お山の妄想のお話です。



✕月○日

大学で自称霊感持ちに住んでいる部屋の事を

言われてからも、それを気にせず妖精のさと

し君との生活を続けている。


満月を過ぎ新月になる頃には姿は全く見えな

くなるが、声は聞こえるから淋しくない。

それどころかまた満月に近付けばハッキリと

存在が明らかになるから、カウントダウンイ

ベントみたいに盛り上がっていた。


さとし君は二度目の満月の頃には、初々しさ

が失くなり妖艶に俺を誘った。

俺はそれを嫌悪することなく喜びを感じ、さ

とし君を攻め抜いた。

幸せな日々だった、これからずっとこんな毎

日が続いていくのだと本気で思っていた。


なのに、異変が起きた。

ある日を境に、さとし君が俺を起こしてくれ

なくなったんだ。姿が見えなくなっても、今

までずっと起こしてくれたのに……


1日だけなら妖精にだって都合はある、と気

にもしなかっただろう。

だけどもう5日はさとし君の気配を感じない

んだ。どんなに呼んでも返事さえない。


こんなことは今までなかったから、とても焦

った。

はたしてさとし君はこの部家にいるのか?

それとも、いない?

まさか出て行ってしまったとか?!

それとも何らかの事情で俺の前に出てこれな

いのか?

わからない、わからないよ…


さとし君、俺は凄く淋しい。

あなたが恋しい、逢いたいよ。



✕月△日

さとし君に逢えなくなって半月が過ぎた。

どこに行ってしまったのか…

自分の意思でここにいないのか、それとも何

かに邪魔をされているのか、俺には知る由も

ない。

ただ逢いたくて、一目でいいから姿が見たか

った。


毎日一縷の望みをかけ、何も無い空間に呼び

掛け続けた。

さとし君どこ?さとし君逢いたい、お願いだ

から姿を見せてと。

しかし返答はなかった。


もうすぐ満月……

本当なら愛を確め合っている頃なのに、あな

たはいったい何処に行ってしまったの?



✕月□日

さとし君の気配を感じなくなりだいぶ経って

しまった。

ずっと待っていたけれどもう限界だ。

このままここで待っていても事態は改善しな

いだろうと感じた。


だから待つのを止め、アクションを起こす

事に決めた。

まずさとし君に繋がるヒントを探そうと考え

た。俺の部屋にいなくても、このマンション

のどこかにいるかもしれない。


もしかしたら他の住人に捕らわれているかも

しれないんだ。

あの美しい姿を見てしまったら、自分だけの

ものにしようと思うだろうから。


『妖精の拉致』なんて罪深い…

だとしたら、俺はそいつを許しはしない。


これから一部屋ずつ巡り確めてこよう。

まずは隣の部屋からだ。



✕月◇日

全ての部屋を巡った。

突然の訪問に皆胡散臭そうに俺を見たが、そ

れに構わず『部屋で不思議な現象は起こりま

せんか?』と訊いた。


殆どの住人は『ない』と答えてから、俺の部

屋に何か思い当たることがあるようで、一様

に憐れむような表情をした。

それを見て俺は『あの部屋に何かあるか?』

と尋ねてみたが誰もが『よくわからない』

『知らない』という返答だった。


しかし皆からは何かを隠しているような気配

がする。

部屋を辞す時、数人から『頑張って…』と言

われたのがそれを示している。

何に対しての言葉なのかわからないが、皆俺

に同情しているようだった。


玄関で他の住人と話しながら、さとし君の気

配を探したがどこの部屋にも感じない。

やはりこの建物の中にはいないのか?

……俺が嫌になって別の場所へ行ってしまった

のかな…

悲しい気持ちで部家に戻った。



✕月○△日

隣の部屋からガタガタと音が聞こえる。

住人が帰って来たのか?

そこの住人は引っ越しの挨拶に行った時『仕

事柄留守が多い』と言っていた。

それは本当のようで、これまで月に何回か物

音を聞く程度だった。


そういえば、隣の住人からはまだ話を聞いて

いない。もしかしたら彼が特殊な方法でさと

し君を監禁しているのかも。

部屋が隣なだけに有り得ることだ。


隣を調べに行こう。

さとし君がいたら連れ帰るんだ。

隣人が阻止してきたらその時は力尽くででも



✕月○✕日

昨日隣の住人から大変な話を聞いた。

それは『大野  智』という人物についてだ。

彼は一年程前に俺の借りた部家に住んでいた

という。

歳は20代前半で隣の住人が越してきた時には

もう住んでいたそうだ。


見た目は可愛い感じのイケメン。

学生ではないようで、部屋に籠って仕事をし

ているようだったが何の職業かはわからなか

ったそうだ。


さとし……智……同じ名前。

そして言われた風貌も似ている気がする…

でもその職業不詳の大野さんは人間で、さと

し君は妖精だから関係はないと思った。


だけど隣人の話を聞くうちに段々胸騒ぎがし

てきたんだ。


………大野氏はある日、マンションの階段から

転げ落ち救急車で運ばれて行った。

そして二度とここに戻って来なかった、安否

もわからぬまま、暫くすると部屋は引き払わ

れて新しい人が入居したそうだ。


誰かが越してくる度、隣人は挨拶を受けたそ

うだが、その後ひと月もしない間に皆逃げる

ように出て行ってしまうという。

その理由が『部屋に気配を感じる』とか『

ぼんやりと人影が見える』などのオカルトっ

ぽいものだったらしい。


隣人は階段から落ちた大野氏はそのまま帰ら

ぬ人となり、俺の部屋に霊となって居続けて

いると推測しているようだ……


………まさか、酔って連れ帰った美女が見た

『天井の若い男の顔』や俺に起こっていた数

々の現象はみんな『大野  智』がしていたの

か?だとしたら、さとし君は妖精なんかじゃ

なく…………


幽霊…………

俺は取り憑かれていたのか?

そんなはずはない、俺達は愛し合っていたん

だ!それに風貌が似ていても別人だというこ

とも大いに有り得る。


そうだ、そうに違いない。




✕月○□日

決定的だ……

間違いが無くなった……

『大野  智』は『さとし君』だった…


さっき隣の住人が『大野  智』が写る写真を

見せに来た。

それは以前一回だけ行われたという、住民同

士の親睦を深める為のバーベーキュー。

そこで撮られた集合写真。


十数人が写る中、隣人が『これが大野君』と

指差した先にはさとし君の姿があったんだ。


さとし君は階段から落ちた『大野 智』……

妖精ではなく、幽霊……


愕然とした……

ただ写真のさとし君を眺め続けた…



✕月○○日

ここは事故物件だったのか……

さとし君は幽霊……

いや、幽霊でも妖精でもどちらでもいい…



怖い、怖いよ……助けてくれ…



さとし君……


もう、ここにはいられない………










***********




「この日を最後に翔さんは消えたようです

ね」

「連絡が取れなくなって一週間……確かにこの

翌日からだな」

「翔ちゃん何処に行っちゃったの?凄く怖く

て逃げちゃったのかな…」

「有り得ますねぇ、あの人意外とビビりです

から。でも、逃げたとしたら何処に行ったん

です?実家にはいないし、私達の所にも来て

いないんですよ?」

「そうなんだよなぁ、翔さんってビビりのく

せにプライド高いから俺達以外に弱味みせな

いだろうし、彼女もいないみたいだしな」

「この日記にある通り、妖精さんとお盛んな

ら彼女なんて必要ないでしょうしね」

「ニノちゃん!相手は妖精さんじゃないよ!

幽霊さんだよ!」

「相葉君、それはどうでもいいよ」

「何いってんの!凄く大切なことだよ松潤!

さとし君が妖精ならワンチャン翔ちゃんは生

きてるだろうけど、幽霊だったら取り殺され

てるかもしれないんだから!」

「相葉さん縁起でもないことを言わないでく

ださいよ」

「でもさ、日記には事故物件だったって書い

てあるでしょ。本当に幽霊なら…翔ちゃん…」

「事故物件なら不動産屋に告知義務があるは

ずです。確か殺人、自殺、事故による死亡発

生の告知義務の期間は賃貸の場合三年だった

はずですよ。ですからここが本当に事故物件

なら翔さんが入居する時に告知があったはず

です。そうですよね?担当の伊野尾さん」

「えっ!ここは事故物件なんかじゃありませ

んよ!誰も亡くなってませんし!!」

「本当にぃ?誰かが『事故物件は一人住んで

出て行けばもう言わなくていい』って言って

たよ!翔ちゃんの前に何人も住んだから言わ

なかったんじゃないのっ!!」

「わわっ!よして下さいよ、本当にここは事

故物件じゃないんですぅ~」

「相葉君落ち着けよ、伊野尾さんが話のわか

る担当だから翔さんの部屋に入れたんだぞ。

それに大野って人は階段から落ちたんだろ?

だったら現場は部屋じゃないし」

「そっか!だったら階段が事故物件?!」

「待ってくださいよぅ、本当にこの建物では

人は亡くなってませんから~。それに大野さ

んも生きてますよ」

「え?」

「なんだって?!」

「どーゆーことぉ??」






友情出演

にの

相葉ちゃん

J


慧くん







次終了