お山の妄想のお話です。





二人は二階の階段の一番上に並んで立ち、

おいらを見下ろしている。


丁度真ん中辺りにいるから、脇に避けなけれ

ば通れない。

でもおいらは彼女達に対峙して真ん中を上が

って行く。だって迷惑な場所にいるのはあっ

ちだし、おいらが避ける理由もない。


近付くにつれ段々二人の表情は険しくなって

いく、また何か仕掛けるつもりなのかな?

少し不安を感じながらも、大丈夫おいらは負

けない!対処もできる!と自分に言い聞かせ

階段を進んだ。


あと数段程で彼女達の真ん前に着くけど、ど

う動く?

退いておいらを通すのか、それともまた言い

がかりを付けるのか……


二人が退かなかったら鉢合わせになるな。

階段の上と一段下で睨み合う図を思い浮かべ

てゲンナリした。無茶苦茶近い…


やっぱり数段下で止まって様子を見た方がい

いだろうな。

考えながらも歩を進めると、おいらが近付く

につれ彼女達の表情が引きつっていくのがわ

かった。


そしてお互いの距離が階段三段分になった時

彼女達は上擦った小さな声で言ったんだ。


「……これ以上来ないで」

「  えっ?  」


罵倒じゃないの?!

思ってもみなかった言葉に驚いてまじまじと

二人を見ると、険しかった表情が一瞬で泣き

そうに歪んだ。

よく見ると身体もふるふると震えている。


「お願い、すぐ階段を下りて」

「あいつに気付かれる前に、早くここからい

なくなって……」


誰かに聞かせない為か、小さくて必死な声。

でも、おいらには訳がわからない。


「どうして?あいつって?」


訊いてみたけど答えはなく、二人はしきりに

後ろを気にしている。


「声を出しちゃダメ!見つかっちゃうよ」

「早く逃げてっ」

「そう言われても…」


理由を知りたいし、何かに怯えているのを放

ってもおけない。

動こうとしないおいらに焦れたのか、二人は

早口にここにいるあらましを話し始めた。


「あんたをここから突き落とせって命令され

てるのよ…」

「従わなかったら私達が酷い目にあう…でも

そんな事したくないよ。今ならまだ大野が階

段にいることに気付いてないから逃がしてあ

げられる」

「あいつに『階段には来なかった』と言えば

場を繕えると思うの、だから…」


嘆願する二人の話を聞いて背筋が冷えた。

チラリと後ろを振り返ってみる、踊り場まで

でも結構な高さがある…


ここから突き飛ばされて落ちたら只ではすま

ない、高い確率で怪我をするだろう

打撲、骨折、打ち所が悪ければ………


仮に寸前で避けておいらは事なきを得ても、

標的がそれたことによってバランスを崩した

この子達が階段落ちをするかもしれない。

どう考えても危険な行為だ。


それを命令し実行させるために脅す?

おぞましい……


「おいら途轍もなく憎まれてんだな…」

「あの子は自分のためならどんな事でもする

の、櫻井君と付き合ったのもそのためだった

のよ」

「そうよ、この学校で一番の男子と付き合っ

て女子から羨望な目で見られたいから。私っ

て凄いでしょって優越感に浸りたかっただけ

なの」


翔くんが好きだったんじゃないの?

利用するために付き合ったってことなのか?


「でも櫻井君は全然あいつに関心がなくて、

とても恋人同士には見えないから誰も付き合

っていることに気付かない。それで櫻井君に

蔑ろにされているのは何時も一緒にいるあん

たのせいだと思ったみたい」

「だから大野の所へ行って、櫻井君から離れ

るように言えって……」

「その後の画鋲や水も命令されて仕方無くや

ったの。でも今回は無理、突き落とすなんて

怖いこと出来ないよ…」


二人の瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。

その涙と震える身体が今までの恐怖を物語っ

ているようだった。

脅されて、やらされた、彼女達の本意ではな

い、渡海先生の言った事は本当だったみたい

だな。


「わかった、話してくれてありがと」

「じゃ、早く行って」

「早くっ!」


早く階段を下りろと急き立てられる、でも彼

女達の願いを聞くことは出来ない。



だっておいらには見えていたんだ、いつの間

にか二人の背後に立つ不気味な人影が…





茂部


計画がすべて壊れた。



私は入学してすぐにこの学校のプリンセスに

なるはずだった。

中学でそうであったように高校でも皆からち

やほやされる存在になる、自分にはそれだけ

の魅力があるからと当然に思っていた。


なのにこの学校には既に『マドンナ』と呼ば

れ不動の人気を博す奴がいて、そいつの陰に

埋もれ陽の目をみることがない。

この私がこんな屈辱を……


そいつをどうにかしてその地位から引きずり

下ろそうと色々と調べた、どんな人間だって

幾つか人に知られては不都合な事があるはず

だから。


調べるなら徹底的にとプロを雇ったわ、裏付

けは肝心なのよ。言い逃れが出来ないようにね。


でもね、何もないの。

全国大会に何度も出場する強豪バレー部のエ

ース。成績も良く品行方正で過去にも汚点な

んてなにもない。家族についても調べたけど

悪いところは何一つ見つからなかった。


なら、頂点に立つにはどうしたらいいの?

そう考えて思い付いたわ、だったら皆にあい

つが私より劣る事を分からせればいいんじゃ

ないかって。

あいつに無いもの、それを私が手にすれば皆

は私の存在に気付き持て囃すはず。


あいつに無いもの…

私は大きな病院の娘、あいつの家のようにし

がないサラリーマンの子供じゃない。

富や権力があって学校にも沢山寄付をしてい

るから校長だって諂う、でもそんなの生徒に

は関係ないこと。


別に無いかと探して気付いたの、あいつには

交際相手がいないってことに。

もしかして、彼氏がいないからいつまでもマ

ドンナでいられるのかしら?

では、彼氏が出来たら陥落する?男子はもう

見向きもしなくなる?


そうしたら彼らは簡単に私の美貌に靡くわよ

ね、じゃあ女子は?

別に女子に好かれようなんて思ってない、た

だ私に憧れ羨み持て囃せばいいのよ。


それに最も適した手段は……

とても簡単な事だわ、女子が羨むような男子

と付き合えばいいのよ。

あの人気者と付き合えるなんて凄い!と女子

が臍を噛むのを見て優越感に浸れるし、羨望

の目で見られるのは気分がいいでしょうね。


そしたらおのずと順位が変わり、あいつは下

に落ち私がトップに立つのよ。


まず、女子達に私の方が格上だと認識させる

そしたらすぐに男子達も本当の順位を知るは

ずだわ。


同世代の男子なんてチョロいからすぐに私に

落ちるはず。こんなに簡単な事に気付かない

なんて私も駄目ねと笑って、まず人気のあっ

た野球部のキャプテンに目をつけた。


すぐに私にぞっこんになったけど彼の人気は

思っていた程なくて、たいした話題にならな

かったの。次はもっと注目度の高いサッカー

部やバスケ部のエースなんかと付き合った。


でもやっぱり相手の男子が役不足なのね、

全然私の知名度があがらない。

そこでよく考えたの、一部の人から人気があ

るのではなく万人に好かれて尊敬されている

人。見た目が良くて家柄も良ければ尚いいっ

てね。


上の学年ではなくて今度は同学年の有望株を

探したの、そして櫻井君を見つけた。

一年の頃は美形で頭も良くて人気はあったけ

ど背が低くて、イマイチだと思ってた。


でも二年に上がる頃には背も伸びて、大人っ

ぽくなった。そして人望厚い生徒会長に就任

したのよ、私に釣り合うのはこの人しかいな

いって感じたわ。


それに今まで誰とも付き合ったことがないっ

て、私が初めての彼女になるのよ?

凄く話題性があるわ、だからなんとか生徒会

役員になって近付いた。


そして折を見て告白して、櫻井君と交際を始

めた。もう天下を取った様なものだったのに

目論見が外れたわ。


櫻井君には彼女である私よりは優先する人が

いた、それは幼馴染の男。

ぱっとしない容貌の暗そうな奴、大野。


私よりはあんな奴に気を遣うなんて絶対にお

かしい、櫻井君は間違っている。

あいつに洗脳されてるのかと本気で心配した

わ、だから何度も間違いを指摘したのに全然

聞き入れてくれないの。


こうなったら大野の方から離れるように仕向

けなきゃと、弱みを握った三年に色々やらせ

たのに……

その結果が『大切なのは君じゃない、別れよう』よ!!こんな屈辱があるかしら!


おかしいわ、絶対に間違ってる。

やっぱり櫻井君は洗脳されているのよ、解く

ためには大野と離した方がいい。


そうね、階段から落ちるのはどう?

骨折でもすれば入院になるし、その間に櫻井

君の目も覚めるでしょう。

大野にも、痛い目に合いたくなければもう近

付くなって警告にもなるし。



さあ、先輩達お仕事ですよ。

私には先輩方のしたことに簡単に尾ひれをつ

ける事ができるのよ、それを先生に言ったら

どうなるかしらね。

権力とお金ってあって損はしない、本当に素

敵だわ。


進路の事で脅して手先として使っていたのに

一人裏切ったかと思ったら、残った二人も怖

じ気づいて使えないったらないわ。

しかも、余計な事までベラベラ話して能無し

としか評価できない。


もう自分でやるしかないみたい。

この後何が起こっても私は安全よ、だって私

には校長という後ろ楯があるもの。

パパは個人的に校長先生にも『寄付』してる

からね。


さあ、目の前のこの人達をどうしよう?

無能な駒と邪魔な奴、どちらもこの学校から

消えても支障はないわ。





「あら、皆さんお揃いで。こそこそと何のお

話ですか?」


後ろから話しかけると、先輩達はビクリと震

えて恐々と振り返り私を見た。

絶望的な怯えきった目をしているのが愉快で

たまらない。


「あ、あの、これは……」

「ふふ、全部聞いていたから弁解はいらない

わ。私の言う事がきけないようね」


『どうなるか、わかってるよね』そう含ませ

て笑顔でいうと、先輩達の顔からは血の気が

引いていく。


そんな様子を愉しく眺めていると強い視線を

感じたの、それは数段下にいる邪魔者からの

ものだった。


私の計画を壊した張本人

大野  智が怒りのこもった刺すように鋭い目つ

きで私を睨んでいたの。



そんな態度をとっていいの?

身の程を知りなさい








経緯でございます

もう、いーやーだー





なぜか34が消えてた

失礼しましたm(._.)m