お山の妄想のお話です。
帰り道を一人で歩きながら、学校でのことを
考えた。
朝一緒に登校しなくても何の支障もないはず
なのに、翔くんは何故あんなに必死になって
いたんだろう?
おいらの家に寄らなければ翔くんだって朝は
ゆっくり出来るはずだし、心置き無く彼女と
イチャイチャしながら学校へ行けるだろうに
なんだか翔くんに責められてるみたいで解せ
ない。本来なら邪魔者が消えるわけだから、
感謝される事なんじゃねえのか?!
…そりゃあ、おいらだって淋しいし残りの高
校生活最後まで一緒に行きたかったけど。
翔くんには彼女が出来たんだし、おいらだっ
て気を使うんだぞ…
翔くんは理不尽だと思いながら、でもさっき
のおいらの態度も悪かったなと反省する。
ちょっとキツく言ったから、翔くんは傷つい
たような悲しい顔をしていたな…
後で『ごめん』ってLINEを送っとこうか…
いや、後だと忘れそうだし今送るか。
立ち止まりスマホを取り出した、でもなんて
送ればいいのかわからない。
『ごめん』だけじゃ『何がごめんなの』とか
『謝るくらいなら変なこと言わないで』とか
返事が来そうだ。
それで結局『朝迎えに行く』に話を持ってい
かれるだろう。
そしたらまた堂々巡りだ、流石にそれはもう
嫌だ。面倒臭い。
やはり余計な事は止めようか、スマホの画面
を見ながらぼんやりしているといきなり肩を
ポンと叩かれた。
何だ!?と驚き顔を上げるとそこには他校の生
徒が一人、にこにこしながらおいらを覗き込
んでいる。
「 う? 」
「大ちゃん久しぶり~」
「あ!相葉ちゃん!」
目の前にいたのは父ちゃんの親友の息子の相
葉ちゃんだった。
家族同士の付き合いで、子供の頃からよく遊
んでいたけど相葉ちゃんが高校生になってか
らは部活が忙しくて遊ぶ機会が減ったんだ。
「どうしてこんな所にいるの?」
相葉ちゃんの家は隣街にあって、高校もこの
付近じゃないからここにいるはずがない。
「この街に美味しいスイーツのお店があるっ
て聞いてね、来てみたの。だけどお休みみた
いで残念だけど帰ろうかな~って思ってたら
大ちゃんがいたの」
「そうなんだ~お店は残念だけどおいらは会
えて嬉しいよ」
「おれも嬉し~」
相葉ちゃんが、がばりと抱き付いて来たので
おいらも抱きしめ返した。
路上で男子高校生が抱擁…
横を通りすぎていくおいらの高校の生徒達が
驚いた顔で見ていた。
でもおいらと相葉ちゃんは何時もこんなノリ
だから全然気にならない。
「そーだ、大ちゃんおれん家来ない?」
「え?今から?」
「うん、いいブツが手に入ったの!」
「いいブツ?」
「そう!団地系のやつ!」
「奥さん系?」
「そうだよ!団○妻!」
「見る~行く~、でもおじさんやおばさんい
るんだろ?」
「今晩はね、お得意さんの宴会が入ってるか
ら帰りが遅いの!」
「んふふ、じゃあ家に帰って着替えてくる。
相葉ちゃんも来る?」
「おれがついて行ったらさ、夕飯食べて行け
って言われちゃうよ。そうしたら鑑賞会出来
なくなっちゃう」
「あっ、そうか」
「おれ、マックで待ってるよ」
「わかった!ダッシュで戻ってくる!」
おいらは走って家に急いだ。
久しぶりの相葉ちゃんと、これまた久しぶり
のエッチなDVDの鑑賞会!
相葉ちゃんの学校は男子校で、誰かがDVDを
入手するとそれが回って来るんだって。
おいらの学校は共学だからそんな貸し借りは
ないんだ、だって女子にバレたら身の破滅だ
もの。
相葉ちゃんも密かにネットで買ったりしてる
から、イイのがあると一緒に観ようってお誘
いがある。
やっぱおいらも男だからね、そういう大人DV
Dに興味があるわけですよ。
おいらは家で服を着替え、相葉ちゃんの待つ
マックへと急いだ。
*
相葉ちゃんとマックで落ち合い、ついでに夕
飯も調達して駅へと向かう。
近頃あった出来事を話しながら歩いていると
少し離れた場所に良い雰囲気の男女を見かけた。
おいらの学校の制服…
そして見慣れたイケメン……
「………翔くん…」
それは翔くんと彼女だった。
翔くんは彼女に微笑みかけ、彼女は頬を染め
て恥じらっている。
なんとも『青春の1ページ』的なシーン……
「彼女といる方が楽しそうじゃん…」
翔くんの笑顔を見て何故か胸がキリキリと痛
んだ。
やっぱり、朝の登校を断って正解だった。
翔くんはおいらなんかより彼女と一緒の方が
楽しいだろう。
おいらは翔くんのためを思って言ってやった
んだ、感謝しろよ……
もう痛みは無かった、その代わりぽっかりと
穴の開いたような喪失感が胸を占めた。
「どうしたの?大ちゃん」
黙り込み様子がおかしくなったおいらを、相
葉ちゃんが心配そうに見ている。
「…ん?何でもないよ、早く行こ」
おいらは余計な心配をかけてしまった事を申
し訳なく思って、何でも無いように振る舞っ
て先を急いだ。
これでいい…
おいらは翔くん離れしなきゃと思っていたん
だから、これでいいんだよ。