」

「寝ながら出来て、汗が沢山でて気持ち良くてお肌の

調子も良くなるの」

「寝ながら?楽そうだね」

「う~ん、どうかなぁ。結構激しいよ俺」

「激しいよオレ??」

「うん、でも安心して絶対気持ち良くするから」

「………………」

「だからどんどん太って!」

「………………」