お山の妄想のお話です。
智
合コンが始まった。
参加者は男女五人づつの10人で長テーブルに
向かい合うように座っている。
女の子達は横山の取引先の秘書課の方々らし
く、皆平均以上の容姿で華がある。
男共は俺の会社の奴らみたいだ、横山と忠以
外の二人は『見たことがある』程度でよくは
知らないけど関西弁を話す男前達だった。
最初に軽い自己紹介をしてから、会食が始ま
り酒が進むにつれ皆が席を移動していった。
でも、俺と忠はずっと並んだままで目の前に
来る女の子達と会話をしたんだ。
あまり話さない俺を忠がサポート……?してく
れている感じ。
何だか迷惑をかけているようで、『俺は大丈
夫だから、気になる娘の所に行ってきなよ』
と言うと『大ちゃんが食虫植物に食べられそ
うで心配なん。やから俺が守らんと』と耳打
ちしてきた。
目の前の綺麗な娘達を食虫植物扱い……
確かに甘い香りに誘われて近付けばぱっくり
やられてしまうかもしれない。
経験豊富の忠は色々知っていて、短い時間で
は内面まで知る事が出来ないから用心しろっ
て警告かな?
でもこの娘達とどうこうなるつもりはないか
ら、守ってもらわなくても平気だよ。
そう思うのだけど忠と話すのが楽しいから、
そのまま並んでいた。
「大倉さんの好みのタイプってどんな感じの
子ですか?」
席を移動してきた女の子が開口一番に訊ねた
彼女のターゲットは忠なのだろう、グイグイ
と迫ってくる。
「そうやな~、おとなしい……一緒にいて癒さ
れる人かな」
「じゃあ、綺麗系と可愛い系ならどっち?」
「可愛い系やな」
「ええ~っ、私はダメってこと~?」
「ははは、そうなるね~」
にこやかに躱す忠……でもきっちりとお断りを
入れている所は流石だ。
「大野さんは?」
しかし彼女はめげること無く今度は俺に話を
振ってきた。まさかのターゲット変え、より
によってそれが俺??
「……綺麗で可愛い系…かな」
訊かれて直ぐに頭に浮かんだのは櫻井くん。
でもこの合コンの席で『イケメン』なんて単
語は出せないだろ。
だから差障りなく答えたんだ、でも彼の顔が
綺麗でたまに見せる表情が可愛いのは本当だ
から嘘はついてない。
「も~、大野さんの欲張り~。それじゃ私は
お呼びじゃないじゃな~い」
俺達に脈がないと分かったのか彼女はまた移
動して行った。
逞しい娘だと思い見送っていると、今度は忠
が訊いてきた。
「大ちゃんは綺麗で可愛いこが良いの?」
「………うん、まあ」
「この会ではそんな子おらんよね?」
「…いないね」
「もしかして、誰かと付き合っとる?」
「俺は恋人がいるのに合コンに参加するよう
なクズじゃないぞ」
「ほな、片思いの相手とか?」
「………うん、片思い。もうフラれたも同然だ
けど」
「……それ、どういうこと?」
なぜか忠は真剣な顔で詰め寄ってきて、俺は
洗いざらい話なす羽目になった。
勿論性別とか名前なんかは伏せたさ。
相手は同僚でその子も俺に好意を持っている
と思っていたのに、それは俺の勘違いであっ
ちには他に想っている人がいたと。
「寝ぼけて、名前を呼んだん?」
「うん、思いの丈が溢れたような凄く優しい
声でね」
「………ふうん」
あの名前が忘れられない、櫻井くんに想われ
るその人はいったい誰なのか。
でも、突き止めようとも思わないさ、だって
櫻井くんが好きになる人だぞ?俺なんか足元
にも及ばない素敵な人に違いない。
そんな人と自分を比べても落ち込みが更に増
すだけだ。
話を聞いた忠は暫く考えてから言った。
「それ、ほんまに人なん?」
「えっ?どういう?」
「ペットやないの?その人に訊いてみた?」
「訊いてない、訊けねえよ……」
「訊かなあかんよ、大事な事やん」
「そうだけど、そんな度胸ないし」
わざわざ自分を虐げることはしないだろ、誰
だって傷は最小限に抑えたいものだし。
「でもそれが勘違いやったら?相手は大ちゃ
んが好きなのに、自分から離れて行くことに
なるんよ?」
「………… 」
確かにそうかもしれない。
横山との話の流れで〖領〗というのが櫻井く
んの〖片思いの相手〗と思い違いをしたのか
も……
「訊いて損はないよ」
「……わかるけどさ、本当に片思いの相手の名
前だったら目茶苦茶落ち込むよ」
「間違いで恋が破れるのと、どっちの方が傷
が深いんやろな?」
「…………」
そんなの考えるまでもない、でもさ…
「少し勇気を出すだけやん?」
「でも怖いよ」
「悔いが残るよりええやん。もしそれが本当
に片思いの人の名前やったら俺が全力で慰め
るから、頑張ってみよ?」
「……うん」
結構年下の忠に諭され励まされて、心を決め
た。櫻井くんに訊いて真相を確めよう。
その方が後悔するより何倍も良いし、それで
失恋が決定しても力になってくれる人もいる
「お前本当に慰めてくれるの?」
「勿論!」
「でもすぐに関西に戻るんだろ?」
「あっ!そうや!でも大ちゃんのためならす
ぐ来るし」
「ふふ、信用出来ね」
「マジやから!」
焦る忠が可笑しくて久し振りに笑った。
「ありがとな、忠に勇気をもらった」
「ええんよ、俺の片思いは実らんかったから
大ちゃんにはそんな思いして欲しくなかった
んよ」
「え?そうなの?」
「…うん。凄く好きでアタックしたけど、全
然気付いてもらえんかったわ」
「告白しなかったの?」
「せえへん。してもフラれるの分かってたし
だったら気まずい思いをするより今の関係で
ええと思うた」
「今の俺と同じじゃん」
「ちゃうよ、大ちゃんは相手に脈があると感
じた事があるんやろ?俺は全然脈なんて感じ
ひんかったしな、やったら友達のままで仲良
くするのが賢い選択やん」
何でもないように自分の失恋を話すけど、き
っと辛かっただろうな。
「その時力になってやれなくて、ごめんな」
「えっ??」
「俺はこんなに励ましてもらったのに…」
「ははは、もう過ぎたことやし」
「でもさ~」
「ええの!それに大ちゃんはずっと友達でい
てくれるんやろ?」
「んん??そりゃ忠とはずっと友達でいるつ
もりだけど?」
「それでええの。それが本望や」
「 ??? 」
よく分からない会話だけれど、忠はもう割り
切っているみたいだ。
想いを告げるより友達のまま、それも有りな
のかな。
LoveからAffectionに変わる想い
情熱的で流動的な〖愛〗から温和で永続的な
優しい〖愛情〗へと変わっていく…
櫻井くんに完璧に失恋したとしても、堪えて
いたら友達として永くいられるのかもしれな
いな。
翔
なんてこった!
乗り込んだ電車がまさかの運転見合せ、しか
も駅と駅の中間地点で止まってしまってどう
にも身動きがとれない。
その間にも時間は刻々と過ぎ、合コン開始時
間をとっくに過ぎてしまった。
ヤバい、早くしないと大野さんが……
気は急くけれどどうにもならない。
窓から飛び降りて線路を走りたいという気持
ちを抑え、じっと運転再開まで待った。
漸く電車が走り目的の店に辿り着いたのは、
合コンが始まって二時間は過ぎていた。
大野さんは大丈夫か?まさかお持ち帰りされ
てないよな?!最悪の事態が頭を過るが、何
とか平常心に戻し店に入った。
店員に横山の名前を告げれば『こちらです』
と直ぐに案内をしてくれる。
合コンの会場につき数人の男女がいる中、最
初に目に入ったのは黒いサマーニットを着た
大野さんだ。
会社でのスーツ姿しか見たことのない俺には
私服は新鮮で、開いている胸元に目が釘付け
になった。
「おっ?!櫻井君どうしたん?!」
俺に気づいた横山が声をかける、それにはた
と我に返った。
そして大野さんに馴れ馴れしく話し掛けてい
る男を確認する。
誰だ?
見たことがある奴だ……
記憶を手繰り、そいつが以前社にいた事を思
い出す。確か大倉とかいう奴。
大野さんはそいつと話し込み俺に気付いてい
ない……
顔を近付け楽しそうに話す姿は親密そのもの
で、とても不愉快な気分になった。
「……大野さん!」
我慢出来ずに呼び掛けると、大野さんはこち
らを向き驚いた表情をした。
「櫻井くん?どうして……?」
何故ここにいるのか疑問に思うのは尤もだ。
『あなたを拐いに』と答えられればどんなに
いいか。でもそれは出来ない、何事にも順序
がある…
まず最初にやることは、大倉をあの人から離
すこと。それから誤解を解き、場所を移して
告白をする流れに持って行きたい。
誰にも渡したくないから、もう躊躇などして
いられないんだ…
大阪弁がわかりません…
一応『関西弁変換』サイトで調べましたが
何か違う感じです
因に関ジャニ∞では安田くんが好き♡