お山の妄想のお話です。
引切り無しに各部の部長がやって来ては臨時
予算について要望していく。
この学校は強豪と呼ばれる運動部が多い、だ
から県大会やインハイに向けての予算が欲し
いんだ。
どの部も熱く語っていくので、どうしても時
間がかかってしまう。
保健医の所に話を聞きに行くつもりだったけ
れど、どうやら無理そうだ。
漸く波が途切れた時『休憩しよう』と書記と
茂部さんがジュースを配り始めた。
姿が見えないから帰ったのかと喜んでいたの
に、残念ながら自販機に行っていたらしい。
「はい、櫻井君」
「…………ありがとう」
差し出されたジュースを受け取り礼を言う。
ニコニコと上機嫌な彼女に不気味さを感じて
さっさと離れて欲しかったが、茂部さんは俺
の隣に座り込んでしまった。
「櫻井君、今日一緒に帰ろう」
「悪いけど、今日も急ぐから」
その言葉が不快に感じて、直ぐ様断りを入れ
たけれど茂部さんは引き下がらない。
「そんなこと言わないで。あのね、ジュース
を買いに行く時に面白いもの見たの。それを
話してあげるから、ね?」
「面白いもの?」
「そう!聞きたいでしょ?」
余程彼女にとっては楽しい事なのか、目がキ
ラキラ耀いている。
でも俺には全く興味がないし、彼女と帰るつ
もりも更々ない。
「別に、興味がないから」
「ううん、絶対に聞きたいはずよ」
彼女との関係は終っているのに、まだ俺に纏
わり付いてきて煩わしい事この上ない。
だから素っ気ない態度をとると彼女は少し焦
ったようで、話のキーポイントを出した。
「大野先輩の事なんだよ?聞きたくない?」
「智君の?」
関わりたくないのは山々だが智君の名前を出
されたらそうも行かない。
「そうなの、だから帰りながら話すよ」
俺が興味を示したのに茂部さんはしたり顔に
なった。なんだか彼女の策に掛かったようで
腹立たしい。
それに俺の智君への思いを知っている彼女の
やけに楽しそうな素振りから良い話では無い
のが感じとれる、きっと聞くに値しない話だ
ろう。
「なら今話してくれ、でなければ別に話して
くれなくてもいい」
話すか話さないかどちらでもいい、話すなら
聞いてやるくらいな少し横柄な言い方をして
やると彼女も流石にムッとしたようだ。
「ここで話してもいいのかなぁ?他の人に
聞かれたらまた先輩に悪い噂がたつかもよ」
「悪い噂?何だよ?」
まだ同性愛者という噂も消えていないのに、
これ以上デマを流されるわけにはいかない。
「だから、帰りにね?」
「……詳しくは後でいいから、とりあえずどん
な話しか言って」
渋々帰りを一緒にするのを承諾すると、茂部
さんは癖のある笑みを見せた。
「じゃあ少しだけ話してあげる……さっき先輩
とマドンナが…」
マドンナ……
智君のクラスメイトの荒井先輩のことだろうか?姉御肌の彼女はマイペースな智君を気に
掛けてくれているようだけど、そんな先輩と
智君が何だと言うんだ。
「荒井先輩と智君がどうしたんだよ」
「二人で校舎裏にね…」
「校舎裏…」
あんな人気の無い場所へ何をしに?
まさか、告白とか…
そんな…
「ふふ、後で詳しく話すよ」
俺の焦燥を感じ取った茂部さんが、勿体ぶっ
た言い方をしニヤリと笑った時に目の前に紙
が差し出された。
どうやら話していて気付かなかったけれど、
いつ間にか近くに誰かが来ていたようだ。
その紙には『女子バレー部予算案』と書かれ
ていた。
「……私と大野君がどうかした?」
凛とした声に顔を上げると、そこには今まで
話題になっていたマドンナ、荒井先輩がいて
俺達を強い眼差しで見ていた。
「あっ……」
その視線の強さに茂部さんは慄き小さく声を
上げる。
本人に聞かれたら不味い話なのだろうか?
茂部さんの話は今一つ信用できない
なら直接先輩に訊いた方がいいだろう。
そう結論づけ、俺は受け取った予算案を副会
長に渡すと荒井先輩に『少し話を聞かせて下
さい』とお願いした。
それに先輩は了承し、人には聞かれたくない
のか廊下へと出て行った。
「あの、何の用事で智君と校舎裏に行ったん
ですか?」
「……行ったけど、見たの?」
茂部さんの話が真実なのかは分からないので
単刀直入に訊いてみると、先輩はあっさりと
答えた。
「はい。この人が見たって言うので」
何故か一緒についてきた茂部さんを指して言
うと、先輩はジロジロと値踏みするように彼
女を眺めた。
「…この子が君の彼女?」
「違います、もう終わりました」
いきなり関係無い事を訊かれ、俺がそれに即
答すると先輩は眉を潜めた。
「それ、大野君は知ってるの?」
「連絡を取れてないので知らないハズです。
そんな事より先輩は校舎裏で智君と何をして
いたんですか?」
俺と茂部さんの事なんて関係無い、今はこの
人と智君の関係が知りたい。
「何をしてたって、?別に君の心配するよう
な事はしてないわよ、ただ駐車場まで大野君
を送っただけ」
きっぱりとした物言いには嘘が感じられず信
じる事が出来た、ただ智君を駐車場まで送っ
たというのはどういう事だろう?
「駐車場?なぜ?」
「連絡を取ってないんだから知らなくて当然
だけど、大野君具合が悪くてお母さんに迎え
に来てもらったの。私は彼がフラフラしてて
心配だから付き添っただけ」
「えっ!智君が!何で連絡くれないんだよ、
俺が送ったのに…」
智君が体調を崩すなんてあの噂が余程堪えた
のだろうか。
俺が矢面に立って守るべきだったのに…
自分が不甲斐なくてギュッと唇を噛んだ。
「あなたと三角関係とか変な噂も出てたし、
彼女と別れた事も知らないから迷惑かけたら
いけないと思ったんじゃないかな」
荒井先輩は俺を咎めているようだ。
「連絡を取り合わないのは櫻井君だけのせい
じゃないけど、あなた達お互いが誤解しない
ように話し合った方がいいわよ。このままじ
ゃ、大野君がどんどん辛くなるから」
「それは?」
どういう意味かと訊くと鋭く睨まれた、自分
で考えろということなのだろう。
「智君の容態は?調子が悪いってどんな風で
したか?」
智君が心配で訊くと『風邪だと思う』と返答
された。
「風邪?この季節だと寒くもないのに…」
衣替えも済んだこの季節、確かに雨は多いけ
ど風邪だなんて少しおかしい。
相葉の家に泊まる前までは元気だったのに…
まさか、風邪をひくようなナニかを奴とした
訳じゃないよな…
「そんなわけねえだろ」
ブンブンと頭を振り、そんな考えを振り払った。智君はホモじゃない、絶対にあり得ない
ことだ。
「寒くは無いけど、風邪をひきそうな事があ
ったの」
「それは…?」
「私は口止めされてるから言わないわ。知り
たかったら自分で訊きなさいよ」
またキツく睨まれ冷たく突き放される、俺は
随分彼女から不評を買っているようだった。
「あれで…やわなのね」
隣から茂部さんの小さな呟きが聞こえ、それ
は嘲るような響きを含んでいた。
どういうつもりで言ったのかはわからないけ
れど智君を馬鹿にしているのは確かだ。
腹が立ち非難しようとすると、荒井先輩が静
かな口調で言った。
「気候は暖かくても水は冷たいのよ」
先輩の表情は凍るように冷たく、
しかしその目は何かを確信したように怒りに
燃えていた。
日テレプラスで『よい子の味方』
やってました。
太陽先生……若いwww
相葉ちゃんも出てましたw
二度美味しい♡