お山の妄想のお話です。




大宮SKのライブは素晴らしいものだった。

ふざけすぎだろ?!と思うようなコミカルな

曲やしっとりとしたバラード、MCも楽しい

これなら寮内で人気なのもわかる。


途中に入ったソロはユーコが今巷で流行りの

曲を、タカコ…大野君は少し前にヒットした

失恋ソングを歌った。

情感のこもった美しい声は、聴いているだけ

で切なさに胸を締めつけられる…


続いての、ラスト曲が異様にシュールで、失

恋ソングの余韻は吹き飛ばされてしまったけ

れど俺の胸はジクジクと痛んだ。


歌い終わった二人がペコリと頭を下げ手を繋

いで捌けると、ステージの照明は消され40分

ほどのライブは終わる。

観客達は次のイベントまでの間が食事時間に

なるので続々と後方のバイキングブースへと

流れていく。


顔を見せられない俺は食事どころではないの

で人気の無い壁側に移動した。

そこでこの後どうしたら大野君の側に行ける

かを考えていると、柔道部が寄ってきた。


「お前こんな所にいたのか。どうだ?探して

いた奴はいたか?」

「……見つけはしたが近付けなかった」

「なぜだ?尻込みしたのか?」

「違う。この仮装じゃ人混みに入れなかった

んだよ」

「ああ、確かに幅を取るからな」

「お前はだいぶお楽しみだったな」

「大宮のライブのことか?最高だっただろ?

今日もタカは最高だった♡」


ステージの回想をしているのか、恍惚な表情

を浮かべる柔道部。

そうだコイツはタカファンだった、大野君の

事を言わないでいて正解だったな。


「……そうだな」

「だろ?タカは歌が上手いんだよ。今日のソ

ロは切なかったなぁ、タカの心情を考えたら

涙が出そうだったぜ」

「どういう事だ?」

「タカ、失恋したんだそうだ」

「えっ」

「今は傷心中なんだよ。辛いのを堪えて頑張

ってステージをこなしてたんだ。いじらしい

だろ」

「失恋…」

「そいつを凄く好きだったようだが、相手に

その気が無いのがわかって周囲に清く諦める

と言っていたらしい。あんなに魅力的な人を

フルなんて、余程見る目が無いロクデナシな

んだろうな」

「……ロクデナシか」


大野君の想いをあやふやにして、男同士の友

情を築きたいなんて都合よく考えていた俺は

ロクデナシと言われて当然だろう。


「だがな近頃のタカは前向きになって、新し

い恋をすると宣言したそうだ」

「えっ!」

「失恋の傷を癒すのは新しい愛だと言って、

新しい出会いに期待しているようだ。次に始

まるのは〖寮内ウルトラクイズ〗だから丁度

良いかもしれんな」

「寮内ウルトラクイズ?」

「ああ、年に一回のイベントでクイズの勝者

が寮内アイドルに何でも願いを叶えてもらえ

るんだ。去年の勝者はユウジに1日デートを

要求していたな。その前は大宮からのWチュ

ーだった」

「ちょっと待て、優勝者の願いは何でも聞い

てもらえるのか?!」

「さすがに倫理的にヤバいやつはNGだが大

宮はノリがいいから大抵はOKしてくれる。

今回は大宮SK最後のウルトラクイズだから、

参加する奴らは気合いが入っているな」

「最後って?」

「大宮SKも俺達と同じ高3だからな、このハ

ロウィンパーティーで寮内アイドルは引退な

んだよ。だから最後に夢を叶えたいってファ

ンが必死になってるんだ。ま、俺もその一人

だがな」

「お前は何を頼むつもりなんだ?」

「俺か?俺はタカと二人でまったりしたい。

自室でも談話室でもいいから二人だけで話し

たい」

「話すだけで満足なのか?デートとかチュウ

じゃなくて」

「タカは俺の憧れだからな、デートやチュー

なんて恐れ多い」

「………そうか」


ウルトラクイズの景品が大宮を好きに出来る

事だと知って焦ったが、常識内が前提らしい

のでホッとした。


「でも、そこからタカと付き合えたらいいな

って打算はある」

「  !  」

「一般の寮生には寮内アイドルは高嶺の花だ

から、普段近づくことも話すことも出来ない

んだ。だから千載一遇のチャンスがあれは全

力で挑む。只のファンから個人として知って

もらえるし、そこから懇ろな関係に発展する

可能性だってなきにしもあらずだからな」

「待てよ、懇ろって?!タカは男だぞ!」

「確かに同性だが、問題あるか?」

「あるだろ!そういう事は男女でするのが普

通だ。同性同士なんて何も産み出さない」

「櫻井……お前は頭が堅いな。恋愛=子孫繁栄

なんて今時ないわ。逆にお前の恋愛相手は子

供が産めるかどうかで決めるのか?好きだと

いう想いが一番じゃないのかよ?」


そう問われて答えに窮した。

確かに相手を想う気持ちが一番重要だろう、

性別に拘るのは考えが古いからか……


「どんな事をしてでも好きな人には自分を好

きになって欲しいものだろ?嫌われたくない

と必死になるもんだ」

「 ………… 」

「仮に嫌われたとしても簡単には諦めきれな

い、それが本物の恋だ!」

「本物の恋……」

「俺はな櫻井、お前がどうしても会いたい人

が寮にいると話した時、お前はその人に恋を

しているんだと感じたんだ。相手に拒絶され

ても会いたくてたまらないなんて、正にその

通りじゃないか?」

「 ………そうなのか?」

「お前は今まで全身全霊で人を愛したことが

ないのかよ」

「これまでは付き合ってた人と別れても別に

何とも思わなかった、でも…」


大野君は違った。

付き合っていたわけじゃないけど連絡が途絶

えたら不安になって、二度と会えないかもと

恐怖を感じた。


一緒にいた時間を思い出しては切なく悲しい

気分になって、会えないと言われた時は奈落

の底に突き落とされたように感じて、初めて

絶望を知った。


「……俺……彼に恋してた…」


思い当たることだらけで否定なんて出来そう

にない。

今だって大野君が新しい恋を探すという話を

聞いただけで内心穏やかじゃないんだ。

俺ではない奴にあの花のような笑顔を見せる

のだと思っただけで、怒りや不安、焦燥に駆

られる。


俺は自分で認めていなかったけれど、ずっと

彼に恋していたんだ。

これが胸を焦がす痛みの正体だったんだな…


「やっと素直になれたようだな。だったら話

しは早い、今まで傷つけてきたのを真摯に詫

びて許しを乞え。相手にまだ少しでもお前へ

の想いが残っていればやり直せる可能性もあ

るはずだ」


諦めたらそこで終わりだと柔道部は言う。

体育会系の思想だが確かにその通りだ、ここ

で諦めたら大野君は遠くへ行ってしまう。

誰かの手を取り俺とは完全に決別するんだ…


そんなの絶体に嫌だ、耐えられない。

この現状は身から出た錆だ、自分の蒔いた種

は自分で刈らなければいけない。


まず何としてでも大野君の側に行かないと、

そして俺の気持ちを伝えるんだ。

もう遅いかもしれないし俺を信じてくれない

かもしれない、しかし諦めずに接すれば以前

のような笑顔を見せてくれるかも……


躊躇などしていられない、残されたチャンス

はもうウルトラクイズしかないんだ。

そしてこれに失敗したら大野君は誰かのもの

になってしまう可能性もある。

駄目だ、絶体に阻止してやる!


「なあ、その寮内ウルトラクイズはどうした

ら参加出来るんだ?」

「出るのか?探してた奴はどうするんだ?」

「クイズに参加した方が近づき易いだろ」


クイズに出る理由を柔道部には言えない、な

ぜならコイツもタカを狙っているからだ。

世話になったがライバルだ、負けるわけには

いかない。


「そうか?そうかもな。まぁ頑張れ。俺も頑

張って優勝を狙うぞ。クイズに参加するのは

簡単だ、ライブの時のようにステージ前に集

まればいい。最初は○✕クイズで○か✕のス

ペースに移動するヤツだ、ここで大勢震い落

とされる」

「そんなに参加者が多いのか?」

「そりゃそうだろ、憧れの寮内アイドルとの

夢を叶えるチャンスだからな。皆気合いが漲

っているぜ」


ほら、と柔道部が指差す方を見ると既に何人

かがステージの前に集まっていた。

皆目がギラギラしていて恐ろしいほどの気迫

を感じる、こいつらマジだ……

こんな奴らには渡せない、大野君を守るため

にも絶体に勝たなければ!


「よしっ!!」


俺は己を奮い立たせステージ前へと向かった









「大宮をすきにしたいかぁ!」

「おおっ!!!!」

みたいなw