お山の妄想のお話しです。




翔くんとの初めての旅はカナリア諸島のバル

バドス。

島全体が珊瑚礁でできていて白いビーチに青

く透き通る海が美しい国だ。


ホテルの前には美しいビーチがあって翔くん

と一緒に子供みたいにはしゃいでしまった。

だって日本やニューヨークの海とはまるで違

うんだもの、それに二人きりの旅行だし浮か

れるのは大目に見て欲しい。


バルバドスではマリンスポーツを楽しみ、観

光もした。

翔くんの立てたスケジュールで色々な場所を

見学したよ。イギリスの植民地時代の議事堂

や協会、博物館、重厚な建築物や世界遺産が

あって旅好きという翔くんはとっても喜んで

いた。


カズからのプレゼントの旅は『THE 観光旅行

』という感じで終わり、俺達は次の場所へと

移動したんだ。


実はこの旅行は二部構成で、前半はカズからの、後半は俺と翔くんが二人で決めたもの。


選んだのは同じカナリア諸島のモルディブ。

ここでの宿泊はエメラルドの海に浮かぶ水上

ヴィラ。

1棟ごとに充分な距離がとられているからプ

ライバシーが守れるんだ。


そこでのんびり二人で過ごす…

潮風に吹かれながら美しい海を眺めたり、ヴ

ィラから海に飛び込んでハウスリーフをシュ

ノーケリングしたりした。


もちろん趣味の釣りもしたよ、海釣りなんて

何年振りだろう………

今まで仕事が忙しくて釣り自体できなかった

な。


翔くんは俺に付き合って海に潜ったり船に乗

って釣竿を垂らしたり、初めての経験だって

感動してた。


「楽しいね~、ここは天国だよ。俺ずっとこ

こで暮らしたいな」


楽し過ぎて帰りたくないと言うと、翔くんは

苦笑しながら『それは無理です。帰ったら仕

事が待っているよ』なんて帰国後のスケジュ

ールを話し出すんだ。


…俺だってそう出来ないのはわかってる、そ

れに仕事が嫌な訳じゃないし。

でもさ、ここは『そうだね』って共感して、

二人の時間が続くのを望んで欲しかった…


翔くんのバカ…空気読んでよ…

俺が不貞腐れている間にagentの顔をした翔

くんは仕事内容や契約規約を延々と話し続け

ている。まさに『立て板に水』の如くだ。

俺は黙って早く話が終わる事を願っていた。



「……と。まあ、帰ってからのスケジュール

はこんな感じ。忙しくなるからね」

「………うん」

「あれ?ご機嫌斜めになっちゃった?」

「仕事を忘れて旅行を満喫してたのに、翔く

んがそんな話するからだろ」

「ゴメンゴメン、一応確認しておきたかった

んだ。帰ってからは地獄の忙しさだよって」

「そーいうの、もういいから」


そう言い不満を表して口を尖らすと、翔くん

は笑いながら俺の唇を指で摘まんだ。


「そんなに拗ねないでよ、可愛い顔が台無し

……  この顔も可愛いけどね」


ムニムニ揉んでいた指を離すと、機嫌を取る

ようにチュッと軽いキスをよこす。

俺がそれでも唇を尖らせたままでいると翔く

んは困ったように眉を下げた。



楽しい旅行の最中に仕事の話をしてしまい智

君の機嫌を損ねてしまった。


愛しい人は可愛い顔でスネまくっているけど

俺がその話をしたのにもちゃんとした理由が

ある。


「帰ってからは現実に戻らなきゃならないか

ら、今この自由な時間にしたい事をしちゃお

うって言いたかったんだ」

「………そうなの?本当は早く仕事したいんじ

ゃないの?」

「バカなこと言わないでよ。せっかくの二人

の時間なんだから有意義に過ごさなきゃ」

「有意義って、何すんの?」

「そうだねぇ、残りの数日はこのヴィラに籠

ってずっとイチャイチャするとか」

「そんなんでいいの?」

「いいの!だって新婚旅行なのにラブラブな

ことしてないし」

「えっ?これって新婚旅行だったの?」

「違うの?!和也君からの旅行はご褒美で二

人で決めたモルディブは新婚旅行のつもりだ

ったんだけど」


他人から干渉されずパパラッチなどに邪魔さ

れないようにと考えて、この水上ヴィラに宿

泊することにしたんだ。

イチャイチャするには最適だろ?

なのに智君は全然ピンと来ていない様子だっ

た。


「新婚旅行はやっぱりおかしいよ、だってま

だ結婚してないし。これって婚前旅行つーの

になるんじゃないの?」


普段は大雑把なのに変な所で拘るのは芸術家

だからだろうか……


「婚前旅行ってさ、結婚する前に一生の相手

として相応しいか知るための旅行でしょ?

俺達の愛は確かだし婚約もしてるんだからハ

ネムーンと言っても良くない?」


こじつけて無理矢理納得させようとしたけれ

ど、頑固な智君は『う~ん』と首を捻る。


新婚旅行にこだわるのは智君に俺達の関係を

意識して欲しかったから。

ビジネスパートナーや友人ではなくてもっと

深い関係なんだと思い出して欲しい。


これ迄の旅行中はたまに甘いムードになるく

らいで、仲の良い男友達みたいなノリだった

から。


智君は久しぶりの長い休暇で羽を伸ばし、や

りたかった事を存分にして楽しみたいのだと

は思うけど、俺には少し不服だった。

これではニューヨークの家にいた時の方がま

だ濃密だったよ。


だけどのびのびして楽しそうな智君を見てい

たら、そんな不満は飲み込むしかないだろ…

だからずっと我慢した、だけど帰国のタイム

リミットが近付いてきて焦ってしまった。


以前智君には『そういうムードになれば自然

と役割も決まる』みたいな事を言ったけど、

今の状況ではそんな雰囲気にすらなりそうも

ない。格好悪いが心情を吐露するしか術はな

いだろう。


「……ごめん智君、本当の気持ちを言います。

俺さ結婚にこだわってただろ?それにあなた

を縛り付けて二度と離れないようにしたいっ

て……新婚旅行にこだわるのも…その……」


ここへ来て言い淀んだ。

言って軽蔑されたらどうしようと怖くなった

んだ。


「どうしたの?言えないようなこと?」

「…俺の事軽蔑しない?」

「軽蔑??翔くんを?」

「うん」

「するわけないじゃん。とにかく言って?」

「ハネムーンって言ったら、連想しない?」

「連想?」

「俺は連想したよ、初夜って」


初夜と聞き智君か目を丸くした、全く思い付

かなかったみたいだ。


「俺、あなたの全てが欲しいの。心はもう繋

がっているから、身体も……」


以前言った事に対して矛盾しまくりだけれど

あなたが欲しい、一つになりたい。

あなたを抱きたいんだ


「…………」


黙り込みジト目で俺を見る智君……

やっぱり呆れられたか…いや『言ってる事が

前と違う!』と不信感を抱かれたかも……

一方的に欲望をぶつけているんだから嫌悪さ

れても仕方がない。

でもこんなことで嫌われるのは悲しすぎる、

だったら我慢した方がマシだ。


「ごめん。もう…」


『いいから、忘れて』最後まで言うのを智君

が遮った。


「納得出来ない事がいくつかあるんだけど聞

いてくれる?」

「…はい」

「結婚してないのに新婚旅行はおかしい。そ

れに初夜って夫婦になって最初の夜のことだ

ろ?これも成り立たないよね」

「そうだね……」


珍しく理屈を捏ねる智君に同意しか出来ない

俺は完全に諦めムードだ。


「だからそれを成立させるために結婚式をし

ようよ」


しかし、次の言葉に瞠目した。


「さ、智君、それって…」

「結婚して初夜でHして…俺を完全に翔くん

のものにしてよ。そうすれば翔くんは安心で

きるだろ?」

「俺の欲のために仕方なく、なら嫌だよ」

「違うよ、俺も翔くんと繋がりたい。それで

俺だけの翔くんにするんだ。もう俺以外の人

を見ることも許さないけど、それでもいの?

我慢できる?」

「余裕でできる、今までだって智君以外の奴

なんて目に入らなかったし」


公園で踊る姿を見た時から、智君しか見えて

いない。ずっとずっとあなただけ、これから

先だって決して変わりはしないよ。


「じゃ、暗くなる前に式を挙げちゃおうか。

神父さんはいないし指輪もないけど、かまわ

ないよね?」


微笑みながら智君は俺の手を引きデッキへと

歩く、そこには抜けるような青空と透き通っ

た青い海が広がっていた。


「神様は天にいるから青い空に誓いを立てて

証人は海の中の魚たちになってもらおう」

「うん、でも本当にいいの?」

「かまわないよ。翔くんは?」

「俺は凄く嬉しい…幸せだよ」

「んふふ、俺も。では櫻井さんこちらを向い

て下さい」

「はい」


俺達は青空の下で向かい合った。

そして智君はコホンとひとつ息を吐くと、俺

を見上げて神父のするような問いかけを始めた。


「櫻井翔、あなたは大野智を生涯の伴侶とし

て病める時も健やかなる時も、富める時も貧

しき時も、死がふたりを分かつまで命の続く

限りこれを愛し、敬い、貞操を守ることを誓

いますか?」

「誓います」


その問いかけに緊張しながらも決然と答えた

そして次は俺が智君に問う番だ。


「大野智、あなたは櫻井翔を生涯の伴侶とし

て病める時も健やかなる時も、富める時も貧

しき時も、死がふたりを分かつまで命の続く

限りこれを愛し、敬い、貞操を守ることを誓

いますか?」

「誓います」


淀みのない声に胸が熱くなる。


「では、誓いの口づけを…」


指輪の交換は飛ばして誓いのキス。

智君の頬に指を添え、ゆっくりと顔を近づけ

ていく。


「……翔くんごめん。真っ昼間にお天道様の

下でキスするのはやっぱ恥ずかしいや」


あと少しというところで愛しい人の小さな唇

が動き、腕を捕まれてそのまま二人で海へと

ダイブした。



ゴボゴボ、コポコポ……

飛び込んださいに出来た気泡が消えてから目

を開くと、すぐ前に悪戯っぽく笑う智君の顔

があった。


お日様の下は恥ずかしかったの?

でも賢明な行動だったよね、いくら陸から離

れた水上ヴィラでも見晴らしの良いデッキの

上じゃ誰に見られるか分かったもんじゃない

からね。


本当は俺が気を遣わなきゃ駄目なのに、次か

らは気をつけるから。

申し訳なく思いながらも俺は智君を抱き寄せ

てその唇に触れた。


誓いのキス、

俺達を取り巻くように泳ぐ魚たちが証人だ。

これで結婚は成立しただろう。


美しい青に囲まれて儀式は終了した…


そして長かったBlue period、青の時代も…

俺達の青春と苦悩は終わったんだ。


これから始まるのは、ばら色の時代


二人で手を取り合い、仲良く幸せにどこまで

も歩んでいこう。










その後、『初夜の儀』は恙無く済んだ。

どっちが……なんて野暮は止めてくれ、

愛し愛され、それでいいんだから。









群青   end








YOASOBI『群青』MVを見て

浮かんだ話です


漫画は読んだことがありませんが

辿ればピカソに行き着く

すげーな



しかし私の話はお粗末でしたw