お山の妄想のお話です。
揃ってバーを出て夜の街を歩く。
行き先はわからないけれど、彼は俺の手を引
き進む。
この後何をするのか考えれば行き先など知れ
ている。きっと裏路地に入ってその手のホテ
ルに入るのだろうと思っていたが、彼はタク
シーを止めそれに乗り込むと運転手に行き先
を告げた。
到着したのは都市の夜景が綺麗に見えると謳
ったシティホテルだ。
まさかこんな高級な場所に来るなんて…
入るのはラブホテルだろうと考えていた俺は
困惑した。
「まさか、ここに?」
「そう、ここは俺の定宿だからね」
こんな宿泊費が高そうなホテルが定宿か……
どうやら彼は俺とは違い高所得者らしい、
一流企業のエリートか?それとも起業主?
上品な物腰だから上流階級の家柄なのかもし
れないな。
俺とは住む世界が違う人、でも一夜限りの関
係だから身分は関係ない。
どんな場所だってやることは変わりはしない
のだから。
連れられて入ったのは上層階の部屋。
上品な調度品と大きなベット、奥には美しい
夜景が広がっていた。
「凄い…」
「綺麗な夜景でしょ?」
「そうだな、とても綺麗だ…」
ライトアップされた電波塔や大きな橋、その
向こうは光がない…多分海だな。
夜景も綺麗だけれど昼間のパノラマも素晴ら
しいのだろう。
俺にそれを見る機会は多分ないけれど…
one night love
壁一面の窓の前に置かれたソファーに並んで
座り、少しの間光と闇のコントラストを楽し
んだ。
非日常の景色を飽くことなく見つめていると
彼の手がそっと腿の上に置かれる。
「気に入ってくれたのは嬉しいけれど、そろ
そろ次に移りませんか?」
するりと腿を撫でるのは指輪のない左手…
外させた俺が何時までも夜景を眺めているか
ら焦れたのかな。
「わかってるけどさ、あんた凄い所を定宿に
してるんだな。ここに今まで何人女の子を連
れて来たんだよ?」
「心外だな、この部屋に誰かと一緒に入った
のは貴方が初めてだよ」
「ふふ、本当かよ。まあ、別に構わないけど
な」
どうせ一夜限りの関係だからプライベートに
深く関わるつもりはないし、彼が遊び人だっ
た方が後腐れなく都合が良い。
「それじゃあ、始めていいかな?俺があなた
を抱くでいいんだよね」
「あんたの好きにすればいいよ」
「では、貴方を頂きます。必ず満足させるよ
でもその前に名前を教えてくれる?」
「……名前?そんなのどうでもいいじゃん」
「良くないよ、名前を呼びながら貴方を愛し
たいんだ。それにずっとあんたって呼ばれる
のも嫌だから俺の名も教えるし」
彼は真面目な顔をしてそう訴えてくる。
お互い一夜限りだと割り切ってここまで来た
のだから、名前なんて知らない方が良いと思
うのだが…
でも確かに『貴方』と『あんた』ではムード
がないな。
唯物的だがこの夜を楽しむためには必要かも
しれない。でも本名を教える程俺は愚者でも
ないんだ。
「じゃあ、Oって呼んで」
「O?アルファベットの?」
「そう」
「今一つムードに欠けるけど…」
「嫌なら『貴方』のままで」
「わかりました、Oさんって呼ぶよ」
「うん。あんたは?」
「では、貴方に習って俺は、Sで」
「Sさん?」
「……何だか違うな。S君って言ってみて」
「Sくん?」
「ああ、この方がしっくり来る。S君でお願
いします」
S、これは彼のイニシャルだ。
あのバーで呼ばれていた名字の頭文字がSだ
った、俺も名字のイニシャルだけど『オオさん』だとほぼ実名だな。
彼は知らないだろうけどね。
「ではOさん、口づけをしてもかまいません
か?」
おどけながら顔を近付けてくるのを手で制止
して、俺はソファーから腰を上げた。
「待って、シャワーが先だろ」
「焦らすんだね」
「そうじゃない、綺麗な身体で抱き合いたい
だけ。Sくんだってその方がいいだろ?」
「俺はどちらでも構わないけど、このままな
らOさん自身の香りを楽しめるし」
「……Sくんって意外とアレなんだな」
「アレって?」
「変態っぽい」
「ふふふ、そうかな?よく言われるよ」
誰かを思い浮かべたのかな、優しい笑顔。
きっと指輪の相手だろう…
俺は罪悪感と淋しさを少しだけ感じた。
お互いシャワーを浴びた後、大きなベッドで
抱き合った。
彼は優しく、それでいて情熱的に俺を扱う。
恋人とは違う愛撫に背徳感を持ったが、いつ
しかそれも忘れて夢中になっていく。
ふっくらとした唇が俺の身体に触れ、指先が
あらゆる場所をまさぐる。
それが最奥の蕾に到達した時、彼はぴたりと
動きを止めた。
「……ここ、どうしてこんなに軟らかいの?」
トントンとノックされるそこは、すぐにでも
その指を呑み込んでしまえるほど解れている
「もしかして、自分で準備した?」
二本の指の先を少しだけ埋め込み、縁を広げ
るように動かされる。
「こういうの、いつも自分でするの?」
彼の口調がきつくなり不機嫌さを露にした。
どうやら俺が自分で受け入れるための準備を
したのが不服らしい。
「……しない」
普段なら俺もそんな事はしない、いつも恋人
が苦痛になるほど丁寧に解してくれるから。
でも今日は勝手が違う、だから相手の負担に
ならずスムーズに結合できるように自分でし
たんだ。
「今日に限ってしたの?どうして?」
「Sくんが面倒かと思って」
「そんなことない、俺が中を慣らしたかったな…」
悔しげに言いながらも指をズブズブと抜き差
しし始める、浅く深く、時に一番敏感な所を
わざと掠るように…
それは熱を持ち更なる強い刺激を欲する身体
にはもどかしい動きだった。
「もう、いいだろっ!早くきて」
焦らされて頭がおかしくなったのか
恋人との閨事では出ないような淫らな言葉が
口をつく。
一瞬はしたないと恥ずかしく思ったが、どう
せ今晩限りの関係なのだから気にすることも
ないと開き直った。
ただ感じるままに残り少ない時間を過ごそう
と思ったんだ。
「そんなに求められるなんて嬉しいな。
では、O様の仰せのままに…」
彼は嬉しそうに笑うと、その粛粛とした口調
とは裏腹な乱暴さで俺の脚を広げ胸につくま
で折り曲げるとそのまま一気に奥まで突き入
れた。
「あ!ああっ!」
いきなりの前立腺への強い刺激に大きな嬌声
を上げてしまう。
ぶるぶると快感に身体か震え、勃ち上がった
ものからは体液が溢れ出る。
「ごめんね、少し乱暴だったかな?」
優しげな言葉使いだが激しい動きは止まるこ
とはなく、俺は声も出なくなるほど突き上げ
られ続けた。
ゆゆさん、二話で終わらんかった…
次で終わりたい(希望)