お山の妄想のお話です。






地獄だ

俺は今人間ではない

社に飼われる家畜

そう、社畜だ…


俺の一日は家と職場の往復で終わる。

生活時間の合わない愛しい天使さまとは会話

も出来ないし、愛らしい寝顔しか見れないん

だ。


疲れた身体を引摺り寝室に入ると、そこには

お顔の横にお手々をおいて小さなお口を少し

開いてスピスピ眠る天使さま……

眼福♡可愛いすぎる♡


本当は何時までも見つめていたいけど、それ

は出来ない。


何故かって?

んなの決まってる、1分以上見つめると俺の

理性が崩壊してしまうからだ。

ストレスの溜まりまくった俺の理性が切れた

ら、きっととんでもない事をさとちゃんにし

てしまうだろう。


小さく開いたお口に、翔くんのショーくんを

グイグイ押し込んでしまいかねない。

お口ならまだセーフかもしれないが、社畜か

ら獣に変転した俺はさとちゃんの承諾なく可

憐な蕾を散らしてしまう恐れがあるんだ。


そんな無体を天使さまにしたら神の怒りに触れ、ロンギヌスの槍で翔くんのショーくんは

串刺しにされてしまうだろう…

考えただけでショーくんは縮んでしまうよ


でも、何よりも恐ろしいのはさとちゃんに嫌

われることだ。

『翔くんなんてキライ!』

なんて言われたら俺はどうしたらいいんだ…

世界の中心で愛を叫びまくれば許してくれる

だろうか…


セカチューでは世界の中心はオーストラリア

のウルル(エアーズロック)だという。

飛行機で最短でも20時間はかかるというそこ

まで行き岩場の上で叫ぶなんて俺にとっては

拷問でしかない。

いや、罰だから当たり前か。


そんな場所まで行くくらいなら死ぬ程我慢し

て、例えさとちゃんが爆睡中でも近くにいたい。だから何時も心の中の獣を抑え込み、た

だ眠る天使さまの匂いを嗅ぐだけで我慢する

んだ。なんて涙ぐましい努力だろうか。




そんなある日、とうとうさとちゃんがビデオ

通話をマスターした。

天使さまはハイテクに馴染めないらしく、何

回か提案してみたものの何時も『おいら、わ

かんね』の一言で終わりにされていたのに…


誰かにやり方を教わったのか?

そいつ、まさか天使を誑かすつもりじゃない

よな?

男?女?どちらでもいいが、とりあえず呪っ

ておこう。


そうしてご尊顔を拝見しながら話せるように

なったけれど、都合が合うのはだいたい夕方

でほんの少しの間だけだ。

しかし俺にとっては掛け替えのない幸せな時

間だった。



その日もSkypeで話していると、さとちゃん

に妙な違和感を覚えた。

なんだか、普段より大人っぽいような?


どこにいるんだろう?バックの背景が家のマ

ンションの部屋じゃない。

外と言うわけでもなく、普通の部屋っぽい白

い壁紙の前で話している。

俺の記憶にはない壁紙だ、他所の家か?


専門の友人の家だろうか?

だとしたら今度じっくり話をしなければなら

ない、さとちゃんに他所の家に行く危険性を

とっくりと話そう。

監禁されてしまうよ!と。

可愛いは正義!だけど欲望の対象なんだ。



『じゃあね、お仕事がんばって~』

「うん、頑張って早く終わらせるよ」

『え~、無理すんなよ。早く終わってもゆっ

くり帰ってきてね』

「なんで!?さとちゃんは早く俺に会いたく

ないの??」

『会いたいけど…ちょっと用事があっておい

ら家にいないから』

「えっ!どこにいるの?!遅くなるの!?

だったら俺、迎えに行くし!」

『翔くんに迎えに来てもらうほど遅くはなら

ないよ』

「だったらそこが何処かだけでも教えて!

何かあったら助けに行けるでしょ」

『ここは安全だから大丈夫。助けてくれる人

も大勢いるから安心して』

『さとちゃん?!大勢いるって??」


言葉の意味がわからなくてテンパっている間

に、さとちゃんは『じゃーな』と微笑み通信

を切ってしまった。


可愛く美しい笑顔……

いつもなら俺の心に平静を与えてくれるそれ

に、今日は不安しか感じなかった。



『ここは安全』


そこは何処!


『助けてくれる人も大勢いる』


それは誰!!誰と誰と誰と誰っ!!


肝心なことを

どうして教えてくれないのか……


さとちゃんは何かを隠しているの?

俺に知られたら不味いことなのだろうか?


前は何でも話してくれたのに……



少しづつ変わっていくさとちゃんに、俺はど

うしようもない胸騒ぎを感じた。




さとちゃん


とても焦った…

思わず潤くんの店のスタッフルームでヘニャ

リと脱力した。

なんとか誤魔化して電話を切ったけど、聡い

翔くんは感付いたかもしれない。


もうすぐ目標の金額にたっするからバイトは

終わりになる。

そうしたらプレゼントのネクタイを買いに行

くんだ。


お店のことはよく分からないから潤君達につ

いてきてもらうつもり。

皆の意見を聞いて選ぶけど、最終的にはおい

らが決める。


だって翔くんのスーツに似合うネクタイを選

べるのは、翔くんのスーツ姿が大好きなおい

らだけだと思うから。


とにかく無事プレゼントを渡すまで、この事

が翔くんにバレないようにしなくちゃ。