お山の妄想のお話です。





月曜日『捨て身で元カノを救った』と噂され

て、翔くんはヒーローだった。


『きっとまだ彼女に想いが残っているのよ』

『別れても、体を張って助けるんですもの。

櫻井君はまだその子が好きなのね』

『茂部さんはそんなに素敵な人なの?あの生

徒会長にそこまで想われるなんて、凄く羨ま

しいわ』


そして、茂部はヒロインになっていた。

誰もが『生徒会長に助けられた元彼女』のこ

とを噂して、どんな子なのかと興味を持った


はっきり言うと、目立ちたいという茂部の思

惑通りになっていたんだ。

噂はどんどん尾ひれが付いて、数日後にはと

うとう『生徒会長がもう一度交際を申し込んだ』となり『櫻井君と茂部さんはよりを戻した』なんて発展していた。


そんな噂が流れているのに翔くんはそれを否

定するでもなく、ただ無言を貫いている。

普段の翔くんがそんな虚言を聞いたら多分怒

りまくっているはずだけど、今はただ沈黙し

て事を静観しているみたいだ。


でもね、二人でいる時に『学校での噂は気に

しないでね、俺が好きなのはあなたなんだか

ら』って言ってくるんだ。

おいらが『そんなの知ってるよ』って返せば

蕩けるように甘い笑顔を見せる。


でもその後に『上げてから奈落に突き落とす

って、ショックは倍増だろうね』なんて訳の

わからない事を呟くんだ。

おいらは返答に困って黙るんだけど、翔くん

はやけに楽し気だったりして…


きっと今が茂部への報復の序章なんだろう、

いったい何をするつもりなのか……




あの出来事の後からおかしな噂、俺にとって

は迷惑でしかない噂が学校中に広まっている

それを流しているのは茂部で、『どんな人物

なのか』と興味を持たれ知名度が上がってい

るんだ。


きっとこの機会にマドンナの座を荒井先輩か

ら奪うつもりでいるのだろう。

まったく、己を知らないというのはなんて滑

稽なことなのだろうか…

あいつがどんなに頑張った所で先輩の足元に

も及びはしないのに、それがわからずに浮か

れているなんて。


その傲慢さを叩き潰す。

プライドを引き裂いて再起不能にしてやる、

それは思いの外簡単に出来るのだから。


自分の流した嘘で都合の良い噂がたって、ち

やほやされる。一躍時の人だけど、皆だって

馬鹿じゃないから間違いに気付くんだよ。

そうなった時、自尊心を維持できるかな?



昼休み、俺は生徒会からの話をするために放

送室にいた。

部活動への追加予算の報告、それから迫る文

化祭についてだ。


予算についてはどの部も了承済みなので放送

を聞いている皆も気にはしない、しかし文化

祭については確りと聞かなくてはいけない。

今年出せる模擬店の数や種類、予算などを全

校に知らせる。それを聞いて各クラスで催し

物を決め申請しなくてはいけないからだ。


「以上、生徒会からでした」

「生徒会長ありがとうございました」

「あ、すみません。俺から少し話をさせて下

さい」


横で控えていた放送部員が放送を終わろうと

した時に、俺は私事を伝えるためにそれを止

めた。必ず皆が聞いている事を見越してだ。


「先週俺は頭を打ち救急車で運ばれましたが

検査の結果異常無しでした。皆には迷惑と心

配をかけてしまい申し訳なく思っていますが

その時のことで話しておきたいことがありま

す。今、色々と噂が飛び交っていますがそれ

は事実と異なることが多くあります。

まず、階段を踏み外した生徒を助けたのは俺

ではありません。助けた人は別にいて、その

際怪我までしたのにそれをひけらかしたりし

ない謙虚な人です。助けられた生徒は恐怖か

ら混乱を起こして俺が助けたのだと勘違いし

たのだと思いますが、事実ではないのでここ

で訂正します」

「え?ヒーローは生徒会長じゃないってこと

ですか?」


噂とは違うと、放送部員が突っ込んでくる。

彼の疑問はこの放送を聞いている皆と共通だ

ろう、問いに答えることで俺も自然に間違い

を強調出来る。これは良い状況だ。


「違います、あの場にいた人は誰が助けたの

か知っていますから」

「そうなんですか、生徒会長が助けたのでは

ないんですね……」

「はい、だから今流れている噂は全て真実で

はありません」

「……それって、付き合っていた人とまた…」

「ありえません」

「そ、そうなんですか……では、皆が話してい

ることは出鱈目ってことなんですね」

「そう言うことです」


これで茂部が言ったことが全部嘘で、今出回

っている噂が事実無根の作り話だということ

を周知することができただろう。


「では、助けたのは誰なんですか?」


次に出るのはこの疑問とあと一つなのは推測

していた。

しかし、それらには正直に答えられない。


「慎ましやかな人で騒がれるのを嫌うので、

俺からは誰か言えません」


智君です、なんて言えるわけがない。

それを言えば、どういった人の集まりでどん

な状況だったんだ?なんていらない詮索をさ

れてしまう。

俺はもうあの人を面倒に巻き込みたくない、

だからこれから始まる報復も俺個人で進めて

いくんだ。


「そうなんですか。真のヒーローは謎ってこ

となんですね」

「はい、その場にいた人達にも言わないよう

にお願いしています。だから詮索は止めて下

さい」

「は、はい。すみません」


強めの口調で告げると放送部員を怯えさせて

しまった。そんなつもりはなかったがどうや

ら友人から『三秒でキレる』と言われる地が

出てしまったようだ。


「あの、もう一つだけ訊いてもいいですか」


怯えながらも勇気ある彼はもう一つ質問をぶ

つけてきた。


「なんですか?」

「どうして生徒会長は怪我を…」


茂部を助けていないなら、『どうして救急車

で運ばれるような事態になったのか』

これはこの放送を聞いている皆も疑問に思っ

ているはずだ。


「それは、大切な人を抱きしめたから」


これに関しては詳しくは話せない、けれど本

当のことを言いたい。


「……え?」


俺の言葉に放送部員君はきょとんとしている

まあ、意味不明だろうな。


「大切な人が傷つかないようにしたら、無様

に転んでしまった。そんなところです」


抽象的かもしれないが話せるのはこの程度、

後は皆は知らなくていいことだ。

俺と智君さえ解っていればいい。


「はあ、そうですか」


彼は不明瞭な言葉に釈然としていないようだが、親切に解説する気はない。

こうなることは目に見えていたから、話を逸

らすためにここで一つ用意していたものを発

表することにした。


「ああ、言い忘れていました。今年の文化祭

で生徒会主催のミスコンを行います。自薦他

薦は問いません、我こそ女王に相応しいと思

う方は是非エントリーしてください」


ミスコン、今までこの学校でありそうでなか

った催しだ。

これは俺が独断で決めた生徒会のイベントだ

が、盛り上がることは間違いないだろうから

反対はされないはずだ。


マドンナと称される荒井先輩がいるのでエン

トリーする女子は少ないかもしれないな。

でも俺からしたら、あいつさえエントリーす

ればそれでいいんだ。


あいつ、茂部に自分の人気がどれ程のものか

理解させ、自惚れ思い上がった頭を冷やさせ

る絶好の機会になる。


俺の話から嘘がばれて茂部の醜悪な人間性が

露呈される、それでいて票を入れる者が何人

いるか。


お前が思っている程皆は馬鹿じゃないんだ、

きっと票なんて集まらないさ。


果たして結果を見てまだ傲っていられるか?

その無駄に高いプライドは木っ端微塵に砕け

散るだろう。


『蛸の糞で頭に上がる』


自分は思い上がって得意になっているが、他

人からはいやしめられていることのたとえ。

茂部にぴったりなことわざだな


これは俺からの報復

お前は身の程を知り過去を悔い改めねばなら

ない。

本当はもっと厳しい罰を与えたいけれど、学

生に出来ることはこれが限界。


それにやりすぎれば、優しいあの人が筋違い

にも心を痛めてしまうかもしれないからな。





翔くんの企画したミスコンには10人程エント

リーしたみたいだ。

もちろん菜々緒ちゃんもエントリーしたよ。

最初は凄く嫌がっていたけど、翔くんと何か

話した後は目茶苦茶やる気になっていた。


茂部もエントリーしたみたい、自薦か他薦か

はわからないけどね。


おいらはどうして翔くんがミスコンなんてや

ろうと思ったのかわからない。

けど、多分あの子に復讐をするつもりなんだ

ろうな……


それが自分をダシにされた事に対する怒りな

らいいけど、おいらに関わる事なら止めて欲

しいのが正直な気持ちだった。


おいらのために翔くんが手を汚すのが嫌なん

だ、翔くんには清廉潔白な人であって欲しい

から。

この先の未来きっとリーダーシップを執る人

になる、だから自分の感情だけで行動したら

ダメなんだ。

それがおいらのせいなら、関係を考え直さな

きゃいけなくなるよ。




「………って思うんだけど、どう思う?」

「いや、待ってよ智君。関係を考え直すって

なんなの?」

「だって、おいらのために翔くんが嫌な役目

を担うのが我慢できねえんだもの」

「それで?」

「おいらがぼんやりしてるから、変な事に巻

き込まれるんだろ。その度に翔くんが報復と

かしたら嫌じゃん。だったら迷惑かけないよ

うに離れた方が……」

「待って、待って!どうしてそうなっちゃう

の?俺は迷惑なんて思ってないし、それに大

事なものを傷付けられたら誰でも怒るでしょ

俺はあなたがとっても大切なの、だから報復

は当たり前だよ!」

「それが嫌なんだよ…」

「これは智君のためじゃない、自分のためな

んだよ。だからあなたは気にしないで」

「……でもさ」

「智君が気にするなら今回だけにするよ…」

「本当?」

「うん。これからはあなたが傷付かないよう

に俺が絶対に護るから、もうこんなことはな

いよ」

「いや、護ってくれなくてもいい自分でなん

とかするし」

「嫌だ、俺に護らせて」

「翔くんの負担になりたくねえんだ」

「負担なんかじゃないよ、どうしてこの男心

をわかってくれないの!愛する者を護るのは

男の本能なんだよ!」

「おいらだって男だよ!護られるなんて変だ

ろ!それとも女の子みたいになれって言うの

か?」

「もうっ!そんなこと言ってないでしょ」

「おいらだって翔くんを護りたいんだ…」


護られるだけなんて嫌だ、大切なものを護り

たいのは一緒なんだよ。

そうおいらが言うと翔くんはふふっと嬉しそ

うに笑った。


「俺は智君を護る、智君は俺を護る。そんな

の当たり前だろ?俺達は愛し合っているし、

ずっと肩を並べて歩いていくんだから」


そうだね

どちらかに寄りかかって進むんじゃない、お

互いに支え合っていくんだもの。


「うん、そうだね」

「納得してくれた?」

「した」


よかった、って大好きな綺麗な顔が微笑む。

おいら、翔くんのその笑顔を必ず護っていく

からね。







キリよく40で終わるはずが

終わらんばい!

眠くて意味不の文章やし~