お山の妄想のお話です。(*T^T)





あの後は大変だった。


大きな音と騒ぎを聞き渡海先生が駆けつけ、

床に横たわり意識の無い翔くんの容態を素早

く確かめると救急車を呼んだんだ。


翔くんはストレッチャーで救急車へ、渡海先

生は付き添いで乗り込んだ。

おいらも翔くんの側にいたかったけれど、処

置の邪魔になるからと我慢していた。


心配で心配で外から救急車の中を覗いている

と、渡海先生がおいらも乗れと言う。

そんなに大きな怪我もしてないのにと躊躇っ

ていたら、先生は『お前も怪我をしているだ

ろう?一緒に行けば面倒が一回ですむ』って

理由をくれた。


だからおいらも一緒に乗ってこの病気まで来

て、翔くんは検査、おいらも怪我の診察をし

てもらったんだ。


酷い怪我じゃないおいらは待たされて、その

間に翔くんの検査は終わったみたい。

わざわざ渡海先生が来てくれて、検査の結果

翔くんに異常は見つからなかったと教えてく

れた。

それを聞いてホッとして緊張が解けて、また

メエメエ泣いちゃったよ。





先生に教えてもらった病室、ベットを囲うカ

ーテンの隙間から中を覗くと眠る翔くんが見

えた。


静かに中に入ってベットの横にあった椅子に

座り翔くんを見つめる。

顔色も良く呼吸も整っている、なにより寝顔

が穏やかだったので安心した。


翔くんの寝顔……久しぶりに見た

小さい頃はお昼寝で、寝相の悪い翔くんに蹴

られて何回も起こされたな。

ムッとして翔くんを見れば幸せそうに眠って

いる。おいらはそんな翔くんに怒りも失せて

またぴったりとくっついて眠るんだ。


小さい頃から翔くんが大好きだった。

それは遊び仲間として、楽しかったから

今も、翔くんが好き。

子供の頃の好きとは違うけど……


もう屈託無く『好き』なんて言えないな

今の『好き』は色々な差し障りが出るだろう

このまま友人関係でいたいなら言ったら駄目

なんだ、けど……


布団から出ている翔くんの手に指先で触れて

みた。あったかくて、生きてるんだって安心

する。

……階段で倒れた翔くんは血の気が引いて青白

く冷たい手だったから。


ぶるりと身体が震える。

思い出すだけで怖くなるんだ、おいら翔くん

が死んじゃうじゃないかと不安でたまらなか

った。



……おいらね、翔くんは大丈夫だと聞いた後か

らずっと考えていたんだよ。


どんな形であれ別れは必ず来る、その時おい

らは後悔しないだろうかって。


この想いを言葉にしたら、きっと気持ち悪が

られて距離をおかれ今までみたいに笑い合う

こともなくなるだろう。

でも、言わなければずっと苦しい時間が続い

て関係が綻び結局離れることになる。


どっちにしても、この想いがある限りうまく

はいかないんだ。

だったら言ってしまった方がいい。

嫌われて会ってもらえなくなっても、どこか

で一瞬でも元気な姿が見れたらそれで満足だよ。


このまま告げずにいて、もし翔くんが泉下の

人になってしまったらそんな小さな喜びもな

くなってしまう。

それにおいらは言えなかったことを必ず後悔

する。

そしてずっとずっと届くことのない想いを抱

え続けるんだ、自分が消えるその時まで


今回の事は本当に怖かった。

些細なことで消えてしまう火があることを感

じた、それは自分も同じなんだ。


そして自分に問うてみた

おいらが死ぬ時、悔いは残らない?

いい人生だったと笑って逝ける?

思い残すことはないって胸を張れるの?

……答えは悔恨ばかりだよ

とても心安らかになんて逝けない。


だから翔くんには迷惑だろうけど、やっぱり

言おうと思う。

報われない想いでも告げて、後の事はその時

に考えればいい。

それにきっぱりと断られた方が諦めがついて

次に進めるはずだ。

……凄く辛いとは思うけどね。


おいらは決心したよ、告白するって。

気味の悪い思いをさせてしまうけど、想いを

聞いて手酷く振って欲しい。

そしたらおいら諦めて、別の道を進んでいけ

るさ。



でもこの覚悟を上手く言えるか自信がないから、ちょっと練習しておこう。


今までの触れていた翔くんの手を両手で包み

おいらは小さな声で呟いた


「翔くん、好きだよ」





いつの間にか眠っていたけれど、誰かの気配

がして覚醒した。

違う、智君の気配だから起きたんだ。


でもすぐに目を開けることは出来なかった。

だって恥ずかしいだろ

落ちて来たのを上手く受け止められずにぶっ

倒れて気絶するなんて、呆れられているかも

しれない。

自分が情けなくて智君の顔が見れないよ。


だから少し眠ったふりをしようと思う、タイ

ミングを図って目覚めたことにするんだ。

意気地無し?何とでも言え。


智君の気配を探りつつタイミングを図ってい

ると、温かいものが指にふれた。


え?これ、智君の指じゃない?!

どうして?まだ心配させているのか?

だとしたらさっさと起きて安心させてあげな

くちゃ…


でも智君が俺の手をゆっくりと優しく撫でる

動きを止めるのが惜しくて、すぐに行動に移

せない。だから悪いと思いつつ暫く指の動き

を堪能していた。


近くに智君がいて、俺を気遣い優しく手を撫

でてくれる……

気持ちが良くてまた眠りに落ちそうになる、

その時小さな呟きが聞こえたんた。


「翔くん、好きだよ」


俺は耳を疑った、

あたかも信じられなかった、これは夢?

俺はもう眠っていて浅はかな願望が夢となっ

て現れたのか?


でも、だとしたら俺の手を包み込む温かさは

なんだ?もしかして、これは現実なのか?


頭の中が大混乱している中、再び智君の淋し

げな呟きが聞こえた


「好きになってごめんね…」


どうして!どうして謝るの!!

あなたに好きになってもらって、俺が迷惑す

るとでも思っている?

違う、違うよ智君!そんなことはないんだ!


「ごめんなんて言わないで!」


俺は身体の痛みも忘れて起き上がり、包まれ

た自分の手ごと智君の手を握り締めた。


「うわっ!翔くん!」


飛び起きた俺に驚き、身体を仰け反らせる智

君。しかし離れる事を許さずに握った手に力

を込めて引き寄せた。


「好きだと言ってくれたのに、何故謝るの?

俺は智君に好きと言われて凄く嬉しいよ」

「……翔くんは、おいらの『好き』の意味がわ

かってないからそう言えるんだ。知ってしま

ったらきっと気持ち悪いと思うよ」


智君は眉を寄せ俺から身体を離そうとする。

俺はそれを阻止してぐっと細い身体を抱き込

んだ。


「離せよ!おいらの好きは友達とか幼馴染み

の『好き』じゃねえんだぞ!」


どうにか束縛を解こうと暴れるのを抑え込み

俺も本心を明かした。


「俺だって馴染みや友人としてではない気持

ちであんたが好きだよ!俺が智君を想う『好き』と同じなら気持ち悪くなんてない、むし

ろ凄く嬉しいよ!」


あなたの『好き』という言葉の真意、それは

俺と同じでしょ?

長い間近くにいたから、智君の言いたい言葉

がわかるよ。あなただってわかるでしょ?

いま、俺の想いを感じてくれているよね?


智君の動きはピタリと止まった。

そして腕の中から『本当に?』と自信の無い

声が聞こえた。


「本当だよ、俺はあなたが好き。これは友情

とか親愛とかじゃない。恋愛の好きだ、智君

も同じだろ?」


俺は腕の中の智君に尋ねた、お互いの気持ち

を確認したかったんだ。

でも智君は答えてくれない…

どうして?違ったの?そんな訳ないよね


「……同じ、だけど…」


段々と不安になってきた頃に、やっと返事を

してくれた。同じ気持ちと聞けて嬉しい、

でも『だけど』って?


「だけど、何?」

「翔くんは……たぶん勘違いしてるよ。茂部が

言ってた、おいらの世話を焼きすぎて庇護欲

を恋愛感情と取り違えたんだって。きっとそ

うなんだよ。じゃなきゃ、おいらのことなん

か好きになるわけないもの」


茂部……またあいつか…余計なことを…

沸き上がる怒りを堪えながら、残念だけれど

智君の身体を離した。

そして見つめ合える距離をとりって、俺の偽

りの無い想いを話した。


「俺は智君がずっと好きだったんだ、ただそ

れを勘違いしていた。茂部の言ったこととは

逆で恋愛感情を庇護欲や恩愛と違えていたん

だよ」

「え、どういう…」

「智君が俺を避けて相葉の所に泊まった時に

間違いに気付いたんだ。智君を盗られたくな

いって思った。あの夜は心配で苛々して眠れ

なかったよ。その後に俺のせいで嫌がらせを

受けているのを知ったんだ、俺のためにあな

たが傷つくなんて嫌で、この想いも迷惑にし

かならないと思った。

だから、今までの関係を保とうと幼馴染みの

ままでいようと頑張っていたんだ」

「……うそ…」

「嘘なんかじゃない、これは俺の本当の気持

ちなんだよ!」

「違うよ、翔くんを疑っているんじゃない。

ただ驚いたんだよ……だって、おいらも一緒な

んだもの」

「一緒って?」

「おいらもずっと好きだったんだ。翔くんに

彼女が出来て初めて自分の気持ちに気が付い

たんだよ。でも人気者の翔くんにはおいらな

んてお呼びじゃないだろうし、おいらのせい

で迷惑もかけているから、気持ちを隠したま

ま距離を置こうと思ったんだ。でもね、翔く

んがおいらを庇って倒れたのを見て気持ちが

変わったんだ、言わないで後悔するより言っ

て後悔した方がいいって。さっきのは嫌われ

るのが前提の言葉がしっかり言えるか練習し

てたんだ、それなのに翔くんがいきなり飛び

起きるから…」


智君は恥ずかしそうに俯いた。


「……練習だったの?」

「うん、でも、翔くんの気持ちが聞けてうれ

しいよ」


練習…告白の練習か……


「ちょっと待って、練習ならまだ告白にはな

らないよね?」

「えっ?」


練習なら本当の告白にはならない、俺はそん

な屁理屈を押し通すつもりだ。

だって告白は俺がしたい。

決してマウントを取りたいわけじゃないけど

大切な気持ちを先に伝えたいんだ。


「今からあなたに告白します。もし俺と同じ

気持ちなら返事を下さい」

「ええ~、今もう話したじゃん!嫌だよ、恥

ずかしい」

「あんなんじゃ駄目だよ。告白は神聖なもの

なんだから、きっちり確かめ合わなきゃ!」

「……恥じぃ」


恥じらう智君の両手を握り、愛の言葉を告げ

た。


「智君が好きです、俺と付き合って下さい」

「………………はい


はにかみながらも返事をくれる、そんな姿が

可愛くて抱きしめようとした。

しかし智君はそれを身を振って避けると、さ

っきの俺のように両手をギュッと握ってきた

そして、今までの見たこともないようなキリ

ッと漢らしい顔で言ったんだ。


「翔、お前が好きだ。俺のものになれ」


ぎゃーーーーーーーーーーっっ!!

カッコ良くて、心の中で絶唱した。


「……………………………………は、はい


年上の威厳か、

智君の漢らしい態度に心臓を撃ち抜かれた俺

は、俯き紅潮した顔を隠しながら智君と同様

に小さな声で返事をした。


「しょう…」


恥じらう俺を抱こうとしたのか、両腕を広げ

た智君の動きがピタリと止まる。

どうしたのかと、顔を見ると眉間に皺が寄っ

ていた。


「どうしたの?」

「………痛え」

「…………あっ!肋骨!」


智君が肋骨を折っていた事を思い出した。


「ご、ごめん!俺が引っ張ったり抱きしめた

りしたから!」

「違うよ、今急に痛くなったの……緊張や不安

がなくなったからかな」


ほにゃりと力の抜けたいつもの笑顔。

漢らしいあなたもドキドキするけど、やっぱ

り俺はこの笑顔の方が好きだ。


奇跡のように想いが通じ合った大切な人。

これからは、いいや、これからも俺が智君を

護っていきます。


俺の腕があなたのためにあるように、

あなたの腕も俺だけを抱きしめて…




「翔くんは怪我大丈夫なのか?」

「えっ?」


その言葉に、今ままで忘れていた全身の痛み

が俺を襲った。


「痛ってー!!」


激痛に悶える俺を智君は優しく寝かせ、

『翔くんも安心したから痛みを思い出したん

だ、お互い単純だな』なんて悪戯っぽく笑った。





暫くすると一泊分の荷物を持った母が病室に

来てしまい、俺と智君の恋人としての初々し

い時間は終わりを告げた。


その後智君と母は一緒に帰り、俺は病室に一

人残された。

俺以外に誰もいない病室は不気味だったけど

ここでの智君を思い浮かべれば幸せな気持ち

になってそんな事は忘れられた。


智君、今夜はあなたの夢を見るよ…













いや、待て。

寝れねえ、あいつへの報復があった。

嫌がらせを指示し、智君に怪我までさせた奴


茂部、お前は絶対に許さない…








またこの告白パターン

頭わるいm(._.)m