お山の妄想のお話です。




朝、おいらがホモだという噂を聞いてか、

休み時間の度に何人もの人が教室を覗き込み

興味津々においらを見てはヒソヒソ話をして

いる。


三年のクラスを覗くのだから多分彼等は同学

年だろう、受験生だろうに全く暇なことだ。

おいらは別に何を言われようと気にしない、

相手にする方が面倒臭いから。


有り難いことにクラスの皆が追い払ってくれ

るし、別段困ることもない。



「もうっ!あいつら本当に暇なんだから!」


菜々緒ちゃんを含む女子達が野次馬を追い払

い、プリプリしながらおいらの前にやってきた。


「大野くん!なんで反論しないの!」

「誤解されたままでいいの!?」

「ていうか、まさか本当に同性愛者なの??」


女子達が口々に言い、詰め寄ってくる。

おいらは何て返答したらいいのか一寸悩んで

しまった。


翔くんを好きなんだから、同性愛者か?

でも他の男子には友情は感じても異性に感じ

るような恋情はない。


今まで幼馴染みの翔くんへの想いは親愛だと

思っていたけど、昨夜の相葉ちゃん家でのAV

上映会でそれが違うと気付いてしまった…


翔くんは男だ、男を好きなおいらはホモ?

でも他の男には別段なんも感じない。


…………おいら、なんなんだろ?


「わかんね」


考えてもわからなくて、女子達にそう答える

と彼女等は一瞬キョトンとして、それから呆

れたように言った。


「大野君らしいよ」

「天然だものね~」

「きっぱり否定した方が却って怪しいかも」


何故か納得された。

どうやら深い追求はなさそうだ。

同性愛者か、否か、

はっきりとした答えはきっと出ない。


ただ分かっているのは、おいらは翔くんが好

きで、この想いを翔くんが知ったらドン引き

されるだろうということ。


もう友達とも思ってくれないかも……

それは、悲しいな


離れなきゃならないのは確定しているけど、

『気持ち悪い、二度と顔も見たくない』的な

のは嫌だよ。







智君の噂話はどんどん膨れ上がっていた。


昼休みになる頃には『抱き合っていた』から

『抱き合ってキスをしていた』に変化してい

てこのままだともっと尾鰭が付きそうだ。


俺はそんな話を耳にする度に怒りが込み上げ

た。勿論その怒りはいい加減な与太話を飛ば

す輩に対してのものだが、これだけ学校中に

デマが広がっているのになんの弁解もしてこ

ない智君にも憤りを覚えていた。


どうして『違う』と否定しないのか…

何故俺に『変な嘘が広がっちまった~』って

笑いながら言って来ないの?

昨夜のLINEの返事もないし、それに登校時の

お迎えの件だって解決してない。


智君の教室に行って色々問い詰めたい。

でも、昨日騒ぎを起こしたから行きにくいし

智君のクラスメイト達が会わせてくれないか

もしれない……


他の先輩に気を使い行動を制限されるなんて

今までは思ってもみなかった。

こんな時、年下なのがもどかしい


やっぱり智君とは二人でじっくり話し合う必

要があるだろう。

智君への気持ちを自覚して死活問題になった

お迎えの件、噂になっている『相葉』の事も

知りたい。


そいつの事をどう思っているのか、俺とそい

つではどちらが……


『どっちが大切?どっちの方が好き?』


まるで幼い子供みたいな言葉が浮かんだ。

本当に子供だったらそう言えただろうけど、

今はそんな風に訊けるほど幼くはない。


それにもし智君が『相葉』と答えたら俺は相

当なダメージを受けるだろう。


ずっと智君の一番だと思い込んでいたプライ

ドの崩壊、恋心に気付いた途端の失恋…


……失恋?

智君は友達として選ぶのだから、失恋にはな

らないのか?

いや、でも友として『相葉』より格下なら恋

愛感情なんて持って貰えるはずもない……



「……くくっ」


そう考えて自虐的な笑いが漏れた。

昨日は『幼馴染みの親愛やいきすぎた友情を

恋と勘違いしているんじゃないか』なんて疑

っていたのに、一晩たったらもうこの気持ち

を否定することもない。


俺は本気で智君に恋してる。

いいや、愛してるんだろう。


この想いを告げるかは別としても、智君が誰

かと付き合うなんて許せない。



学校では何もリアクションせずにいよう。

電話もLINEもメールも、会いにも行かない。

どうせ智君からの返事はこないだろうし、教

室も追い返されるのがおちだ。


うるさい面倒臭いと警戒されるより、無防備

な時に踏み込む方が逃げられないですむ。


今晩部屋にいるのを確めてから智君に奇襲を

かける、そして必ず答えてもらうんだ



昨日学校で起こったこと

お迎えを断る理由

相葉という奴との関係

そいつの家で昨晩何をしていたのか

噂…本当に抱き合っていたのか


どうして連絡をくれないのか

何故俺から離れようとするのかを……






噂というのは恐ろしい。

短時間で『抱き合っていた』から『抱き合っ

てキスをしていた』に変化していた。

話によると目撃者もいるらしい、是非ともそ

の目撃者にお会いしたいもんだ。


あんまり俺が噂に無頓着なので、男友達が

『このままだともっとおかしな噂が立つぞ』

と心配してくれたけど『言いたい奴には言せ

ておけば良い』『人の噂も七十五日、そのう

ち自然に忘れていくさ』と話した。


殆んどは『それもそうだな』と納得していた

けれど一人だけ別な事を言ったんだ。


「お前はこんな噂気にしないのは分かってる

けどさ、幼馴染みの生徒会長はどうかな?

お前の事悪く言う噂を聞いたら黙ってないん

じゃないのか?」

「……………あ」


言われるまで気付かなかった、これだけ学校

中に広まっているんだから翔くんの耳に入ら

ない訳がない。


「休み時間にでも『智君どういうことっ!』

とか駆け込んで来そうだけどな」

「………そうだな」


でも実際は駆け込んで来るどころか、一度も

姿を見せないしスマホに連絡もない。


昨晩は無茶苦茶メールやLINEがあったのに、

今日は全く梨の礫だ。

返事しなかったのを怒っているのか

それとも彼女とのイチャイチャで忙しくてお

いらの事なんてどうでもいいのか…


幼馴染みの男なんかより、可愛い彼女に気持

ちが向くのは当たり前のこと。

それでいい、それが普通なんだから。


そう感がえてガックリ気分が落ちたおいらの

方がおかしいんだ。


今は、というか今日は、いやいや暫くの間は

翔くんに会いたくないな……


自分の気持ちを落ち着かせるまで、

翔くんと彼女、二人を見ても胸が痛まなくな

るまでは会わない方がいい。


家が近所なだけにかなり難しい事だろうけど


取り敢えず今日は、翔くんに会わないように

授業が終わったらにすぐに帰ろう。






放課後、とうとう噂は智君とそいつは肉体関

係があるとまでなっていた。


有り得ない根も葉もない噂を愉快そうに話す

奴らに腸が煮えくり返る思いだ。


その怒りを何とか抑えながら玄関へと向かう

きっともう居ないだろうという確信があった

が、一応智君の下駄箱を覗いてみた。

やっぱり靴はなくて下校したようだ。


今日はどうか家にいてくれと願いながら、生

徒会室に向かい踵を返した。


今から茂部さんと別れ話だ。

正直滅茶苦茶面倒臭いが何とか穏便に済むよ

うに話をつけなければならない。

こんなことになるのなら好きでもない人に諾

を出すんじゃなかったと猛省した。


出来る事なら行きたくない、しかし行かない

訳にもいかない…

重い足取で歩く俺の耳に女子達のキャーキャ

ー騒ぐ声が入ってきた。


「校門の所にカッコいい人がいるっ!」

「あ~、本当だ!あの人誰?誰か待ってるの

かな!」

「彼女とかじゃない?」

「足長~」

「あの制服どこの高校?」


どうやら校門に他校の足の長いイケメンがい

るようだ。

恋人のお迎えか?仲睦まじくいいことだ。

俺は大した関心もなく歩を進めようとしたが


「あれ?あのひと昨日三年の先輩といた人じ

ゃない?」

「んん?そうだ!大野先輩と抱き合ってた人

だよ!」

「え?え?何でいるの?恋人をお迎え?!」



大野先輩と抱き合っていたひと



その言葉に、俺は生徒会室ではなく校門に向

けて猛スピードで走り出した。






明日15時頃から『みみな草』空高く1.2

の限定を外します。15時~24時まで公開

これまで以上にヘタクソ文で恥ずかしいので

また限定に戻します。


話の辻褄があってなくても

お許し下さいm(._.)m