お山の妄想のお話です。





中休みにカップルからの話を聞き、黒幕を確

信した。

しかし裏が取れていないので、まだ憶測でし

かないんだ。


ラクロス部の三年生は絶対に智君に文句を言

いに行った奴等だろうから、荒井先輩に聞け

ばすぐに名前は分かるはず。

ただそいつらが素直に白状するとは思えない

進路に関わる『弱味』を茂部に握られている

ようだから。


その『弱味』さえ分かれば、教唆犯と実行犯

両方に制裁を加えることができるのに…


さて、どうするか。

何か妙案はないだろうか

そんな事をあれこれ考えて3時間目と4時間

目を潰した。それでもやはり良い案は浮かば

ない、いわば八方塞がりの状態だ。


昼食もイライラしながら食べたから味なんて

わからない、食に関しては信念を持つ俺が大

切な一食を無駄にしたんだ……


それも智君に仇なしたあいつらのせいで…

ムカムカと腹が立ち、今話し掛けられでもし

たら誰彼構わず八つ当たりをしてしまいそう

だった。


そんなことではいけない、心を落ち着けるた

めに俺はスマホを取り出した。

そして智君からのラインを読み返す。

たった一行だけれど、数日振りに智君が俺に

くれた文章だ…


『翔くんありがと、プリンうまかった。』


本当にこれだけのものだけど、今の俺にはと

ても大切なもの。

何日か音信不通で不安だったけど、これで元

に戻れたのだと思う。もうあんな思いをする

のは真っ平御免だ。


今日も帰りにお見舞いに行こうかな。

智君の好きなケーキを持って行ったら喜んで

くれるはずだ。


イチゴのショート、モンブラン、チョコのケ

ーキ、どれがいいかな…

その一つ一つを幸せそうに食べる智君を想像

して、癒され心が和んでいたのに…



「櫻井君!」


剣呑な声で呼ばれ顔を上げると、険しい表情

の茂部がいた。


彼女の出現にほっこりと暖かった気持ちが急

速に冷えていく。

無視しようかと思ったけれど、それは大人げ

ない気がしてやめた。


「…………なに?」


流石に笑顔の対応は出来ない、無愛想に答え

るとそれが気に入らなかったのか彼女の顔は

険しさを増した。


「今朝、どうして連絡してくれなかったの!

前に約束したよね、登校時間が変わる時は教

えてって!私ずっと待ってたんだよ」


……何を言うのかと思えば。

恋人という関係を解消したんだから、そんな

約束は無効だ。


「待っていた?どうして?俺は君と一緒に登

校するつもりはないけど」

「でもっ!」

「付き合ってるわけでもないし、そんなのお

かしいだろ」


食い下がる彼女にうんざりし、手元のスマホ

に視線を向けた。

そっけ無い態度をとると彼女は少しだじろい

だが、それでもまだ言い募る。


「付き合っていなくても、一緒にいたってい

いじゃない!」

「誤解されるから嫌だ」


彼女には別れ話しの時に俺の気持ちは伝えた

のに理解していないのか、それともプライド

が高くて認めたくないのか…

どちらにせよ、俺には煩わしいだけだ。


「誤解って……大野先輩に?」

「……そうだな」


俺の言葉を聞いた茂部は意地の悪い顔をして

小さく舌打ちをすると横を向いた。

その醜く歪んだ表情に嫌悪が沸く、そしてま

た良からぬ事を考えているんじゃないかと少

し不安になった。


俺がつれなくした腹いせをまた智君にするか

もしれない。嫌がらせは段々と過激になって

いるから、次は怪我をさせられるかも


……そんな事は絶対にさせない

智君は俺が必ず守ってみせるから。


そこで思い付いた、今茂部をつついてみるの

は良い手かもしれない。

俺が智君に水を浴びせた犯人を突き止めそう

だと知れば、焦ってボロを出すかもしれない

から。


『ピンチはチャンス』と言うじゃないか、今

がその時なのだろう。


「なあ、茂部さん」


先程よりも柔らかい口調で呼びかけると、険

しい顔で横を向き悪計を巡らせていただろう

茂部はハッと我に返りこちらを見た。


「な、なに?櫻井君」

俺の態度が軟化したからか、彼女は媚びた笑

いを見せた。


「君の部活の先輩を教えて欲しいんだけど」

「え?先輩を?どうして……?」

「昨日智君が水をかけられた話しは聞いたよ

ね」

「………ええ」

「その犯人が君の部活の三年らしいんだ」

「えっ!」


わざとらしく驚いてみせるのに、やらせたの

はお前だろうと憎々しく思う。

でも、敢えてまだ『らしい』と使い特定には

至っていないと強調した。


「何故智君に嫌がらせをするのか、その理由

とか知らないかな?聞いたことない?」

「先輩からは何も聞いてないよ…それより何

故うちの部の先輩がやったって分かるの?

何か証拠でもあるの?」


何でもない振りを装っているけれど、彼女か

ら焦りを感じた。先輩が誰か分かってしまえ

ば、それを指示したのが自分だとバレると思

ったのだろう。


「証拠って言うか、見た人がいるんだ」

「…それって、誰なの?」


それに拘る事が既におかしい、目撃者を聞い

たら次はその人に嫌がらせをして黙らせるつ

もりなのか。

階段の彼等とは約束をしたし、秘密の時間を

邪魔させる気もない。

だから、彼女がどんなに頑張っても手を出せ

ない人の名を借りた。


「渡海先生だよ」

「渡海先生…」


渡海先生なら保健室の近くのあの階段辺りに

いても違和はない。

口止めは出来ないと分かると茂部は俺から顔

を背け悔しそうに唇を噛んでいた。


「ラクロス部の三年だとは知っているけど名

前までは知らないって言われて、だから君に

訊けばやりそうな人がわかるかもと思ったん

だけど…」

「……ごめんなさい、わからないわ」

「そう、ならいいんだ。気にしないでくれ」

「…先輩にそんな事をするような人はいない

から、きっと海渡先生の見間違いだと思う」

「そうかな」

「そうだよ!先輩方にも失礼だから櫻井君も

絶対に先輩に訊いたりしないでね」

「……そうだな、いきなり訊いたら失礼だろう

しな」

「うん、そう。絶対にやめてね」


茂部は何度も念を押してそそくさと戻って行

った。

彼女はかなり焦っていたように感じた、この

後何かアクションを起こしてくれればいいん

だが…


できればこれ以上智君を巻き込みたくない…

もう俺のせいで嫌な思いをして欲しくない、

智君には何時もふわふわ笑っていて欲しいん

だ。


けれどきっと茂部は何かをしてくるはずだ

俺にではなく、俺の想い人である智君に。

どちらがフったフラれたより俺が自分より男

を選らんだのが我慢できなかったのだろう。


だが自分のプライドのために他人に危害を加

えるなんてあってはいけないことだ。

しかもそれを他の奴にやらせるなんてもって

のほか、身勝手極まりない。

そんな彼女には必ず鉄槌を下す。


もし彼女が最後に誰かを傷付けるような悪足

掻きをしたとしても、智君だけは俺が必ず守

りきる。

それだけは神にかけて誓うよ。





普段は『学校ダルい、休みたい』と思ってい

ても翔くんが毎朝キラキラした笑顔で迎えに

来るから休めない。


それはおいらだけのキラキラだったのに、も

う他の人のキラキラになったんだよな…


そう考えると益々学校に行きたくなくなるけ

ど、いざ休むと妙に翔くんのキラキラ笑顔が

恋しくなる。


おいらなんだろ?天の邪鬼かな。

さっきだってそうだ、もう翔くんに関わった

らダメだって分かっているのにラインなんか

送ってさ……


勇気を貰うために食べたプリンが、おいらを

少し弱気にしたんだ。


でもね、ゴロゴロしながら色んな事を考えて

いたら何だか悟ったんだ。


翔くんの幸せはおいらの幸せ

翔くんが彼女と幸せなら、おいらも幸せ…

好きな人が幸せならそれでいいじゃんって。


だからたとえラインの返事が来なくても凹ん

だりしない。


きっと彼女とのイチャイチャが忙しいんだろ

うし、おいら翔くんからの連絡にずーーーっ

と返事をしなかったんだもの。

凹む資格もないんだよ。


おいらは強くなるんだ、噂が消えるまで何が

あっても我慢して翔くんの迷惑にならないよ

うにする。


おいらが蒔いた種はおいらが刈り取る。

だから翔くんは心配しないで何時までもキラ

キラしていて。


そのキラキラがおいらの物じゃなくてもかま

わないからさ






ワクチン打ってきたと

副反応が出たら明日はお休みとよw