お山の妄想のお話です。




癖が強い




自分で言うのもアレだが、俺は頭がいい。

有名な進学校の特進で学び成績もトップだ。


周辺の高校にも都内の高校にも、日本中でも

俺より頭の良い奴なんて存在しないんじゃな

いかと思っている。イヤ、結構マジで。


そんな俺は自慢じゃないが凄くモテる。

だって今世紀最高の、いやいや歴史上類を見

ないイケメンだからだ。


知的なイケメン、そして家もそこそこ裕福だ

から女子のハートなんか掴み放題。

今まで数えきれない程の女の子と付き合って

きたさ。


息を吸うように付き合い吐くように別れを告

げる、それは呼吸と同じで意識などしない普

通のことだった。


自他共に認めるハイスペックな人間。

ずっとそう思って来たし、これからも変わる

ことはない!!


………………………そう思っていた。

しかし近頃ある問題に直面し、それを疑問に

思うようになってしまった。


その問題はどれだけ考えても答えが出ない、

考えて解決しないなら色々調べて答えを導き

だせばいいと本やネットで調べまくった。

それでも全く答えは見つからないんだ。


天才の俺にわからない事があるなんて……

自分に自信が失くなりかけた時ふと閃いた、

この優秀な俺とは別ジャンルの奴に訊いてみ

ればいいのでは?と。


ジャンルが違えば考え方もまた異なるから新

たな発見があるかもしれない。

それがヒントとなり人生最大の問題を解くの

に成功するやもしれん。


我ながら冴えているな!

善は急げだ、早速別ジャンルの奴らに訊きに

行こう。



まずはジャンル『天然』からだ。


「雅紀、俺の質問に答えてくれ」

「なぁに?オレ、難しいのわかんないよ?」

「俺には解けない問題だが、もしかしたらお

前には答えが分かるかもしれん」

「翔ちゃんがわかんないなら無理だよ~」

「取りあえず問題を聞いてくれ」

「うん」


そうして俺が解けない問題を話した、

すると雅紀は困った顔をして言ったんだ。


「それってさぁ……他人に訊くことじゃない

よね、そう思う理由が必ずあるはずだし。も

うちょっと自分でよく考えてみてよ」


雅紀の答えには何のヒントもなかった。

言っている意味もわからんし、やはり天才と

天然は交わる事がない別ジャンルなんだ。

最初の漢字は同じ『天』なのにな……



次に訪ねたのは『ゲーマー』。


何時間もゲームをやり続けるという、俺にと

っては苦行のような1日を送る奴。

ゲームをを通じて世界中の人達と交流がある

からグローバルな考えを持っているだろう。


「なぁニノ、ちょっと聞いてくれるか?」

「……なんですか?今忙しいんですが」


画面から目を離さず高速で指を動かす二宮は

物凄く面倒臭そうだ。

しかし探求(究)心に掻き立てられた俺はそん

な事は気にしない、直球で訊いてみた。



「…………………くだらない、帰れ」


その答えがこれ。


「どこがくだらないんだ!俺はこの問題に対

して凄く真摯に向き合ってるんだぞ!」

「あ~そうですか~。そーなんですね~」

「おいニノ!真面目に答えろ!」

「真面目に答えろって?嫌ですよ」

「どうして?お前は答えを知ってるのか?」

「そんなの一つしかないからね」

「何だよ勿体振らずに教えろよ」

「それは他人から教えてもらうことじゃない

自分で気付くべきだ」


二宮も雅紀と同じことを言う。


「自分で考えて駄目だから訊いてるんだぞ」

「面倒臭いな、じゃぁヒント?我愛你、サラ

ンヘヨ、Ti amo 、Je t'aime 、Liebe ……

あとは……英語か……まんまだからパスな」

「んん??外国語?それがヒント?」

「ヒントみたいなものだね」


俺の探す答えには関係無さそうだけど?

首を捻る俺を無視して二宮はまたゲームの世

界に戻ってしまった。

ゾーンに入ってしまえばもう俺の声なんて聞

こえやしない……


諦めて別のジャンルへと向かった。



「なあ、潤の感性で答えてくれないか?」

「俺の感性?」

「そう、個性的なセンスのお前なら俺には考

えられないような別の見解もあるはずだ」

「何それ?もしかして俺のことディスってる

の?」


学校指定のものではなく、GOLDのジャージ

を身に付けた松本は独特なファッションセン

スをもっている。


彼は他人にどう見られようが己の好みで似合

うと感じたものを着る。

その信念で奇抜な服装をするのを厭わないの

はナルシストゆえだろう。


最後のジャンル『ナルシスト』

ここでヒントが見つからなければ永遠にラビ

リンスを彷徨うことになるかもしれない。


「俺は真面目に答えを探してるんだ、このま

まじゃ天才イケメンのスタンスでいれなくなる。そうなったら大勢の人達を落胆させてし

まうだろ?人類の宝が失われるんだ」

「あんた何を言ってんだ、エゴイストか」


呆れながらも松本は俺の解けない問題を聞い

てくれた。



「……………マジでわからないの?」


聞いた後の一声がこれ。


「わかんねーから訊いてるんだよ」

「いや、もうその問題っていうのが答えなん

じゃないの?」

「はぁ??問題が答え?」

「そう。その未解決な問題をよく考えて」

「だからさ、考えてもわからんから訊いて回

ってるんだよ」


別ジャンルの奴らとはやはり分かり合えない

ようだ。とうとう問答すら無くなった。


「それなら当事者の所へ行ってみなよ。そこ

で問題を精査すればいいじゃん」

「当事者?」

「そう、よく見てどうしてそう思うのか自分

の心に問いかけて」

「そんなんで答えがでるのかよ」

「普通の人ならもう答えに気づいてるよ。

もしかしたら翔さんは常識ってやつから外れ

たくなくて無意識に答えを避けているんじゃ

ないの?」

「無意識に?」

「自信過剰のプライドが邪魔をしているのか

もね」


ナルシストに自信過剰と言われたのが腹立た

しい、それでも礼儀で謝意を伝え松本から離

れた。



結局有益な情報を得られないまま、俺はトボ

トボと教室に向かっている。


どうやら三人は俺の疑問の答えを知ってるよ

うだ、けれどそれを教えてはくれない。

意地悪なのか、それとも本当に自身で解決し

なけれはならないのか……

このままだと、今夜も眠れない夜になりそう

だ………


ウンザリしながら歩いていると、少し先にあ

る教室からタンタンと床を蹴るような音が聞

こえてきた。

HRの番号を見てそこが『疑問の当事者』の

教室だと思い当たる。


この音は彼の踏むステップだと感知した俺は

開いているドアから中を除いてみた。

すると思った通り、そこには熱心に踊る彼の

姿があった。


しなやかな身体の動き、髪からは汗が飛び散

りキラキラと輝いている。

そんな彼から目が離せない。


「あぁ………綺麗だ……」


踊る彼が綺麗だと魅入ってしまう。

もっと近くで見たいと思い教室に入ると、突

然現れた人影に驚いた彼の動きが止まってし

まった。


「あ……驚かせた?ごめんね」


彼は警戒していたけれど侵入者が俺だとわか

ると、普段通りのフニャりと柔らかい笑顔に

なる。


「なんだ翔くんかぁ、何か声掛けて入ってき

てよ。驚いたじゃん」

「ごめん、あなたがあんまり綺麗だったから

声を出すのも忘れてた」

「変なこと言うなよ~翔くんに言われると照

れるだろ」

「だって本当に綺麗だったんだもの」

「だから、よせってぇ~」


照れてはにかむ姿も可愛らしい。

なぜか智君の前では俺の心臓の鼓動が早くな

るんだ。


どうしてなんだ?

わからない、わからないことだらけだ。


『智君はどうしてキラキラしているのか』

『何故あんなに可愛いのか』

『智君の事を考えるだけで胸が熱くなって鼓

動が激しくなるのはどうしてか』


これが俺の解けない問題。

雅紀、ニノ、潤に訊いたことだった。


「ね、智君…」

「ん?なに?」

「俺、どうしても解けない問題があるの」

「秀才の翔くんが?マジで?」

「うん……もしかしたらあなたには解けるか

もしれないから訊いてもいい?」

「無理だよ~翔くんがわからないの俺が解け

るはずないじゃん」

「そこをなんとか…このままじゃ俺は寝不足

で倒れちゃうよ」


そしてあなたに会う度に過度の負担を心臓に

かけることになる。

精神的にも体力的にもヤバいかも。


「それは困る……わかったよ。だけど答えら

れなかったらごめんね」


智君が了承してくれたので疑問を話した。

勿論相手の名前は言わなかった、だって智君

がその人だってバレたら気まづいだろ。


話し終えると智君は暫く無言で考えていた。

やっぱり駄目かと諦めかけた時、ぽつりと一

言呟いた。


「恋……」

「えっ?!」

「翔くんはその人に恋してるんだよ」

「こ……恋……」


今まで一度も経験したことがなくってわから

なかったけど、確かにドラマや漫画、小説な

んかで表現されていることと該当するものが

沢山ある。


悩み抜いた疑問……その答えは『恋』

俺は智君に恋をしているんだ


キラキラ眩しいのも、可愛くて仕方ないのも

胸がドキドキするのも、キュンと切ない瞬間

があるのも……全部『恋』のせい…



ストンと全てが収まった感覚がした。

そして晴々しい気持ちになった。


「ありがとう智君!ようやく答えに辿り着け

たよ」

「……正解だったのか……よかったね…」


難問が解けたのを一緒に喜んでくれると思っ

ていたのに、智君は何だか悲しそう。


「…智君、どうかした?」


心配になって訊くと、ハッとしたように普段

の笑顔を浮かべた。


「何でもないよ!これで今晩はゆっくり眠れ

るね!」

「うん!智君はすごいね、この問題が解ける

なんて!漫画やドラマからの情報でわかったの?」

「ん?違うよ」

「マジで?じゃあどうしてわかったの?」


情報源が何なのか知りたくて問うと智君は

憂いを帯びた表情になる。


「そんなの良くわかるよ……だって俺も同じな

んだもの……」

「えっ?!」

「俺も恋してて、そんな感じだからっ!」

「さ、智君!恋って?!誰に!!」

「そんなん翔くんに関係ないでしょ!俺もう

帰るから!バイバイっ!」

「ちょっ!待ってっ!」


必死に止める俺を振り切り、智君は教室を飛

び出して行った。

どんどん遠ざかる足音を聞きながらヘナヘナ

とその場に座り込む。


智君に好きな人がいる……

本人の口からそれを聞いて目茶苦茶ダメージ

を受けたんだ。


恋だった智君への感情、それがやっとわかっ

た矢先のこの事態。

智君が好きな人って誰なんだ?!

俺は既に失恋したのか??


わからない……わからないよ!

ああ、また新たな問題が生まれてしまった…

俺の眠れぬ夜はまだまだ続きそうだ……

                                                                                      ぴえん






終わり









あんたや