お山の妄想のお話です。
翔
自慢ではないが俺はモテる
だから今まで自分から告白したことはない。
それは女の子達が、光に集まる虫のように寄
って来て告白するからだ。
その娘が気に入れば付き合うし、タイプでな
ければ断る。
態々自分から告白なんてしなくても引く手あ
またなんだ。
だから智君も告って来るだろうなんて傲慢な
考えでいた。
でも違った、智君は其処らの女の子達とは違
うんだ。
そもそも同性だし、智君がノーマルな人なら
同じ性別の奴を恋愛感情で『好き』と思わな
いだろう。
仮に『好き』の感情があったとしても、それ
は友情とかに振り分けられてしまうはずだ。
それではいくら待ったって智君は告白なんて
してこない……
『親友』とか、恋愛とは別の場所に位置付け
られてしまうのがオチだ。
このままでは智君との仲は進展しない。
………本当に欲しいなら、自分から動かなけれ
ばならない。
人から寄せられる想いにあぐらをかいている
場合じゃないんだ。
そう考えて時計を見れば、まだバレンタイン
が終わるまでに1時間程ある。
智君のバイトも24時までだと言っていたから
間に合うはずだ。
告白する!
生まれて始めての愛の告白だ!!
俺はベッドから飛び起きると尻ポケットに財
布を捩じ込み、愛しい人のいるコンビニへと
走った。
*
我武者羅に走り最速でコンビニに着いた。
智君が何処にいるのかそっと中を伺うと、さ
っきと同じでレジにいた。
丁度良い具合に客はいない、智君の相棒の姿
も見えない。
今だ、チャンスは今しかない!
始めて智君の顔を見ずに入店し、出入口側の
特設コーナーに直行した。
そして目についた商品を無造作にいくつか掴
むと、智君のいるレジカウンターに置いた。
「おおっ?翔くんさっき振り」
「お勘定お願い」
「うう?おう、ちっと待ってな」
智君が戸惑っている。
それはカウンターに置いたチョコのせいでは
なく、再び店を訪れ何時もと違う俺の態度へ
のようだ。
そう、俺は今超真剣な顔をしている
いつものデレた笑顔は封印だ。
だって始めての告白の前なんだぞ、だらしな
い顔は出来ないだろ。
チョコの箱を手にし、バーコードを読み取っ
ていく智君。
戸惑っていた表情は今や怪訝なものに変わっ
ている、それは当然だ男がバレンタイン用の
チョコを買おうとしているんだから。
しかもそれが知り合いなら尚更だ。
「2500円になります…袋いる?」
合計金額を言いながら袋の要否を問うてくる
チョコの数が多いから流石にポケットには入
りきらない、でもこれは俺が持って帰るもの
じゃない。
「智君!」
俺はカウンターの上のチョコをズイッと智君
の方へ押しやった。
そして、初めてに加え一世一代の愛の告白を
した。
「あなたが好きです!どうかこのチョコを受
け取って下さい!」
お願い、俺の想いを受け取って……
祈るような気持ちでいると、智君は鳩豆な表
情でチョコと俺を交互に見ている。
「え、このチョコをおいらにくれるんか?」
「はい」
「どーして??」
「今日はバレンタインでしょ、だから」
「バレンタインって意中の人にチョコをやる
日だよな?」
「そうだよ、だから俺はあんたに贈るんだ」
「おいら男だぞ?」
「そうだね」
「翔くんも男だぞ?」
「そうだよ」
「おかしくね?」
「おかしくないよ!性別なんて関係ない!俺
が好きになったのは大野 智っていう人なんだ
から!」
好きになったら性別なんて不問、俺はあなた
の人間性と可愛い顔に惚れたんだ。
あなたはどう?やっぱり女の子じゃないと嫌
かな?
「智君は男は嫌?俺のこと気持ち悪いって思
う?」
「…嫌じゃないけど、突然だから…」
嫌じゃないなら良いって事だよね?
そう思っていいんだよね?
「だったらチョコを受け取って下さい!」
「………うん」
智君はチョコを受け取ってくれた。
俺の想いを受け止めてくれたんだ、でもそれ
が返事でないことはわかっている。
「返事は来月でいい?」
「はい、良い返事を期待してます」
来月のホワイトデーに返事をくれる……
それが悪いものでないように願おう。
「翔くん、あんがとな」
智君が見せてくれたはにかんだ笑顔に、何だ
か明るい未来が訪れるような予感がした。
智
今日はバレンタイン、おいらにゃ無縁の日。
なのでニノと一緒に何時もより長いシフトが
入っている。
バレンタインはバイトは無理、なんて言う奴
らのせいで交代人員がいなくて結局おいら達
が煽りを食った。
おいらは別に構わないけど、ニノは嫌だった
らしい。普段『仲間と世界を守る』時間にバ
イトなんてしてられないそうだ。
『俺が行かなきゃ、世界が~』と騒ぐニノが
可哀相(鬱陶しい)でバックヤードへ引っ込め
た。きっと今頃オンラインで世界を守るため
に戦っているはずだ。
23時にもなるとお客はあまり来ない。
住宅街だからな、皆寝てるよ。
おいらも早く帰って眠りてえ、ぼーっとしな
が考えていたら入店チャイムが鳴った。
客か~仕事せにゃ~、とそちらを見ると少し
前に帰って行った翔くんがいた。
本日2回目の御来店♪二回もイケめた顔が見
れて幸せだなとニヤけていたら、いつもは爽
やかな笑顔で近付いてくる翔くんがこっちに
は目もくれずバレンタイン特設コーナーに直
行した。
ん?何でチョコ?まさか買う気?なして?
イケメンの翔くんがチョコを貰うのは想像で
きるけど、買うのは理解できない。
絶対に女の子達から沢山貰っているはずなの
に、どうして?
そんな行動に図りかねていると、翔くんがレ
ジ前に何個かのチョコを置いた。
「翔くんさっき振り」
取り敢えず再会の挨拶をしたけど、翔くんは
会計を急かす。
しかも今まで見たこともない真剣な顔だ。
チョコを買わなければならない問題でも起こ
ったんだろうか?
どうしたんだと疑問を持ったまま、商品をレ
ジに通した。
チョコの数が多かったので合計金額と袋の要
否を訊くと、それに答える事なくチョコをお
いらの方へ押してきた。
そしておいらが好きだ、チョコを受け取って
くれなんて言うんだぜ?
いくらおいらでも驚くよ、チョコと翔くんを
見ちまった。
これをおいらに?もしかして『友チョコ』?
そう思って訊いてみると、真剣に好きだって
いうんだ。
でもそんなの信じられる?
だって相手はイケメンモテ男だぜ、綺麗な花
に囲まれて生活しているようなヤツが野郎相
手に本気でそんなこと言うか?
どうにも真に受けられないでいると、翔くん
は更にイケメンをキリッとさせておいらへの
愛を語るんだ。
そんなふうにされると、キュンキュンしちま
うから勘弁してくれ。
結局おいらは翔くんからのチョコを受け取り
返事はホワイトデーにすることにした。
………本当はすぐにでも出来たけどな。
実はおいらも翔くんが好きだったんだ
初めて見た時から気になって(イケメンだし)
店に来てくれる度にじわじわと恋心がわいて
いった。
でもさ男同士って躊躇いもあった、翔くんは
ノーマルみたいだったし。
おいらだって男を好きになったのは初めてだ
しな。どうしたらいいかわからなかった。
でも勇気を出して告白してくれた翔くんのお
かげで、晴れて両想いになれた。
感謝感激(雨嵐)だ!
だけど、返事は来月まで待ってくれ。
だってバレンタインに貰ったらホワイトデー
に返すっつーのが定番だろ?
ホワイトデーはバイトを入れずに、長い時間
二人で過ごそう。
おいらのアパートで飯でもご馳走して、そん
で今日の返事をする。
沢山のお菓子と、
おいらからの翔くんへの想い……
それから、繋縛雑誌もオマケにつけよう。
きっと喜んでくれるよな?
そしてホワイトデー
二人は交際を始めましたとさ
めでたしめでたし
『アオハル』へ続く