お山の妄想のお話です。




ダンススクール?

今時の中学生は塾ではなく、ダンスを習うの

か?

習っていると仮定して、あの子が今からレッ

スンを受けるとすると出てくるのは何時間先

だ?俺はここで待たなければならない?


………時間の無駄だ、合理的じゃない。

でも乗り込んで騒ぎを起こせばあの子に警戒

されて先生の有益な情報を得られないかもし

れない。


あくまで目的は情報だ。

余計な悶着を起こさず彼が出てくるのを待つ

事にした。


それから数時間、出入口が見える場所でひた

すら待った。

漸く階段を下りてくる少年の姿が見えたので

近付こうと一歩踏み出そうとした時、その後

ろにもう一人いる事に気付いた。


連れがいるのか…

忌々しさにチッと舌打ちした。

これだけ待たせて、まだ邪魔になる者がいる

とは。

しかしもうこれ以上待つ事は出来ない、怪し

い奴と警戒されても完遂しなければ。


少年は階段を下りきった所で止まった。

どうやら続いて下りてくる人物を待っている

ようだ。

俺は移動される前に話を訊こうと歩み出した

が、少年の後ろから現れた人影を見て咄嗟に

物陰に隠れた。


それは、先生だった。


何日もこの辺りを探して見付けられなかった

のに、少年をつけて辿り着いたここで出逢え

るなんて…


今飛び出せば確実に先生を捕らえることが出

来る、ずっと夢想してきたように腕に抱き込

むことも可能だ…

でも俺はそれをぐっと堪えた。


先生を見付け出し気持ちは昂っているが、

その勢いで対峙すればきっとまたあの人は逃

げるだろう。


ここは冷静になって先生の生活環境を探った

ほうがいい。

住居は必ず把握し同居人の有無、未婚かそう

でないかも確かめる必要がある。


先生が既婚だった場合は相手と別れさせる手

立てをとり、もし子供までいたら……


……そうだな、先生に似た子なら引き取ってや

ってもいい。

愛する人と共に子供を育てるなんて、絵に描

いたような幸せだろう。

同時にその子は先生を逃がさないための人質

にもなる。


そんな日々を想像して楽しくなった。

俺は今相当歪な笑みを浮かべているはずだ

こんな表情を見たら絶対に先生は恐怖するだ

ろう。


 先生の慄く姿を見るのも楽しいかもな、など

と考えながら歩き出した二人の後を気付かれ

ないようにつけた。




二人は以前見た時と同じに楽し気に話しなが

ら歩いて行く。

少年が懐こそうに先生を見上げ、先生は穏や

かにそれに答えている。


そんな姿に俺の胸の内ではまたチリチリと嫉

妬心が渦巻いた。

あんな少年に嫉妬か。大人気ないと嗤われる

かもしれない、けれどあの子は数年前の俺と

同じだ。


恋しい人に笑顔を向け、その人から微笑まれ

幸せを感じる…

あの子は純粋な恋心を抱くあの頃の俺なんだ


だから嫉妬する、そして早い段階で排除しな

ければとも思う。

俺の前に立ちはだかろうなんて、愚かなこと

を考える前に消えてもらおう。


多分それは簡単なことだろう、俺が先生を浚

い姿をくらますのもいい。

可哀想だがあの子は俺と同じ気持ちを味わう

ことになる。


……先生、本当にあんたは罪作りだな

俺の知らない数年間でいったいどれだけの哀

な子羊を生み出してきたのか。

その被害者達に同情を禁じ得ない



駅の手前迄来ると、先生と子羊は手を振り別

れた。少年は真っ直ぐ進み、先生は左に曲が

る。

そのままついて行くと、先生は線路を渡り駅

の反対側に出た。


どうやらあちらの駅前までは行かないらしい

どれだけ探しても見つけられないわけだ。

納得しつつも見失わないように追うと、先生

はレトロ感が漂う下町の商店街を抜けて住宅

地へと歩いていく。


そして見るからに単身用だと知れる小さな部

屋が並んだマンションへと入って行った。


3階の外廊下を行く姿を外から見つめ、部屋

を特定した。

1K程度の部屋だろうか、ここで誰かと一緒に

住むのはとても窮屈だろう。


きっと一人暮らしだ。

でもそれは確定ではないので後日改めて確か

めることにし、俺は元来た道を戻った。


目的地はダンススクール。

俺の中で先生とダンスは全く結び付かないが

少年と一緒に出て来たのだから、そこへ行け

ば情報が得られるはずだ。


ダンススクールに着くと入会希望者を装い見

学をし、壁に張られた講師の写真の中に先生

を見つけた。

案内をしてくれた女性に然り気無く話を振り

先生に関していくつかの情報を聞き出した。



一年位前からここで働きはじめた人気の高い

講師で、個人レッスンが殆どなので勤務時間

がまちまちなこと。

ダンススクールの借り上げた単身者用マンシ

ョンに住んいること。


……浮いた話は一度も聞いたことがない、とも

俺はそれを聞き一先ず安心した。

ライバルは多いだろうがそんな奴等を蹴落と

す自信はある。



今日先生について判明したことは

マンション3階の角部屋に一人で住んでいる。

未婚で、交際している相手もいない(ようだ)




これからじわじわと包囲網を狭める。

気付かれないように近づき、逃げられないよ

うに追い詰め、そして手に入れるんだ。



今度こそ先生の全てを








拗れすぎ