お山の妄想のお話です。



占い師オオノは凄い人だった。

事前に名前しか伝えていないのに、俺の事が

わかっていたのだから。


最後までカーテン越し、聞こえるのは穏やか

な声だけだったけれど彼の占いは的を得てい

た。


占いを続けるか否かについては、もう心は決

まっている。彼の言う通りでプライドを捨て

てまで続けるつもりはないんだ。


自分の将来がかかった占いまで外し、ト者と

しての資質は無いのだと感じた。

でも、運命の人の占いが外れていたのは嬉し

かったな……


残念なのは再会は果たしていたらしいが、そ

れが何処でなのかがわからないこと。

あの人に出会えていたなんて思いもよらなか

ったから、驚いてしまった。


俺の運命の人についてはまだ占ってくれるよ

うだが、情報が足りないのか後数回通うこと

になりそうだ。

その時少し料金の事が気に掛かったけれど、

運命の人と逢えるならと覚悟を決めた。


しかし占いが終わり、受付で精算をした時に

提示された金額は予想していた額とは全く違

いとても安価だった。


「3104円です」

「えっ???」


聞き違いかと思った。

三千円代なんてうちの駆け出し占い師の料金

だ、当たると有名な占い師の金額とは到底思

えない。


「あの、間違いじゃ?俺はオオノさんに占っ

てもらったんだよ?」

「いえ、間違ってはいません。これでいいと

占師が言っていますし」

「でも、安すぎです」

「それに関しては、あなたに完璧な答えを出

せなかったからと言っていましたよ。それに

後数回通ってもらうというので規定の金額で

は申し訳ないからだそうです」

「しかし……」

「占師がその金額でいいと言ったのですから

櫻井様が気になさる事ではありませんよ」


そう言い受付の彼は微笑んだ。




それから週一のペースで占いの館に通った。

カーテン越しに占師と会い様々な話をした、

それは正規社員で働く本業の事や副職のト者

としての活動。そして日常生活や趣味など、

占いに関係あるのかと疑問に思う様な事まで

話した。


オオノさんも結構気軽に何でも話してくれ、

何となく親しくなってきた。

勿論気軽に話すと言っても、守秘義務のある

ものには触れないけれど。


中々運命の人に話が及ぶことはなかったけれ

ど、いつしか俺は占師と話す事が楽しみにな

り会える日が待ち通しくなった。



「こんばんは、よろしくお願いします」


オオノさんの部屋に入り声をかけると、カー

テンの向こうから『いらっしゃい』と声がす

る。もう何回も通っているのに、何故かまだ

対面で占ってもらった事がない。


かなり打ち解けているから、信用されていな

い訳ではないはずだけれど……

どうしてなのか今回思い切って訊いてみよう

と思う。


ソファーに座り何時ものように世間話をして

から、オオノさんに訊いてみた。


「オオノさん、私の素性はもうご存じですよ

ね?そしてあなたに危害を加えるような人間

でないことも分かって頂けていると思ってい

ます。ですから、そろそろ真面で会ってもら

えませんか?」

「………え……」


オオノさんは口籠ってしまった。

どうやら答えに窮しているようだ、どうして

だろう?顔を見せられない理由があるのだろ

うか……


「…櫻井さん申し訳ありませんがまだあなた

に私の顔を見せるわけにはいきません」

「何故ですか?」

「………占いの答えが完全に出るまで、あなた

に顔を見せるわけにはいかないのです」

「それは……?」

「あなたの探しているのが本当に運命の人な

のか、私の占いではまだ答えが出ません。

それがハッキリするまでは姿を見せない方が

良いと占いで………」

「そうなんですか?」

「………はい」


占い結果が出るまでオオノさんと対峙するこ

とが出来ないというのは腑に落ちないが、運

命の人との再会のためなら仕方がない事なのか……?

でも、近くで彼と話してみたいという気持ち

も半端なくあるんだ……


そこで俺は気付いてしまった、今や運命の人

の事よりオオノさんがどんな人なのかという

方が関心があることに。


俺の心の比重が〖運命の人〗より〖占師オオ

ノ〗の方に傾いているんだ。

これはどういうことだろう……


運命の人との再会より、占師の姿を見たいと

いう方が重要になっている。

姿が見えない占師に俺は惹かれ初めているん

だ……


確かに運命の人の事を知りたい気持ちはある

でも其がわかってしまったら、もう此処へは

来れなくなる。

オオノさんに会えなくなるんだ。

きっと占いが終了したら予約は取れなくなる

だろうから……


彼は個人の客は滅多にとらないカリスマ占い

師。

いまだに部屋に案内してくれる知念君も『今

回は例外中の例外』と耳にタコができる程言

っているし。



俺は仕事の関係上、休憩時間はまちまちだ。

今日も昼の時間をかなり過ぎてからの休憩に

なってしまい、外で食事をとってから公園に

やって来た。


ここは『運命の人』と出逢った公園……

実はあれから何回も訪れているけれど、あの

人と遭遇したことはなかった。


オオノさんの占いでは、あの人と何処かで会

っていると出ていた。

だとしたらこの公園しかないと思っていたけ

れど、これだけ通って会えないのは見当違い

なのかな……


そんな事を考えながら、俺はあの日運命の人

が座っていたベンチをぼんやり眺めていた。



しばらく間そこで過ごし、そろそろ仕事に戻

ろうかと顔を上げると少し離れた車道に停ま

っている黒塗りの高級車が目に付いた。


「……………あれ?」


何処かで見たことのある車…前もあそこに停

まっていた。

あれは何時の事だったかな?


自分の記憶を掘り起こしながら、その車の周

辺に目を向けていると車の陰からヒョッコリ

と人か現れた。


「………え?……えええっ!!」


公園の植込みや樹木で見えにくかったが、よ

く見ればそれは俺の〖運命の人〗で間違いは

ない。


突然な事に驚いている間に、その人はリアド

アを開け車に乗り込んだ。

遠くから聞こえるバンっとドアの閉まる音で

ハッと我に返った。


「ま、待って!」


俺は叫ぶと同時に走り出す。

これは千載一遇のチャンス、逃したら本当に

後がない気がする。


「待って下さい!待って!!」


これまでの人生で一番の大声と猛進、その勢

いに通行人はたじろぎ横に避けるけれど肝心

な彼には届いてはいない。

俺の到着を前に車は発進し、どんどんと加速

して行った。


車が停まっていた場所に辿り着いた時には、

車体が小さく見える程遠くへと移動した後…

俺は荒い息を吐きながら消えていく車を見て

いることしかできなかった。


………二度再会を果たせなかった俺には、もう

次の機会は無いのかもしれない。


胸の中に絶望感が渦巻いた。






櫻井の心は小舟のように

揺れ動く……


エースをねらえ!調w