お山の妄想のお話です。
それからも月に一度か二度は大野君と遊びに
出かけた。
ショッピングやカラオケ、それから映画を観
たり美術館や博物館巡りとか。
美術館や博物館なんて若者が行っても大して
面白くないイメージだったけど、思いの外楽
しめた。
別段展示物に興味があったわけじゃなく、そ
れを見ながら大野君と話すのが楽しかったん
だ。二人とも感性が違うから色々な見解があ
って面白いし、寄り添うようにして展示物を
眺めるのも少し嬉しい。
すぐ隣に綺麗な顔があって俺に笑いかけてく
れるんだもの、しかも良い匂いもするしね。
綺麗で性格が良くて甘い香りのする彼と一緒
にいると何だか幸せな気持ちになる……
「ん?幸せな気持ち?」
二人で出かけた時に撮った写真を見ていて唐
突に疑問がわいた。
俺のこの思考はおかしくないか?
これじゃ、何だか恋でもしているみたいじゃ
ないか。
いやいや、それはない。
いくら美人でも相手は男だ、俺が好きなのは
女の子だもの。
たしか以前にもこんな取り違いをして、ばつ
の悪い思をしたよな。それなのにまた同じ間
違いを繰り返すなんて我ながら進歩がない。
大野君を特別に思うのは、きっと他の友人達
と毛色が違うからだ。
今まで周りにいなかったタイプで気になるだ
けなんだよ。
彼に向ける好意は恋愛感情じゃない、あくま
でフレンドシップだ。
「度を越した友情は危険だ…大野君に誤解さ
れたらマズイもの。なにしろ俺はノーマルな
んだから」
次に会う時は浮かれ過ぎないように戒めなき
ゃ…… 誤解で友情に亀裂が入ったりしたら嫌
だからな。大野君とはこれからも良い友達で
いたいもの。
*
なんて、考えていたのに。
いざ会う日になると朝から浮かれていた。
そして大野君に会えばやっぱり綺麗な顔にド
キドキして、ほんわかした雰囲気やふにゃっ
と緩い笑顔に癒されて幸せを感じてしまう…
……………ヤバい、マジでヤバい!
男友達にこんな巫山戯たことを感じてしまう
なんて、俺の精神は崩壊したのか?
いいや違う、きっと環境のせいだ。
毎日が男子校への往復だけで女っ気が全然無
いから。
だから中性的な大野君を女の子の代わりにし
てしまっているんだよ、これってとても失礼
だ。それに自分が女の子の代替えだと知って
しまったら酷く傷つくだろう。
絶対に大野君を傷つけたくない…
どうしたものかと悩んでいると、心配気な声
が聞こえた。
「どうしたの櫻井くん?」
隣に目をやると大野君が不安そうに俺を見て
いる。
「クレープ……好きじゃなかった?」
「えっ?!好きだし、美味しいよ!」
「本当?」
「本当!凄い美味い!」
「よかった…櫻井くん渋い顔してクレープを
見てたから嫌いなのかと思っちゃった。俺が
食べたいって言ったから無理して付き合って
くれたのかなって」
「大丈夫甘いの結構好きだし。ただね、この
可愛いクレープを男子高校生が道っ端で食べ
てるって図が不気味じゃね?って思ってさ」
しかめっ面の本当の理由は言えないから適当
に話を作ると、大野君はニコッと笑った
「櫻井くんはクレープ持っててもカッコいい
し絵になるよ。気持ち悪く見られるのはきっ
と俺だけ」
「何いってんのさ、大野君とクレープも凄く
マッチしてて可愛いよ」
「 ! 」
見る見る大野君の頬が赤く染まっていく。
照れているのかな、マジでcute。
「可愛いとか止めて… 櫻井くんに言われたら
照れるよ」
「 !! 」
恥ずかしがりながらも嬉しそうにする彼。
そこで俺はとんでもない間違いを犯したこと
に気付いた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
可愛い、なんて男に使う言葉じゃないだろ!
こんな台詞を言ったら気があるって勘違いさ
れてもおかしくない!
俺の馬鹿っ!!こういうのを自戒しなきゃ駄
目なのにっ!
頬を染めてモジモジする大野君に、内心焦り
まくった。
俺は完璧に彼を女の子扱いしている、このま
までは明るい未来なんて訪れない……
どうにか軌道修正しなきゃと必死に考えてい
ると、突如目の前に立った人影から救いの手
が差し伸べられた。
「クレープ美味しい?」
鈴の振るような声のする方を見ると、歳上っ
ぽい女性が笑いながら俺達を見ていた。
媚を含む眼差しは明らかに誘っている、これ
は逆ナンだ。
俺は瞬時に『これだ!』と閃いた。
大野君を代わりにしなくて済む方法、それは
簡単な事だった。
答えは、普通に女の子と絡めばいい。
平日は無理でも休みの日に街に出れば女の子
なんていくらでもいる、その娘達と仲良くな
れば女旱りも解消され大野君を代替えにする
必要もなくなるだろう。
それに大野君も男子校でしかも寮生だから甚
だしく女性と接する機会がなくて、恋愛の方
向が男になっているのかもしれない。
これを機に女性と触れ合えば恋愛感情が正さ
れ、俺をそういう目で見ることもなくなる筈だ。
それでやっと男同士の真の友情が生まれる。
彼となら長く付き合える親友になれるだろう
いや、絶対になる!
そのためには、先ず俺の意識から変えなくち
ゃな。
「美味しいですよ。お姉さん達も買って食べ
てみたら?」
女性に好まれそうな表情を意識して作ると、
案の定彼女等は飛び付いてきた。
「ダイエット中だから食べられないの」
「へー、そんなに細いのに?女の人って大変
ですね」
「だって、男性は細い人が好きでしょ?」
「俺はそういうのこだわらないな」
「え~、それ本当?」
他愛ない会話を続けるうちに彼女達と遊ぶこ
とになった。逆ナンに乗ってやったというこ
とだ、下心がある彼女達と違い俺はただ利用
したかっただけだけどね。
俺達が話している間中大野君は無言で、そし
てとても困惑しているようだった。
きっと女性と一緒にいたくないのだろう。
「大野君、カラオケでいい?」
「……うん、かまわないよ」
それでも嫌とは言わず笑顔を見せる。
その笑顔が少しだけ引き攣っているのには気
が付かないふりをした。
嫌なことでも俺のために我慢してくれる健気
さにズキリと胸が痛んだけど、これは俺と大
野君のためなんだよ。
異性と触れ合えば目から鱗が落ちるように、
俺に寄せる想いが間違っていたとわかるはず
だから……
ごめんね、少しだけ辛抱して。
ひたすら認めん人
初めてバイト中の息子のレジに行きました
余所行きの「いらっしゃいませ」に
笑った(マスクがあって良かった)
クリ○イト(ドラッグストア)に
宮近○斗君似がいたらそいつです
↑高校時言われたらしいw
似てないけどw