お山の妄想のお話です。






ジェットコースター

高みまで上がり凄い勢いで下りていく。


俺はそんな体験をした。


ずっと好きだった人と思いが通じて恋人にな

れた。

嬉しくてただ一緒にいるだけで幸せを感じて

いたけれど、やっぱりそれだけでは足りなく

なって身体を繋げることにしたんだ。


長い間近くにいて今さら緊張なんかしないだ

ろうと思っていたけど、いざベットに入ると

無茶苦茶ドキドキしてどうしたらいいかわか

らなかった。


実際、本当にわからなかったんだ。

俺はどっちなんだろう?

抱くのか抱かれるのか?

そんなことは話し合っていないけど、初めて

の夜だから幸せな記憶として何時までも残し

たい。


俺は翔くんのことが凄く好きで何よりも大切

だったから、翔くんが望むようにしようと思

った。


抱いて欲しいというなら、お望みのままとろ

けるような愛撫の後に繋がろう。

抱きたいなら、俺の全てを差し出して受け入

れる。愛する人とひとつになれるなら、どち

らでも構わない。


『どうする?』と訊くと翔くんは普段お目に

かからない無茶苦茶緊張した顔で『抱きたい』と言った、その顔が可愛くて愛しくて俺は黙

って頷いたんだ。



同性との行為も抱かれるのも初めての体験で

上手いとか下手とか全然わからんしそんな余

裕もなかったけど、翔くんは壊れ物を扱うよ

うに優しく丁寧に触れてきた。


長い時間をかけた愛撫で俺の緊張を解き、入

ってきた時は痛みを感じて苦しかったけどそ

れより幸福感が勝った。


息もつけないほど突き上げられても、翔くん

の快感を我慢する苦し気で切なそうな顔を見

たら俺の身体で感じてくれているのが嬉しく

て許せた。


でも…

ラストに向けて激しく動きお互い登りつめる

直前、翔くんは俺の想いを踏みにじるような

事を呟いたんだ…


「ああ、まさ…」


えっ?

まさ……何?

もしかして、それって名前なの?


その瞬間、俺の脳裏にかけがえのない仲間の

顔が過った。

『まさき』と呼んだのか?

何故、今、この瞬間にその名前なんだ

そこは俺の名を呼ぶところだろ……


確かに翔君と相葉ちゃんはテレビでチューだ

ってしちゃうくらい仲が良い。

でも、それは気心が知れたメンバーだからな

んだろ?俺はずっとそう思ってたけど…

……………………………違うの?


痛い程張りつめ弾ける直前だった俺のものは

萎れた、まさに精神が肉体を凌駕した瞬間だ

った。


その後すぐに腹の中に熱いものが注がれた、

でも俺は全てを受け止める前に意識を手放し

た。それは快楽のせいではなくて、裏切られ

たショックに精神が耐えられなかったんだ。


無意識だったんだろうけど、果てる前に別の

奴の名前を言うなんて……

そんなの酷すぎるだろ





目覚めたのは翔くんの腕の中、顔を上げると

綺麗な顔が近くにあった。

アーモンド型の円らな瞳、スッとした鼻、

ぷるりとした肉厚の唇は少しだけ開いて寝息

をたてている。


全てのパーツが俺好みのイケメン、俺の恋人

のはずだった……

でも違ったんだなぁ、俺は身代わりだったん

か……


ぼろりと熱いものが目から零れた。

ぼろりぼろり、止まらないそれは本当なら愛

する人と繋がれたという幸福な涙のはずだ。

でもこれは違う、哀しくて苦しい涙…


こんな事になっても嫌いになんてなれないよ

でも誰かの身代わりでもいいなんて寛容さも

今の俺にはないんだ。


「少し離れようか…  翔くん」


距離を置いて、お互いもう一度自分の心と向

き合った方がいい。

幸せになるためには誰の手を取るべきか、そ

れを考える必要があるんだよ。








初めて愛しい人とひとつになれた夜、

素晴らしく幸福な時だった。



俺は智君を抱きたいと思っていた。

綺麗で可愛いあの人を大切に優しく抱いて、

快楽に鳴かせたいという願望がずっと胸にあ

ったから。


でも智君も男だし抱かれるのには抵抗がある

だろう。お互い『抱きたい』と主張しあって

折角の機会を逃すのは芳しくない。


もし、もしも、どうしても俺を抱きたいと智

君が望むなら……

俺も全てを捧げる覚悟が…………ある。


でも、『出来ることなら可愛いこの人を抱か

せて下さい』と神に祈りベットに入った。

すると可愛い人は可愛い顔で『どうする?』

と訊いてきたんだ。

そうだ、この人は自分より他を優先させる人

だった……


卑怯かと思ったが俺は『あなたを抱きたい』

と答えた。

『え~っ、嫌じゃ』と断られないか無茶苦茶

緊張したけれど、優しい智君はやはり『…い

いよ』と答えてくれたんだ。


嬉しくて愛しくて、最高に幸せな時にしよう

と俺は誓い努力した。

甘い愛撫でトロトロにとろけさせた後、痛く

ないように傷付けないようにと細心の注意を

払って挿入し狭くて熱い中を進んだ。


奥まで埋め込み突くと『あっ』『ううっ』な

んて可愛い声が小さな口からもれて、俺で気

持ち良くなってくれたんだと思ったら、もっ

ともっと感じて欲しくて無遠慮にガンガンと

腰を打ちつけてしまった。


智君の中は熱くて、うごうごと蠢き俺に吸い

付き締めあげる。押し込むと更に奥へと誘い

退くといくなと絡みつく。


あまりにも快感が強くて、頭がボンヤリとし

てきた。

この人の身体はどこもかしこも美しくて甘く

良い薫もする……

そして俺を包み込むそこは驚くほどの快楽を

惜しみなく与えてくれるんだ。


とても具合が良い、これって何て言うんだ?

中がうねって絡みつくのはミミズ千匹?

いや、イソギンチャクか?

締めつけはタコツボ、巾着……


ガンガンと激しく打ち付けると、絡みつかれ

締め上げられる。


これを総じる名称は只ひとつ『名器』だ。


智君、あなたは素晴らしい、

あなたはまさに


「ああ、まさ…に……名器…」


称賛が口をついた次の瞬間

堪えきれなくなった俺は弾け、智君の中に熱

い想いを注ぎ込んだ。



全てを吐き出し荒い息がおさまらないまま組

み敷いた人の様子を伺えば、愛しい人は目を

閉じ意識を失っていた。


ヤバい!

調子にのって無理をさせてしまった!


「さ、智くんっ!」


幸せの余韻はふっ飛んで、慌てて身体を離し

呼び掛けると智君はうっすらと目を開けた。


「ごめん、無茶させた!どこか痛い?気分は

悪くない?」


そう尋ねると『大丈夫』という意味だろうか

首をふるふると振り『本当に大丈夫?』との

問にはコクンと頷き、そのまま目を閉じ眠っ

てしまった。


俺は猛烈に反省し、無理をさせたことを心の

中で何回も詫びながら智君の身体をタオルで

清め後始末をした。


それから愛する人を守るように腕に抱き、

その温かさを感じ幸せを噛みしめながら目を

閉じたんだ。




この時俺は幸福の絶頂で、最中にした発言の

せいで目覚めた時にとんでもない修羅場が待

っているなんて思ってもいなかった……










副題「勘違い」

シリアスではありません

m(_ _)m