お山の妄想のお話しです。




相葉ちゃんとのんびり歩き帰路につく。

家についたら夕飯を食べて、それからお楽し

みの部活。

俺と相葉ちゃんの二人だけのスイーツ部は、

おふざけの賜物で何故か俺が部長だ。


以前たこ焼きを家で作った時は相葉ちゃんが

店長で俺がバイトだった。

色々な〖ごっこ〗をして楽しかった、恋人ご

っこは結構イタかったけどね。


「部長~、ケーキ楽しみだね」

「全部半分こしようね」

「うん!」


ケーキを持つのは勿論部員で、箱を揺らさな

いように大事に持った相葉ちゃんは鼻歌を歌

っている。かなりの上機嫌。

甘い物が大好きだからテンションが上がって

るんだな。


「……あ、そうだ」


甘い物といえば…、確か今いる場所の近くに

話題の店があったのをふと思い出した。


「ん?どうしたの?」

「あのね、この先にでっかいかき氷を出す店

があるんだって」

「ホント?どのくらい大っきいの?」

「わかんね。行ったことないし」

「え~っ、気になる~。スイーツ部としては

真相を確かめなくちゃ駄目だよ。ちょっと見

に行ってみようよ」

「行くの?でも店を見るだけだよ?」

「入らないの?」

「だって今日はケーキがあるもん」

「わかった、じゃあどんなお店か見るだけ!

食べるのはまた別の日ね」

「ふふ、そうしよ。他にもハワイのパンケー

キの店とか台湾カステラとかあるから、今度

全部はしごしよう」

「わ~いいね!楽しみ!」


相葉ちゃんは更にニコニコ顔になり、つられ

て俺も笑顔になる。

もうすぐ訪れる別れの前に楽しい思い出を沢

山作れそうだ。





和也君とかき氷を食べながら色々と考えた。

それは勿論、智君にどうやって会うかだ。


メールの返信は無し、午前、昼、夕方、いつ

訪ねて行っても留守……

俺は避けられているから会うだけでも困難だ


「智君って夜は帰ってるんだよね?」


唯一訪ねてないのが深夜滞……

しかしこの時間に訪ねるのは、いくらなんで

も常識を逸しているだろう。


「いるよ。この頃は9時過ぎには部屋に明か

りがついてるからね」

「9時過ぎか、お邪魔するには失礼な時刻だ

よね…」


深夜とまではいかないが未成年が気軽に訪ね

る時刻じゃないし、居留守を使われたらどう

にも出来ない。

彼が部屋にいると確信できれば突撃してでも

必ず会うのに…


「それまで俺の部屋にいればいいよ。部屋も

真向かいだし、帰ってきたらすぐにわかる」

「うん、ありがたいけど…」


凄く有難い提案だけれど、それをすると解け

る誤解も解けなくなりそうで怖い。

そんな時間に和也君の所から出て来て『あな

たは誤解している!』なんて力説しても信じ

てはくれないだろう。


「あ…俺のせいで翔さんは避けられてるんだ

もの、それだと駄目か…」


俺が眉をひそめると、和也君がしゅんとして

しまった。


「和也君のせいじゃないよ。俺がもっと踏み

込んで行けば良かっただけなんだから」


俺は智君に嫌われるのが怖くて、彼の深くに

まで入り込もうとしなかった。

友達になってくれなんて言っておいて、腫れ

物に触るような態度をとっていたんだよ。


智君の総てを知りたかったのは確かだけど、

それを躊躇しなあなあで過ごしていた。

まだ腹を割って話せるような間柄じゃなかっ

た、そうなったのは全部俺の責任だ。

今の状況は自業自得かもしれないな。


「……出来れば外で会いたいな。家だと籠城さ

れるからね」


外だったら智君がどれだけ俺を避けて逃げて

も必ず捕まえる。

そしてもう絶対に離さないんだ…


「…………え?」


俺は自分の思考がおかしな事に気が付いた。

必ず捕まえる?絶対に離さない?

この暴慢な独占欲は何だ?

これは友達に向ける感情だろうか?


ただの友達に向けるには泥々としたもの、

会ってくれない怒りや淋しさ

再従兄弟に向けた嫉妬

嫌われたくなくて飲み込んできた言葉…


……友達?……違う。

誰にも渡したくない、なんて親友にだって思

ったりしないよ。


これは…                   『恋』


公園で初めて『森の妖精』を見た時の衝撃

また会いたいと焦がれ

近付きたい、話がしたい、触れたい、と強い

想いを持って探した…


総てを纏めれば答えは一つしかない

智君に向けた想い、それは紛れもなく恋心だ

った。

あの時悪友達が言い兼ねた、自分で気付けと

はこの事だったんだな。



「翔さん大丈夫?」


急に黙り込んだ俺を心配したのか和也君が声

をかけてくれ、それでやっと思考の海から浮

上した。


「え?!大丈夫だけど」

「本当に?険しい顔で黙ってるからどうかし

たのかと思ったよ」

「うん、やっとモヤモヤしたものの正体がわ

かったんだ」

「モヤモヤ?」

「そう。それがわかったから、俺は絶対に智

君と話さなきゃならない」


どんなことをしてでも彼と会って、そしてこ

の胸の想いを伝えるんだ。

俺が真摯に話せばきっと智君はわかってくれ

る、誤解たって解けるはずだ。


「俺、智を外に連れ出してみるよ。そして翔

さんの所へ連れて行く。智を騙すことになっ

ちゃうけどそれが一番手っ取り早いよ」

「出来るの?」

「なんとかやってみる。智と翔さんを仲直り

させるのは、俺の義務だからね」


俺は和也君の申し出を受けることにした。

彼は自省し犯した罪の責任をとろうとしてい

るんだから。





「あそこだよね?」

「うん、多分」


店の近くまで来た俺達は少し及び腰になって

いた。

想像していたのは『氷』と書いた暖簾が下が

ったレトロなものだったのに、そこはお洒落

なカフェのような建物だったからだ。


「ホントにかき氷屋さん?」

「店名はそうだけど」

「ちょこっと窓から覗いてみる?」

「え~っ、お客いるよ?」

「本当にかき氷屋さんか確めようよ、通り過

ぎざまにチラッと見るだけ!」

「じゃ、さーっと通ろう」


少し気が引けたけど、後で調べ直す手間を考

えれば覗いた方が楽だ。

俺達は歩きながら店内をチラりと見た、する

と窓辺のテーブルに大きなかき氷を確認する

ことができたんだ。


「わっ、でかっ」


大きさに驚いた相葉ちゃんが立ち止まり、ま

じまじと硝子の向こうのかき氷を凝視する。

その席にいた女の子達は最初は驚いていたけ

ど、覗き込んでいるのがイケメンだからかキ

ャッキャとし始めた。


「ちょっ、相葉ちゃん!!」


俺は恥ずかしくて相葉ちゃんの左腕を抱える

ように引っ張りそこから引き剥がした。


「あ、大ちゃん!もう少し見せて~」

「ダメっ!チラ見だけって言ったじゃん!」

「でもさ、あのシロップ?すんごい美味しそ

うだったよ。果肉も入ってたみたい」

「わかったから~、兎に角歩いて~」


背の高い相葉ちゃんを引きずるのは骨が折れ

る、やっとの思いで窓辺から離れ少し進むと

店の入り口があってその横にメニューの立て

看板が置いてあるのが見えた。


「あ、メニューだ!見てみようよ!」


それを見つけた相葉ちゃんは凄い勢いで看板

に近付き、今度は俺が腕を組むような形で引

っ張られた。





「本当に払わなくていいの?」

「これは迷惑をかけたお詫びだから、気にし

ないで」


智君を連れ出す方法や日時なんかを決めてか

ら店を出ることにした。

代金を払おうとしたら和也君に止められ、結

局ご馳走になってしまった。


「美味かったけど量が多かったな」

「何だかお腹がタポタポするね」


感想を言い合いながらレジからの短い通路を

入り口へと向かう。

そして外に出るために扉を押し開けると、

そこには…………





苺にマンゴー、それにメロンetc.

メニューは写真付きで全部美味しそうなんだ

けど…


「わっ!このメロン、マスクメロンだって」

「うん、そうだね。さ、帰ろう!」


ここは店の入り口の前だから出入りする人の

邪魔になる、俺は早く移動したいのに困った

事に相葉ちゃんはメニューに釘付けで全然動

こうとしないんだ。


「待って、もうちょっとだけ見せて~」

「も~次来た時のお楽しみにしなよ」

「今見ておかないと次に来た時にすぐ注文が

決まんないよ~。美味しそうなのが沢山あっ

て絶対に選べないもの」

「だからって今見なくても…」


相葉ちゃんが組んだ腕を離してくれないから

問答無用で俺もこの場を離れられない。

今の所歩道に人はいないから通行に差し障り

はないけど、店から出る人が来たら無茶苦茶

邪魔になるだろう。


ケーキの箱の保冷剤もそろそろ危険な状態だ

ろうからさっさと帰りたい。

そこで奥の手を出すことにした。


「相葉ちゃん、保冷剤が効かなくなったらケ

ーキが溶けちゃうよ!」

「それは困っちゃうね!帰ろう!」


流石スイーツ大好き相葉ちゃん。

『ケーキのために帰ろう』と看板から離れよ

うとした時、カランカランというドアベルが

鳴り店の扉が開いた。


人が出てくる?

確認のため咄嗟にそっちを見ると……









不具合なおった