お山の妄想のお話です。




姉ちゃんの家に世話になり数ヶ月が過ぎて、

自分の進む道を決めた。


やっぱり俺には絵しかないと思ったんだ。

だけど我流だから未熟で、もっと技術を得な

ければならない。

独学では限界。

誰かに教えて貰う必要がある、だから専門学

校へ通うことに決めた。


そうなると先立つものが必要だ、それにいつ

までもこの家において貰うわけにもいかない

んだ、俺は迷惑な居候だから。


一念発起して専門学校と一人暮しの費用をバ

イトをして貯めることにし、できるだけ時給

が良いものを探して二つ選んだ。


パチンコのホールとコンビニ。

働く時間は翔を一人にしたくなかったから学

校へ行っている昼間と、家に姉ちゃんがいる

深夜帯にした。

……本当の理由は俺が翔と一緒にいたかった

からだけどね。


生長するにつれ薄れていく記憶の中、子供の

頃変な奴と暮らしてたって事を翔に少しで覚

えていて欲しかった。

翔が大人になって『そんな奴いたな』って俺

を思い出してくれたら幸せだとその時は思っ

てたんだ。



バイトを始めてから日常は変わった。

朝、翔と姉ちゃんを送り出してから家事をし

て、それからパチンコのバイトへ向かう。


そして翔が帰って来る前に家に戻るのだけど

シフトの関係で空き時間が出来たりする。

その時はバケツとスポンジを持って河川敷の

高架橋へ絵を消しに行くんだ。


どうせこの世から消えるんだからと無責任に

描いたけど、これは落書きで犯罪になる。

この街を出る前に全てを消して元通りにする

つもり、立つ鳥跡を濁さずということだ。

翔に抱いたこの奇妙な感情もリセットして、

新しい土地で心機一転だ。


多分これは幼い弟が可愛くて仕方がないとい

う兄の感情だと思う、弟を独占したいんだ。

きっと不仲だった実弟の代わりに翔に愛情が

向いたんだろう。


純粋な愛情を返してくれる翔のおかげで、俺

の歪な心は癒されていった。



専門学校に合格して住む場所を決め、全てを

済ませてから翔に話した。

俺が出ていくと知ると翔は『駄目だよっ!行

かないで!』と泣いて引き止めてきたんだ。


大きな瞳からポロポロと涙が零れて、凄く酷

いことをした気持ちになった。

こんなに望まれているならこのまま残ろうか

と心が揺れた時、


『あなたは夢を追うのでしょう?だったらい

るべき場所はここではないわ』


との姉ちゃんの一言で迷いは消えた。

俺は夢を叶えたい、そしてそれで生計を立て

たらこの人達に恩返しをするんだ。

どん底を救ってくれた姉ちゃんと荒んだ心を

解してくれた翔に…


『うん、そうだな。頑張ってくる』


だから立ち止まれない。


『智くん、行っちゃ嫌だよぉ』


でも翔が俺に抱きついて泣きじゃくる…

その姿を見たら胸が張り裂けそうになった。


愛おしくて可愛い子、俺だって本当は離れた

くないよ。

できれば側にいて成長を見守りたかった。

だけどそれは出来ない、だって俺は自分の決

めた道を行くのだから。


『ごめんな、俺も本当は翔と離れたくないん

だ。だけどどうしてもやりたい事がある、夢

があるんだ』

『…ゆめ?』

『そう、夢。絵描きになるっていう夢だ』

『智くん何時も家で描いてたじゃん!よそへ

行くことないよ!』


この家でも沢山の絵を描いた、その殆どが翔

からのリクエストだったね。

でも、俺が描きたいのは違うんだよ…


『ここじゃ駄目だ。学校で教えて貰う事が沢

山あるんだ』


技術、それが一番必要なんだ。


『嫌っ、どこにも行かないで』


翔は絶対に離れないというように、必死にギ

ュッとしがみついてくる。

そんないじらしい姿に胸が熱くなる、だけど

どうして出て行くのかを理解して欲しいから

腹の辺りにある小さな頭を撫でながら諭すよ

うに言ったんだ。


『離れていても翔の事を忘れたりしねえ、夢

を叶えたら絶対に会いに来る。そのために頑

張るから翔も応援してくれよ』

『……………』

『お前が頑張れって言ってくれたら、凄く力

が出て早く夢が叶うかもな。そしたらすぐに

また会えるだろ?』

『…本当に?すぐに来てくれる?』

『おう、約束する』

『絶対だよ』


俺を見上げた翔の瞳に溜まる涙を指で拭き取

り、必ず約束は守ると断言した。

それが何時になるかは俺自身もわからない、

だけどこの約束があればどんな困難であって

も挑んでいける。


『ぼくも……智くんに負けないように頑張る。

そうしたらまた一緒にいてくれる?』


そうできたらどんなに幸せだろう…

でも…きっとそれは叶わない。

これから成長と共にどんどん世界が広がって

いくんだ、俺なんて必要なくなるさ。


『…ああ』


それでも今は小さな子供の願いを聞いてあげ

たい。だから笑って頷いた。



***



そんな約束が、まさか本当になるなんて思っ

てもみなかった。


姉ちゃんが亡くなり孤児となった翔を引き取

ってから十年以上たったのに、未だに俺達は

一緒に生活をしているんだ。


翔は難解私大にストレートで合格して、外資

系企業に就職もはたした。

同じ年頃から見れば順風満帆だ、だけど俺に

は一つ心配な事があった。

それは翔の恋愛事情だ。


翔は高学歴で高収入のイケメンなのに全く女

性の影がない。

高三の時に『モテない俺に気兼ねするな』と

言っておいたのに大学生になっても誰かと付

き合っている素振りはなかった。


サークルのコンパがあっても必ず帰って来て

どこかに泊まるなんて皆無だし、家に女の子

を連れて来たこともない。

遊びたい盛りのはずなのに、どうして?

やはり俺に気を遣っているのかと悩んだりも

した。


だけどその反面、翔が誰の物でもないという

事実を密かに喜んでもいたんだ。

一緒にいられるのは翔が俺を『いらない』と

言うまでと決まっていたから。



やっぱり俺、翔が好きみたいだ。

昔、これは兄弟愛なんだって無理矢理思い込

んだけど、一緒に暮らす間に完璧に違うと気

づいてしまった。


翔から仄かに甘い香りがしただけで、誰と一

緒だったのかどういう関係なのかと思い煩っ

たりして……

駄目じゃん、俺……

翔にとったら気持ち悪くて迷惑な奴だな。


俺は踏ん切りをつけたいんだ。

未練を残さず想いを断ち切るには、翔に恋

人が出来るのが一番良い方法。


早く誰かと付き合って欲しかったのは、傷が

深くなる前に想いを消したかったから。

傷心を恐れた狡い考えだったんた。


大切な人ができて翔がこの家を出ていけば、

そんな汚い気持ちを知られることもない。

暫く癒えない痛みは残るだろうけど、俺に向

けられる翔の笑顔は変わらないはずだ。


それでいい、それだけで十分だよ。

だから、早く幸せを掴んでくれ……


そう願い日々を送っていた俺に、ある時翔が

清々しい笑顔でいった。


「今度の休日、行きたい所があるんだけど俺

に付き合ってくれる?と言うより絶対に一緒

に来てよ」











少しづつ書いていたので

微妙な文章です

読みずらくてごめんね♡