お山の妄想のお話です。




その後も出かける度に女の子達とも遊んだ。


俺も大野君も見た目が平均以上だからか、自

分からアクションを起こさなくても女の子達

が寄ってくる。

だから相手には不自由しなかった。


全て割り勘だから余計なお金は使わないし、

ちやほやされると気分も良い。

これが本来の男子高校生の日常なんだと実感

していた。


俺は順調に男子校に入る前の感性に戻ってき

ている、後は大野君が勘違いに気付いてくれ

るのを待つばかりだ。

この作戦を始めた当初嫌がるかと思われた大

野君も、女子にナチュラルに接しているから

ゴールは間近かもしれないな。


もうすぐ本格的に受験に取り組む季節になっ

て遊びに出られなくなるから、それまでには

柵のない真の友人になっていたい。



『寒くなる前に遊園地へ行こう』


そう提案した時、大野君は満面の笑みで頷い

てくれた。

熱くなくそれ程寒くもない今の季節が屋外で

遊ぶには最適だ、だから約束を決行すること

にしたんだ。


プランは全部俺が立てると言ってあるから大

野君にとってはミステリーツアーだね。

有名な遊園地は遠いし、俺は高所恐怖症で絶

叫マシーンは無理。

したがって家から小一時間の場所にある小規

模の遊園地に行くことに決めた。


いつもの駅前集合で電車に乗って目的地へ、

そこにはサプライズが待っているよ。



電車の中では並んで座席に座り、『どれに乗

ろうか?』なんて盛り上った。

ジェットコースターは絶対に乗りたいと言わ

れた時には顔が引き攣ったけど『乗ろうね』

と同意した。


大野君にカッコ悪いところを見せたくないし

実はその遊園地は古くてジェットコースター

もそんなに迫力はないんだ。

恥を掻かなくて済むのはリサーチの賜だな。



遊園地に到着した。

入場ゲート前には小さな子供を連れた家族で

賑わっていて、その中にお洒落をした女の子

達を見つけ俺は声をかけた。


「よおっ!久し振り!」

「わぁ!櫻井君!マジでお久!」


俺に気付いた彼女達は笑みを浮かべながら近

付いて来る、それを見て隣の大野君は驚いた

表情をしていた。

彼女達が目の前に来た時、俺は初めて大野君

に告げたんだ。


「ビックリした?この娘達は俺が前に通って

いた学校のクラスメイトなんだ。今日は四人

で遊ぼうと思って大野君に内緒で呼んでおい

たんだよ、だって遊園地で男だけって寂しい

だろ?」

「…………えっ?」


ビックリしている大野君、サプライズは成功

だな。

やっぱり遊園地に野郎同士は悲しすぎるよ、

実は女の子を誘ったのは吊り橋効果を狙って

もいるんだけど。


ここで女の子と大野君に恋が芽生えるのを期

待してる。今までのただ遊ぶだけというのは

失敗気味だったからね。


「黙っていてゴメン。嫌だったかな?」


女の子を前に眉を下げた表情だったけど、俺

が訊くと笑顔で『嫌じゃないよ』と答えてく

れる。

大野君ならきっとそう言ってくれると踏んで

たんだ、俺が頼めば嫌とは言わないって知っ

ているからね。


本当は当惑しているだろう彼に心の中で謝った。酷い奴でごめん、これもあなたを更正さ

せるためだから許して欲しいと。



「次は~、あれに乗ろうよ」


女の子が指差すのはこの遊園地唯一のジェッ

トコースターだ。

高くまで登って急降下とかは無いけど、狭い

場所にスピードを落とさず突入するらしい。

建物をギリギリで通り抜けるスリルが売りの

ようだ。


前の座席に大野君と女の子、その後ろにもう

一人の女の子と座った。

ここなら前の様子がよくわかる。

小規模でも絶叫マシーンなのには代わり無い

から吊り橋効果が期待できる。

『どうか上手くいきますように』と祈りなが

ら大野君の小さな後頭部を見つめた。


………しかし、絶叫マシーンにやられたのは俺

だけで、他の三人はケロッとしていて吊り橋

効果なんて無かったみたい。

では次はお化け屋敷だ!と向かったがガクブ

ルだったのはやっぱり俺だけだった……


アトラクションでの吊り橋効果作戦は悉く失

敗に終わった。

だけど大野君と女の子は結構和んでいたので

上手くいくかもと期待したんだ。



「ねー櫻井君、プリ撮ろ」

「そうだね、今日の記念に皆で撮ろうよ」

「俺はいいけど、大野君は?」

「かまわないよ」


女の子達がプリクラを撮ろうと言い出し狭い

プリ機の中に四人で入る。

俺は連れの女の子に前方に連れて行かれギュ

ッと抱きつかれた。

大野君の前でそうされるのが嫌で離れようと

すると益々引っ付いてくる。


「おい、止めろよ」

「え~いいじゃん!私と翔の仲じゃない」

「ちょ、呼びすてすんな。大野君の前で変な

事言うなよ!」


女の子が突然おかしな事を言い出した。

過去を大野君に知られたくなかったので焦っ

て止めようとしたのに、その大野君が食い付

いてしまったんだ。


「………君と櫻井くん、どういう仲なの?」

「私たち昔付き合ってたの!」

「ほんの少しの間だけな!」

「この二人学校ではベストカップルなんて呼

ばれてて、美男美女で羨望の的だったのよ」

「だけど価値観の違いで別れたの~。けどね

今日誘ってもらって、やっぱ翔っていいなっ

て思っちゃった。ね?やり直さない?」

「馬鹿か、そんな気は微塵もない」

「え~っ!翔、ひどーい!」

「うるせえ!さっさとプリ撮って出るぞ!」


大野君の前で過去を暴露され憤慨した俺は早

急にここから出たかった。

そして大野君に言いたかったんだ『あれは過

去のことだから』と。


…でも、よく考えたらそんな言い訳がましい

ことを言う必要なんてないんだよな。

元カノを誘ったのはばつが悪いけど『友達』

に弁解するような事じゃない。


そうは思ったものの大野君が気になってプリ

機のモニターで盗み見た。

すると大野君は沈んだ表情をしていて、俺は

罪悪感を覚えたんだ。



帰りの電車は行きと違いとても静かだった。

大野君は考え事をしてるようで押し黙り、

俺は話しかけるのを躊躇っていた。


楽しく遊ぶはずだった遊園地がプリクラの一

件で台無しになってしまった。

あいつが余計な事を話さなければこんな事態

に陥らなかったのに!

元カノなんて誘うんじゃなかった!

いいや、俺が無神経だったんだ!

責任転嫁しようとしたが、結局は自分の思慮

が浅かったのが事実……


身から出た錆と言えばその通りだけど、この

沈黙は辛すぎる。

どうしたら大野君は笑ってくれるのか…

この状況を打破するために俺がやるべき事は

何かと真剣に考えていると、ぼそりとした呟

きが聞こえてきた。


「元カノ……綺麗な人だね…」

「えっ?」

「美男美女…羨望の的か…納得だよね…」

「あの…?」

「櫻井くんには綺麗な女の子がお似合い…」

「大野君?」

「不細工な男なんてお呼びじゃない…」

「大野君、何を言ってるの?」

「………ごめんね、櫻井くん」


突然の謝罪、俺には理由がわからない。


「どうして謝るの?大野君は何もしてないじ

ゃん。謝るとしたら俺の方だよ、内緒で女の

子を呼んで折角の遊園地を台無しにしたんだ

から」

「女の子がいた方が楽しいと考えるのは普通

の男なら当たり前だと思う、だから櫻井くん

は悪くないよ。俺が…普通じゃないから……

気を遣わせてしまって、ごめん…」

「そんな……」


俺には悲しそうに頭を垂れる大野君にかける

言葉が見つからなかった。










元カノとか

最低~w