お山の妄想のお話です。
昼休みから放課後まで茂部の動向を四六時中
見張った。
といってもクラスが違うし、性別も違い何処
へでも着いて行けるわけじゃないので俺がし
たのではない。
茂部と同じクラスの友人に様子を伺うように
頼んだんだ。
昨年同じクラスで仲が良かった男子とその彼
女、二人には理由を詳しくは話さなかったけ
れど何となく察してくれたようで協力すると
言ってくれた。
そして休み時間に彼から何回か連絡が来た。
『茂部が恐ろしい形相でスマホを弄っている
ラインかな?ピコピコ着信音がうるせえ』
『ラインは終わったみたいだけど、スマホを
持ったまま教室を出ていく。彼女が尾行して
行った』
『彼女が帰ってきたから話をきいた。
茂部はトイレで電話していたらしい、相当怒
って怒鳴っていたみたいだ。
彼女が鏡の前で髪を梳かしたりして聞き耳を
立てていたら、めっちゃ睨んできたから怖く
て退散してきたんだと』
[電話の相手はわからないか?名前は聞かなか
った?]
『名前は出なかったみたいだ』
[そうか、引き続き頼む]
『ラジャー!!』
探偵ごっこでもしているつもりか、友人達の
楽しんでる感は否めない。
でも頼みの綱は彼等しかないので、俺は悪乗
りを我慢して有益な情報が入るのを待った。
『速報です!!』
返りのHRの始まる少し前に、またラインが
入った。
[どうした?]
『今、茂部がラインしているのを背後から盗
み見た。放課後他の人も連れて部室に来てっ
て書いてあった。恐怖の呼び出しの件』
[ラインの相手は?!]
『すまん、見えんかった』
[そうか、残念だ]
『そう気を落とすな、朗報もある』
[なんだよ?]
『俺の彼女テニス部で部室はラクロス部の真
横なんだ。だから壁に張り付いて隣の話しを
聞いてきてくれるそうだ。THE 盗聴!』
[そんな事をして大丈夫なのか?お前の彼女
だって部活があるだろ?]
『今日はテニスもラクロスも部活休みらしい
から大丈夫だろ』
[なら、よろしく頼むと彼女に伝えてくれ]
『オッケー!櫻井は放課後何処にいるんだ?
報告してやるから居場所教えろよ』
[多分生徒会室にいる]
『りょ!!』
丁度ラインを終えたタイミングで担任が教室
に入ってきてHRが始まり、俺は担任の話を聞
き流しながら事が上手く運びそうなのを喜んだ。
やっぱり茂部に鎌をかけて正解だった。
きっと実行犯の三年を呼び出し、自分の事は
絶対に知られないようにしろとでも命令する
つもりだろう。
上手い具合にそこで三年の『弱味』を言って
くれたら、今後の動きが決められる。
正直なところ俺も隣の部室で彼女等の話を聞
きたい、しかし男の俺が女テニの部室に入っ
たなんて他の奴らに知られたら酷く面倒な事
になって、今以上の誤解を智君に与えてしま
う……
やっとまた連絡をくれるようになったんだ、
またそれを断たれたら俺は正常ではいられな
いかもしれない。
だからここは我慢するしかない。
きっと彼女が何らかの情報を仕入れて来てく
れるはずだ、そして裏が取れたら智君の仕返
しができる。
倍返し、その倍でもいい。
数倍酷い罰を与えて、智君にしたことを死ぬ
程後悔させてやる…
勿論智君には知られないように。
優しいあのひとは理由がどうであれきっと許
してしまうから。
それが智君の美徳、本当に菩薩のような人な
んだ。
でもね、俺は智君が傷付けられるのを許して
おけない。
だから代わりにやるんだ、目には目を、歯に
は歯を!いやそれ以上の報復を!
智君にバレたら怒られそうだから、秘密裏に
ね…
*
放課後になり、俺は生徒会室で二人を待って
いた。
茂部達は部室で何を話していたのか、彼女が
聞き取れていればいいが……
話し声が小さくて聞こえなかった、なんて事
になったら折角のチャンスがふいになる。
仮にそうだとしても部室に来た三年生が誰な
のかはわかるだろう。
また時間がかかってしまうけど、そこから繋
げて行けばいい…
一つ駄目でも全部がそうだとは限らない、他
のやり方だってあるはずだから。
「櫻井、いるか?」
カチャっと音をたてドアが開き、友人がひょ
っこりと顔を出した。
「おお、ここだ!入ってくれ」
入室を促すと二人はソロソロと生徒会室に入
ってきた。
そして長い机の端に一人で座る俺を見つけ、
ほっと息をついた。
「良かったお前ひとりで、他に誰かいたらど
うしようかと思った」
「なんでだよ」
「だって生徒会室なんて俺等は普段絶対に近
付かないとこだろ、それに役員って偉そうな
奴ばかりだから緊張するし」
「そんなことか、だったら今日は誰も来ない
から安心しろよ」
「だってさ、安心しろよ」
俺の言葉尻を拾い友人が彼女に言う。
その彼女は何故か不安そうにしていた。
「どうかしたの?」
そんな態度が気になって訊いてみた、すると
彼女は『部室で聞いた話しを他の人に聞かれ
たくないから』とこたえた。
「そんなに酷い話しだったの?」
「うん、酷いと言うか嫌な話し。話を聞いて
いた事がバレたら私も何かされそうだよ」
「茂部って性格激悪だもんな」
「そうだよ、だから櫻井君があのコと付き合
い始めたって知った時何かの間違いだと思っ
たもの」
俺は全然知らなかったが、茂部の性格の悪さ
は知れ渡っているようだ。
それを知っていたら俺だって断っていた、智
君に害を及ぼすとわかっていれば尚更だ。
しかし今さら悔やんでも遅いし、今は他にや
るべき事がある。
「色々と間違いに気付いたから別れたんだ。
それより話しは聞けたんだね?どんな内容だ
った?」
早く聞きたくて急かすと、彼女はスマホを取
り出して操作し始めた。
「録音してきたの。私が話すより確実だと思
って。ただしっかり録れているかわからない
けど」
『録れてなかったらごめんね』と差し出され
たスマホを受け取り、再生を押した。
さとP出番無し、しんどい
つーかこの話 しんどい
副反応はなしやった